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勝手に目利き
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   天才伝説 横山やすし
  【文春文庫】
  小林信彦
  本体476円
  2001/1
  ISBN-416725610X
 

 
  石井 千湖
  評価:B
  有名な眼鏡ネタができたときの意外な背景が面白かった。あとは暴力沙汰とかボートとかのイメージだ。やすきよの全盛時にはまだ子供だったせいかご本人よりもモノマネのほうに馴染みがある。ダウンタウンのまっちゃんが電気を点けたり消したりしながら「おこるでしかし」と言うやつ。著者は原作を書いている映画がきっかけでやっさんと関わりを持つ。映画制作の現場の生臭さが興味深い。東京人の醒めた視点で語られる「天才・横山やすし」像。その破滅は自業自得で滑稽だ。才能を過信し周囲の人々に甘えては迷惑をかけ、人気が落ちて相方にも見限られ会社にもいられなくなる。それでも一度は天下をとった人間の凄みと繊細な心の哀れさは感じた。

 
  内山 沙貴
  評価:B
  著者と故人との間にある感傷を引きずったまま書かれる伝記は、こちらが目も当てられないほど陳腐なものに成り下がることが少なくない。故人と著者との間には、当たり前の一般論しか展開されず、主旨はわかるが、文章の質が極度に低下し、読むに耐えない。その点この著書はクールだった。好感度は非常に高い。横山やすしという人を私はよく知らないけれど、きっと感受性の強い人だったのだろう。一時の天才。繰り返された不祥事。なまじ才能があると、生きてゆく場所の無い世間……見捨てられた観の強いこの人は、それでも一所懸命、最後まで光を放って死んでいったのではないだろうか。なぜなら亡くなった後にたくさんの人が彼のことを何かしら悔やんでいる。素晴らしい人生ではないけれど、悪くない人生じゃないの?と、私は思う。だって彼はたくさんの人に好かれていた。そう、思う。

 
  大場 義行
  評価:C
  暴れまくる突破者横山やすしを冷静に眺める小林信彦の図。近づいてくると逃げて、それでもなお観察を止めない。どうしてもこういう評伝は全部ありのままを書いて、そのうえ最後には褒めちぎるのではないかと思っていたが、最後の最後まで小林信彦は観察者であった。観察者だけに、自分の知る横山やすししか書かない、そんな潔さすら溢れている。おかげで最後の横山やすしの記憶しかなかったが、漫才の頃を想い出させてくれたと思う。それにしても最後の一文があまりにも観察者の言葉なのが印象的だった。

 
  操上 恭子
  評価:E
  横山やすしはもっとずっとおっさんなのだと思っていた。亡くなった時まだ51歳で、あの漫才ブームの頃にやっと30台半ば、たけしとたった3つしか違わなかったということをこの本を読んで初めて知った。まあ、私に常識がないというだけのことかも知れないが。で、この本である。タイトルや帯や裏表紙を見ると、横山やすしの評伝のような物かと思うが、さにあらず。小説「唐獅子株式会社」の映画化の顛末を中心に、筆者・小林信彦が横山やすしにどうかかわったかを書いている。そして、この映画化の際のあれこれに、筆者はよほど罪悪感を覚えているらしく、贖罪というより言い訳に満ち満ちた1冊である。

 
  小久保 哲也
  評価:B
  中学校から高校時代、テレビの番組欄で「やすきよ」の名前を見つけるとわくわくしながら、その放送時間を待っていた。今でも、横山やすしの、メガネをまっすぐ伸ばした人差し指で直すしぐさや、あの声色を思い出すことができる。当時のお笑いの中では、ぴか一に光っていたのだ。そうした、「絶頂期」しか知らなかった私には、この本で描かれた彼の姿は、あまりにも哀しい。それほど、行間から立ち上がる、横山やすしのイメージは、生々しいのだ。淡々とした著者の視線から浮かび上がる「やっさん」は、笑い、泣き、苦悩する人間そのもの。もしかしたら、読まなかったほうがよかったかもしれないと思わせるほどに圧倒的な「人間・横山やすし」が描かれている。

 
  佐久間 素子
  評価:B
  書名は半ば皮肉だという。執筆動機は、やすしに対する「寝覚めの悪さ」だという。人が堕ちるのを間近に見ねばならない負のエネルギーは大変なものだろうし、迷惑をかけられるのは誰だって不愉快だ。著者はときに怒り呆れながらも、一定の距離を保ち続ける。ごくまれに、著者が客観を忘れ、感情をあふれさせるのは、やすしの性質や才能を惜しむときだ。ありきたりの賛辞を排除しようとしているのに、生まれてしまう感情は生々しく、胸をうつ。やすしの人生は、純粋とか天才とか、結局そうした言葉にかえっていってしまうのだ。複雑な余韻が残る。著者の関西人観はシビアで、異論もあろう。そういう意味でも面白い。

 
  山田 岳
  評価:A
  おい、コラぁ!こないしょーもないざれごと(書評)読んでるひまがあったら、さっさと注文せんかい! ど、どこを見とんのや! ここや、ここ!「天才伝説」や!おっこるでぇ’しまいにィ。わしを誰とおもうとんのや、あほんだらぁ。横山やでぇ、やすしやでぇ。(突然、メガネを頭のうえにもちあげて、涙をぬぐいはじめる)せやけど、キィ坊、なんでわいのこと見捨てはったん?なんで、こないしょーもない東京もんにわしのこと、書かれなあかんの?あれ?メガネ、メガネ・・・(うろうろと手探りで、さがしまわる)・・・あった!(メガネをかけなおして、タンカ切りながら、ねめつける)おい、コラぁ!しょーもない、わしのバッタもん(ニセモノ)見て、笑ろてるひまがあったら、さっさとこの本読まんかい!しばくど(なぐるぞ)、しまいにィ。(大阪の芸人には、まだまだ生々しくて書けない話の連続であった。合掌)

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