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松本 真美の<<書評>>

「不自由な心」
評価:A
『一瞬の光』が今イチ好きになれなかったし、結婚後の恋がテーマだと小耳にはさんだので、またズルい大人の自己弁護だったら聞きたかねえなと期待しないで読んだが…マイった!気持ちを鷲掴みにされた。5編の主人公はみな大人の男で、生き方も行動も私の好みではないのだが、<なす術なしの人生>がこんなに胸に迫り、<どうしようもない想い>にこういう浸潤力があるとは…。「夢の空」はエグい設定と思いつつ涙。久々に真摯な恋愛感情に触れた気がした。最近、身近でも、真に迫った恋心(!)は既婚者がらみの口からばかり吐露されてる気がして混乱してます私。とにかく、<不自由な心>という言葉にやけにぎくっとしたら、きっとその人にとってこの5編はたまらん世界です。はあ〜。
【角川書店】
白石一文
本体 1,700円
2001/1
ISBN-4048732668
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「そして粛清の扉を」
評価:C
『バトル・ロワイアル』には感動した。ありていに言えば、命のたいせつさと人を想うことのせつなさを学んだな私。単純に驚かされぶっ飛べたことも爽快だった。で、『バトル・…』と何かと比較されそうなこれだけど、第一稿としてならA。もっと書き込んで、ヒロインが事をしでかすまでの心身の過程や生徒達の内面や意外な役割だった○○の苦悩をちゃんと描いてくれないと。だって、そういう背景があってこそ、すっごくハジける話じゃん。確かに、展開に勢いはあるし、よくもこんな話を書いたもんだ、とは思ったけど。むしろ漫画の方が合ってる世界だと思った。漫画だと逆に検閲されちゃうかもな。でも、スピード感のある浦沢直樹とかの絵だとマジで面白いと思う。直樹で漫画家でも山本直樹さんじゃありません、悪いですけど(誰に?)。
【新潮社】
黒武 洋
本体 1,700円
2001/1
ISBN-410443101X
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「Maze」
評価:A
文章を体型に喩えると(なぜかと聞かれると困るが)すっかりシェイプアップしたね恩田陸。今までの、どこか過食と拒食の狭間で揺れてる少女のような<饒舌>という不安定な肉は削がれ、無駄がなくて瞬発力がある、指先まで神経の行き届いた大人の体型に鍛えられた感じ。姿勢のいい文章と話で最後まで気持ちよく読めた。このバランスのよさが逆に若干物足りないと思うのはファンのわがまま…ですね、ハイ。極西アジアにある、人が消えるという豆腐型遺跡(?)にまつわる物語。その地自体が世界の果てで、豆腐の周囲は鉄条網的植物が護衛し、調査にきた面々も一癖も二癖もある奴らで…とくりゃあ、つまんないわけない。モノも人も丁寧に且つ思わせぶりに伏線張りまくって描かれているので、展開がどう転んでも説得力があるし、頁をめくるのが楽しかった。「理解しようとした瞬間から世界は理解できなくなる」というコンセプトは魅力的だし、コンセプトに話が負けてない。やっぱりヴァージョンアップしてますね作者。で、常野の話はいつ読めるの?(しつこい!?)
