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   「夢でなければ」
  【早川書房】
  マルク・レヴィ
  本体 1,600円
  2001/1
  ISBN-4152083271
 

 
  今井 義男
  評価:A
  昏睡状態から孤独なドッペルゲンガーとなった女性を救うために若い建築家が東奔西走する。設定がいきなりだからさぞかし奇を衒った物語だろうと思ったらさにあらず。生を全うする過程で次代へ語り継がねばならない大切なことが、極めて率直に描かれている。全体に真面目すぎるのであえて気になったことを少しだけ。まだ死んでもいないのに幽霊呼ばわりは失礼だ。それとも<生霊>という概念が原作では抜け落ちているのだろうか。それにこの主人公、他人思いにもほどがある。勝手に現れておいてやつぎばやに質問をまくしたてる女性の性格も難点。私ならそれだけでさっさと逃げ出している。建築家の母、母の死後も屋敷を守り通した男、共同経営者の友人、退職を控えた刑事、女性の上司でもある医師、一人残らず善人である。善人たちによるやや善意過剰な小説などと皮肉るなかれ。なにもこの世の闇を抽出することだけが作家に課せられた使命ではない。

 
  原平 随了
  評価:C
  スピルバーグが映画化するんだそうな。まるで、それを狙って書かれたかのような、おしゃれでロマンチックなゴースト・ストーリー。それ以上でもそれ以下でもないが、そこそこ楽しめることは間違いない。舞台はサンフランシスコ。若き建築家の主人公は、引っ越してきたアパートで、一人の女性と出会う。が、その女性は、何と、部屋の元の住人であり、交通事故で昏睡状態に陥った女性の幽霊(生き霊?)だった。……という、どこかで読んだか見たかしたような、そんな現代のおとぎ話なのだが、彼女が安楽死させられそうになり、主人公は病院から彼女の身体を誘拐してしまう。この辺りに、多少、オリジナリティが感じられるかも。映画の方は、スピルバーグなんかじゃなくて、ウッディ・アレンが撮るなら、けっこう、おもしろいんじゃないだろうか。もちろん、主役はウッディ・アレンだ。


 
  小園江 和之
  評価:B
  恋愛が体感時間を変えてしまうってことは、たしかにあると思います。まして本書のような特殊な状況下ではなおさらでしょう。ただ相手の女性が若くて美人でなきゃ成り立たないんだろうなって気はします。だって、これが老婆だったらただの怪談噺だもん。そういう意味でも非常に映画的な作品です。主人公の母親に関する回想部分がやや人生訓ぽくて、ちょっとダレますが、描かれる情景は美しく、最後の着地も一回転までは行かなくても半ひねり状態で小気味がいい。どんな人でも一生に一回だけは傑作を書ける、なんて言いますが、二番煎じのきかない素材だけに次が続くかどうか。そういえばH・F・セイントも一発屋だったような……。

 
  松本 真美
  評価:D
  刊行前に映画化決定?でドリームワークス?めでたくてけっこうじゃないっすか。でも小説と映画は全く別物じゃん。まずはピンで勝負して欲しい。小説は活字でしか描けない世界が絶対あって、それこそが魅力だし力だと思うのだ私は。勝手に映画化を想定して小説を読むのは楽しいけど、映画化が小説の唯一の売り(とは誰も言ってないか)じゃ本末転倒って気がする。新手の角川商法か。…ってなわけで肝心の内容ですが、ストーリーだけが超特急で通過して終わりって感じだった。琴線に触れず。例えば、後半、ローレンを喪ったと思って虚脱状態になるアーサーの描写ひとつとっても、これで揺さぶられる人いるのか。ただ、アーサー母は怖い。死してなお息子を支配…というより絡めとろうとするホラー母。笑ったけど。この部分は読む価値ありかも。

 
  石井 英和
  評価:C
  事故で昏睡状態の女性の霊体と恋仲になった男が、彼女の「本体」を、安楽死から守るために病院から盗み出し、という粗筋を読み、期待したのだが・・・登場人物は無駄話ばかりしていて物語は遅々として進まず、波瀾万丈の展開は、ついに訪れることはない。さらには何故か途中で主人公の母親に関する思い出話が始まり、それはついにはメインのスト−リ−を凌駕しつつ、延々と続く。なんなんだ、これは?などと文句を言うのは筋違いなのだろう。著者ははじめから、私が期待したような異常な状況設定が生み出す面白話などを書く気はない。おそらくこの物語は、私にとっては「無駄」と感じられる部分に生と死と人生の豊穣を読み、感動できる人々のものなのだろう。(と言うか、著者は自分の「想い」に陶酔し過ぎてはいないか?ハナについて、私は付き合いきれませんでした)

 
  中川 大一
  評価:B
  立て板に水のような文章で、一気読み。一気に読みすぎて、何が書いてあったか覚えていない((爆))。いやマジで、時々立ち止まって考えさせる部分がないと、作家の語り口のうまさしか印象に残らない。確かに、母から息子への手紙の場面では流れが滞留する。横板に餅、本来は読ませ所なのだろう。でもこの手紙、いいことが書いてあるとは思うが、物語の骨格との有機的な関連は薄い。唐突な印象なんだね。むしろ私は、男が女に惹かれるプロセス、言い換えると、主人公が基本設定である超常現象を受け入れていく過程、をじっくり描いてほしかった。この本、映画化決定だって。女の子を誘うなら、前もって諸採点員兄姉の意見を参考にして、カノジョに蘊蓄を垂れると効果テキメン……いや逆効果かな(大爆笑)。

 
  唐木 幸子
  評価:A
  物語の冒頭で、若く美しい女医のローレンがいきなり交通事故に遭う。脳死状態の彼女の体から抜け出た魂が、誠実な建築家アーサーの前に現れて、、、、という、最初から映画化することを念頭にして書かれたようなラブ・ストーリーだ。ローレンは何故かアーサーにしか見えない存在なので、おまえは誰と話してるんだ、どこを見てるんだ、と幽霊モノにありがちなコメディータッチのシーンが多少、鼻につく。でもまあ読みやすいし、Bかな、と思いながら読んでいたところ、最終章で思いもかけない結末に唸った。こうなると思っていたよ、という勘の鋭い読者もいるのだろうけれど、私は剣道で言うといきなり、面!と一本取られたような驚きであっけに取られた。それまでの通俗性を一気に埋めて余りあるAだ。

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