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   Maze
  【双葉社】
  恩田陸
  本体 1,500円
  2001/2
  ISBN-4575234079
 

 
  今井 義男
  評価:C
  ある条件下で人間が消失してしまう古代の迷路。そこへ調査に訪れた曰くありげな男たち。さてこの尋常ならざる建造物は人間の干渉に屈するのか、それとも解読しようと近寄る者が手もなく異界へ直行させられるのか。読了と同時に頭の中を疑問符が現れては消えた。迷路の存在理由について中盤で語られる仮説は格別意外ではないが、それなりに機智に富む解釈だったし、ひとひねり後に明かされる真実よりもよほど面白みもあった。提示された謎に合理的な謎解きを求める人にとっては、これでよかったのかもしれないが、私は肩透かしをくらわされたようでどこか物足りない。列挙された怪異現象の説明に整合性をもたせるあまりに、リドル・ストーリーとしてもいささか切れ味に欠ける結果となった。

 
  原平 随了
  評価:D
  アジアの西の果て、『存在しない場所』と呼ばれる丘の上に四角くて白い不思議な建物があって、迷路状のその内部に入った人間が、消失してしまうというお話。これはいったい、SFなのか、ミステリーなのか、ホラーなのか、ファンタジーなのか……、と、戸惑いつつ読み進めていくうちに、いつの間にか、〈人間消失〉の謎は解明され、しっかり、ラストを迎えてしまっている。もちろん、ジャンル分けなどどうでもいいことだし、読み手を翻弄することが、この作品の狙いだったのかもしれないが、しかし、まるで、暗闇の中で手品を見せられたような、釈然としない気分だ。本当に人間が消えたのか、あるいは、ただ、暗くてよく見えないだけなのか……。『ライオン・ハート』という傑作の後で、はっきり言って、これは、かなりつらい。


 
  小園江 和之
  評価:D
  うーん、これにはまいりました。だってどこが面白いか分からないんですよ。アジアのどこかにある不思議な場所の謎の建造物。その中では過去、数百人の人間が忽然と消えてしまったのだという。と、ここまではいいんですが、その謎解きをしていくうちに意外な展開になっていくと思っていたら、「ええー、そんなぁ」という結末。なんだか昔からあるB級映画のパターンのようで、もしかしたらこれは筋立てに拠って立つ小説ではなく、奇妙な風景の中で生じる、現実と幻覚の境界があいまいになっていくような感覚を味わうべきなのかもしれません。けれど私にはその味が分からない、ってことなんでしょうか。

 
  松本 真美
  評価:A
  文章を体型に喩えると(なぜかと聞かれると困るが)すっかりシェイプアップしたね恩田陸。今までの、どこか過食と拒食の狭間で揺れてる少女のような<饒舌>という不安定な肉は削がれ、無駄がなくて瞬発力がある、指先まで神経の行き届いた大人の体型に鍛えられた感じ。姿勢のいい文章と話で最後まで気持ちよく読めた。このバランスのよさが逆に若干物足りないと思うのはファンのわがまま…ですね、ハイ。極西アジアにある、人が消えるという豆腐型遺跡(?)にまつわる物語。その地自体が世界の果てで、豆腐の周囲は鉄条網的植物が護衛し、調査にきた面々も一癖も二癖もある奴らで…とくりゃあ、つまんないわけない。モノも人も丁寧に且つ思わせぶりに伏線張りまくって描かれているので、展開がどう転んでも説得力があるし、頁をめくるのが楽しかった。「理解しようとした瞬間から世界は理解できなくなる」というコンセプトは魅力的だし、コンセプトに話が負けてない。やっぱりヴァージョンアップしてますね作者。で、常野の話はいつ読めるの?(しつこい!?)

 
  石井 英和
  評価:D
  人跡稀な荒野に建つ、伝説の構築物の謎を探る。提示された、ある種神話的な「謎」は魅力的だが、話はこちらの期待するアクティヴな方向には進まない。が、不満を言ってみても仕方がないのだろう。著者は構築物を、人の心の迷路に降りて行くツ−ルとして使っただけなのだから。もっとも、そこで起こる事件とその顛末や、行われる様々な考察は、私には独りよがりの垂れ流しにしか思えず、この作品自体、締まりのない印象しか残らなかった。さらに、主役状態で出ずっぱりの「男なんだけど女性の言葉でしゃべり、行動も考え方もまるで女性である人物」が気色悪くて、辟易させられた。女性作家の作品に時々登場するこの手の人物。このようなキャラクタ−を描く事に何の意義があるのか?その謎をこそ探ってみて欲しい。

 
  中川 大一
  評価:B
  うおおっ、カッチョいい装幀!(泡坂妻夫+川又淳)本年度WEB本の雑誌課題図書装幀部門金賞(いま考えたの)に内定。この趣向はウエブ上じゃ決して分からないから、本屋さんで実物を見てみてね。さて、西アジアの果てに立つ矩形の構造物が主人公。そこに迷い込むと、人があっという間に消失する。中は一体どうなってるんだろ、という興味でもってぐいぐいひっぱる。やがて明らかになる真相は……やや失笑もの。それまでファンタジックな筆使いで不思議な感じが程よく出ていたのに、唐突に具体的な国名が記され、ストーリーは中途半端な現実に着地する。でも失笑って、必ずしもネガティブな感想じゃないんだね。上方漫才の締め言葉に近い感覚。「もうアホらしゅうて、君とはやっとれんわ!」

 
  唐木 幸子
  評価:B
  四角くて白い、大きな豆腐のような構造物。そこに刻まれた、人間が一人づつしか通れないような迷路を入っていくと途中でフイと消えうせる、という言い伝えから物語は始まる。全員が行方不明になるんじゃなくて戻って来れる者もいる、っていうのが不思議、とつい引き込まれて途中で止められない面白さだ。しかし、終盤、謎解きの部分にさしかかると夢から醒めたみたいで、なーんだという気分になってしまった。ファンタジー苦手、天使もカカシも駄目、という私がこんなことを思うのも珍しいのだが、もっと謎のままで終わってくれても良かったのではないか。巷にはもっと無責任にわからないままでオシマイの小説が多いことを思うと、全てに答えを出してしまう著者はきっと理知的で律儀な人なのだろうなあ。

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