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   Rの家
  【マガジンハウス】
  打海文三
  本体 1,800円
  2001/1
  ISBN-4838712839
 

 
  今井 義男
  評価:B
  なんの義務も果たさずひたすら怠惰に日々を過ごすことができたら、と考えてはみたものの大した展望は見えてこない。放埓にもある種の才能が欠かせないのである。つまりRの家は普通の神経をもっていたらそうは簡単に踏み込めない領域ということだ。この家に出入りする人間は明らかに我々とは違う時間軸を生きている。親と子について、男と女について、そこで語られるなにもかもが現実から遠く遊離している。それは傍目に羨ましくもあり、腹立たしくもある。腹立たしさがあることを自分で認めるのもさらに腹立たしい。それくらいこの小説は読む者の心をかき乱す。だから私は彼らの内の誰とも関わりになりたくない。ただ一人<家>を拒絶し、手の込んだ失踪を遂げた順子だけが近しい存在のように思えてくる。彼女の心境も全然まともではないが。

 
  原平 随了
  評価:A
  打海文三の語り口は絶品だ。志水辰夫に匹敵すると思う。端正で、もの静かで、それでいて、内に秘めたものを強く匂い立たせる、個性的な文章だ。自殺した母親のことを、〈彼女自身の人生を生きた一個人〉として認め、〈順子さん〉と呼ぶ17歳の〈ぼく〉は、高校を休学し、まるでサンクチュアリのような〈Rの家(ロビンソン・クルーソーの家という意味らしい)〉に身を寄せたことで、図らずも、〈順子さん〉の秘密を探り当ててしまう。それは同時に、バラバラの〈ボク〉の家族が、一時、寄り集まり、それぞれの生き方を求めて、また離散する話でもある。物語的な妙味にはやや欠けるかもしれないが、登場するどの人物も、それぞれに忘れ難いキャラクターで、常にギリギリのところで世界と向かい合って立っている、そんな緊張感のみなぎっているところが、たまらなく魅力的だ。


 
  小園江 和之
  評価:A
  実はあんまり期待してなかったんですが、妙にフラットな語り口に魅かれて読み始めたら、なんとも不思議な味わいでした。最近よくある、十代の馬鹿言葉がちりばめられた薄味饒舌小説とは一線を画しています。会話文に無駄がなく、使われている言葉もなかなかです。まあ、この辺はいやらしさと紙一重のところですが、あえてそうしているのかもしれません。他人からの受け売りだけで人生が分かっているかのようにふるまう高校生なんて、そこら中にあふれてますが、主人公はパクリの知識だってことを隠したりしないんで、読んでて不快ではありません。性欲やら情欲の取り扱いについて、人間ほど学習しない動物も珍しく、これから先も相変わらずそれらに振り回されてくっついたり離れたり、家庭を作ったり壊したりしていくのでしょう。そのしょーもなさを抱えつつ人は死ぬまで舞台の上にいなきゃいけない。これから読む人は決して先にラストを覗いてはいけません。あたしゃ最後の一行で不覚にも泣いちゃいましたよ。

 
  松本 真美
  評価:B
  しかしカタイ著者名ですね。明治維新頃の人みたい。よけいなお世話か。名前のせいかはわからないが今まで一度も読んだことがなかった。で、初体験はどうだったかというと、かなりぐっときたし幻惑されました。特にラスト1頁は超好み(!)で、「こういう終わり方されたらしばらく忘れられないじゃないアタシ」と、まるでプレイボーイに引っ掛かった世間知らず女のような台詞を言ってみる…。とにかく、登場人物の言動も展開も全く予測がつかなかった。主人公も従姉も伯父も父も祖母も父の愛人もRの家自体も、実際に自分の近くに存在したら変わりモンでかなりメンドくさそうだけど、脆くてしたたかで、繊細で逞しくて魅力的。リアリティとは違った意味での「現実」の隠れ一面をまともに突いてる気がした。特に失踪した順子さんのキャラが秀逸。怖いくらい。文三どんの他の小説も読んでみようっと。

 
  石井 英和
  評価:E
  帯に引用された「世界は解読されている。せめてそのことは認めようじゃないの」なんて作中のセリフにゾッとしたのだが、悪い予感通り、座り込んだ登場人物たちが延々と生硬な議論を交わし続ける「お座談小説」だった。少しは体を動かさないと健康に悪いぞ。膨れ上がる自意識ではち切れんばかりで、「世界は解読されている」なんて話をするのが重大事に思える、そんな年頃の人々にとってこれは、切実な小説なのかも知れない。学生時代、友人がこの種の小説に入れ込んでいた記憶もある。もっとも、私も付き合いで読んではみたが、感想は今と同じ、つまりさっぱり面白くなかったのだが。そして今日も、実際の数倍の大きさに膨れ上がり、それゆえ極端に脆くなっている青春期の自我を守るために座談は続く。人生の真実に関する「大発見」に次ぐ「大発見」を繰り返しながら。

 
  中川 大一
  評価:D
  ぬっ、訳の分かんないタイトル。課題図書じゃなければ手にとらんぞ。だが開いてみると、新鮮な果実をかじったような、みずみずしい文体。17歳の少年が従姉と伯父とともに、超俗的なような下世話なような、何だか不思議な暮らしを繰り広げる。その舞台が海辺の崖の上に立つ奇妙な建物=Rの家なんだ。こりゃあ期待がもてる。そう思ったよ、はじめは。しかしっ……短編か、せめて中編だったらよかったのにねえ(小さなため息)。さぞ鮮烈なイメージを残す、きりっとした作品に仕上がったと思うぜ。それを、なまじ母の失踪の謎を軸にしたミステリ仕立ての長編にしたもんだから、だれちゃって。読み出す前に抱いた、思わせぶりな書名に対する警戒心は、不幸にも最終的には当たっちゃったみたいだね。

 
  唐木 幸子
  評価:C
  家を新築して、さあ一族が同居というときにお嫁さんが海で自殺。残された一人息子が成長して、母親を追い詰めた秘密を追う、というストーリーだ。一応、推理仕立てにはなっているのだが、語り手であるこの息子も含めて、父、父の愛人、従姉、伯父、、、という登場人物が皆、浮世離れした現実感のない人々で、話の進み具合に緊張感がない。一読すると若い女性が書いた小説のような繊細な感性が漂うが、これが50代の男性の作品なのだ。違う書き方をすれば比較的単純な話になると思うが、少しづつ登場人物を増やして同じ事件を語らせては真相に近づいていく、という構成になっているので少々、読みづらい。頭の冴えているときに一気に読もう。

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