【双葉社】
恩田陸
本体 1,500円
2001/2
ISBN-4575234079
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「The Twelve Forces」
評価:A
きゃあ〜!こういう小説を待ってました。初めて浅田次郎の『きんぴか』を読んだときのめくるめく可笑しさと感動の嵐を思い出した。…あの頃のジローは好きだったゼ!つかこうへい→ジローと続いた、私を<笑かして泣かしてカンドーさせてくれる一挙三得小説>の継承者がようやくここに見つかりました。パチパチ。最初の3頁で5回は爆笑したな私。でも、感動や感激より笑いこそ相性なので、この小説もつまんない人はいるってことね。他の採点員の方の感想が楽しみ。実物はメチャ誠実そうな中川さ〜ん、いかがでした?私の<残尿感>は忘れて下さいね〜。あ、私信に使っちゃマズイっすね。とにかく、バカだけど秀でててふざけてるけど真剣な話で、しかも最後はせつないファンタジーとくりゃあ、私には黄金郷で桃源郷小説なのだ。登場人物はどいつもこいつもキャラ立ちしててイッちゃってて、展開もワクワク、言葉のセンスもピカピカ…とにもかくにも心から堪能しました。
【角川書店】
戸梶圭太
本体 1,600円
2000/12
ISBN-4048732617
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「Rの家」
評価:B
しかしカタイ著者名ですね。明治維新頃の人みたい。よけいなお世話か。名前のせいかはわからないが今まで一度も読んだことがなかった。で、初体験はどうだったかというと、かなりぐっときたし幻惑されました。特にラスト1頁は超好み(!)で、「こういう終わり方されたらしばらく忘れられないじゃないアタシ」と、まるでプレイボーイに引っ掛かった世間知らず女のような台詞を言ってみる…。とにかく、登場人物の言動も展開も全く予測がつかなかった。主人公も従姉も伯父も父も祖母も父の愛人もRの家自体も、実際に自分の近くに存在したら変わりモンでかなりメンドくさそうだけど、脆くてしたたかで、繊細で逞しくて魅力的。リアリティとは違った意味での「現実」の隠れ一面をまともに突いてる気がした。特に失踪した順子さんのキャラが秀逸。怖いくらい。文三どんの他の小説も読んでみようっと。
【マガジンハウス】
打海文三
本体 1,800円
2001/1
ISBN-4838712839
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「歴史を考えるヒント」
評価:B
これも採点するんですか?一応しましたけど。実は私は教えてフェチ。人にモノを教わるのが大好きなのだ。ここ数年は花粉症の時期になるたび『免疫学個人授業』をひも解いては「今年もこれでアレルギーの原理は完璧。あとは治れば超完璧。それにしても南伸坊が羨ましい。私も多田先生に直に教わりてえ!」と垂涎(+鼻水)状態。今回は自分で発掘した「教えてワールド」じゃなかったけど面白かった。日本、人民、土人、百姓、などという言葉の本来の意味や、逆さに見た日本地図の違和感や、関東と関西で違う被差別民に対する意識や、翻訳語の難しさ、などなど目ウロコでした。手印、間人なんて言葉は下世話な人間には別な言葉と誤解されそうで心配だし(バカか私)、中世の遊女には「好色の道」も和歌や管弦と並ぶ芸能のひとつだったと知ったことも非常に大きな収穫(!)でした(やっぱりバカだな)。
【新潮選書】
網野善彦
本体 1,100円
2001/1
ISBN-4106005972
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「バーバリー・レーン28番地」
評価:C
同性愛を含めたフリーセックスとかマリファナとか、舞台である1970年代のアメリカ、それも西海岸がリアルに描かれている…らしいんだけど、あまり感じられず。かといって現代っぽいか、というとそういうんでもなく、つまり遠い話だった。舞台や時代が遠い小説なんていくらでもあるわけで、それがどう自分に近づいてくれて、あるいは自分がいかに近づきたくなるかが読書の醍醐味だと思うのだけど、残念ながら遠景のままだった。全6巻シリーズのしょっぱなということもあって、まだストーリー的にプロローグだからかもしれないけど、ヒロインにもこの時点ではまだ魅力を感じず。登場人物では下宿屋のマドリガル夫人が唯一の魅力的キャラ。…なんか、われながら味気ない感想。
【ソニー・マガジンズ】
アーミステッド・モーピン
本体 1,600円
2001/1
ISBN-4789716465
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「夢でなければ」
評価:D
刊行前に映画化決定?でドリームワークス?めでたくてけっこうじゃないっすか。でも小説と映画は全く別物じゃん。まずはピンで勝負して欲しい。小説は活字でしか描けない世界が絶対あって、それこそが魅力だし力だと思うのだ私は。勝手に映画化を想定して小説を読むのは楽しいけど、映画化が小説の唯一の売り(とは誰も言ってないか)じゃ本末転倒って気がする。新手の角川商法か。…ってなわけで肝心の内容ですが、ストーリーだけが超特急で通過して終わりって感じだった。琴線に触れず。例えば、後半、ローレンを喪ったと思って虚脱状態になるアーサーの描写ひとつとっても、これで揺さぶられる人いるのか。ただ、アーサー母は怖い。死してなお息子を支配…というより絡めとろうとするホラー母。笑ったけど。この部分は読む価値ありかも。
【早川書房】
マルク・レヴィ
本体 1,600円
2001/1
ISBN-4152083271
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