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ウルフ・ムーンの夜
【ハヤカワ文庫】
スティーヴ・ハミルトン
本体700円
2001/1
ISBN-4151718524
内山 沙貴
評価:A
決して揺らぐことなく一瞬のぶれも許さない安定したフライトで、人の繊細で柔らかい部分を力強い芸術に仕立てる。主人公アレックスの前向きな性格は、過去に受けた傷のせいでひどく脆くなっていて、ちょっとしたきっかけで彼の心はぼろぼろと蟻塚のように崩れてしまう。立ち上がれ、生きろ、闘え、と叱咤激励してやりたいけれど、常に死を近くに感じている彼は気づけば自暴自棄になって憎まれ口を叩いていて、なんともやるせなく切ない。しかし、この本は力強い。主人公は彼の知らないうちに彼の魅力が引き寄せた周りの人々に支えられていて、決して彼は倒れない。そんな安心感があり、落ち着いて心を預けられる本だった。
大場 義行
評価:C
恐ろしくタフな探偵アレックス。まだこんな探偵が居たのかと思ったが、ただただ恐ろしくタフなだけというのがいい。小洒落たジョークを飛ばし、ピンチにも動じない、それでいて事件を解決するという嫌なタイプではない。ある種のダメ探偵。いきなり依頼人がさらわれたかと思うと、ただずっとピンチの連続でぼろぼろになっても死なず、おかげで自分の力では事件を解決できなかったという、ダメな探偵だった。というかあのラストはありなのだろうか。彼のタフぶりを見るための物語でしかなかったと思う。
操上 恭子
評価:B
主人公のアレックス・マクナイトは、元マイナーリーグのキャッチャーで元警察官の 私立探偵。警官だった頃に撃たれた銃弾が今でも心臓の横に残っている。48歳、独身。中年のおっさんだ。ところが、おっとビックリの肉体派ぶりをみせてくれる。なにしろこの話の冒頭ではアイスホッケーのキーパーをやっているのだから。その後も、次から次へと肉体を酷使した活躍(?)をする。精神の方もタフで、「何もそこまでしなくてもいいのに」と思う程、一度自分が関わった事件にどこまでも執着する。カッコウのいいオヤジだ。今月の文庫班はシリーズ物が多い。この『ウルフ・ムーンの夜』も評判の良かった『氷の闇を超えて』の続編だが、これに関しては前作を読んでいなくても十分に楽しめる。
小久保 哲也
評価:D
中途半端にハードボイルドなので困る。展開も早く、会話もなかなか良いし登場人物もわりとメリハリがあるのだけどストーリーが平凡でつかみ所が無い。驚くような展開もなければ、しみじみとする共感もないし、オチもない。ものすごく喉が渇いたときに、気の抜けたソーダを飲むとそれはそれでおいしいのだけど、なんだかなぁという感じ。
佐久間 素子
評価:C
探偵廃業中なのに、頼られた女が失踪したことに責任を感じて、自ら事件に首をつっこんでいく主人公。いかにもハードボイルドな設定だが、適度に人を頼ることができる点が、好印象。ホッケーをして筋肉痛になる情けなさ。嫌々ながらの除雪シーンは、ジョギングのかわりか?おかげで、勘違いハードボイルドの気障ったらしさは感じない。地味な事件の割には最後までおもしろく読ませるし、脇役もいい。どれもいい線いっているのに、物足りないのは、きちんと決着がつかないせいだ。シリーズ物とはいえ、一冊でも勝負できるはずだ。カタルシスがないので、可もなく不可もなくといった印象に終わる。
山田 岳
評価:D
物語が動きだしはるのは50ページからやねんけど、とばしてまうのがお’しいほど、筆がさえてはる’。雪深い国境の町のふ’ゆをいきいきと描いてはる。はじめは評価Bにしたろかと思うたんやけどな・・・。じぶんを頼ってきたお’んなを守ってやれへんかったいうのんは、アメリカ人にとってそぅと’ぅ屈辱的なんやねんな。ワルをカナダの町まで追いかけはって、はんたいに麻薬所持の濡れ衣をきせられはるくらいに。もうやめときって言われてはるのに、一味のもんのロッジまで行かはって、か’ぎをこじあけたろ思わはるくらいに。か’ぎがあかへん言うて、トラックをつっこますくらいに・・・。あかんわ。気は確かでっか、この主人公? せっかくテンポよう、は’なしが進んではったのに・・・。こないなは’なしに、探偵作家クラブ賞でっか? はぁ(ため息)。
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