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勝手に目利き
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   悪徳の都
  【扶桑社ミステリー】
  スティーヴン・ハンター
  本体(上下とも)781円
  2001/2
  (上)ISBN-4594030777
  (下)ISBN-4594030785
 

 
  内山 沙貴
  評価:D
  映画館で映画の上演中にものすごい迫力のあるシーンの後、物静かなシーンに移ったときに感じる疎外感に似ている。スピード感のあるストーリィは、ビュンビュン飛ばす特急列車のようにゾクゾクしたし、爽快であるのに、なぜか本気になれない。厚いガラスのこちら側から、じっと向こう側を眺めていて、決して役者達と同じ舞台に立つことが出来ない。カメラのフラッシュのように、一瞬強烈な光を放って、その時は非常に華やかな色を見せるのに、後になって振り返って見ればそこには打ち放しのコンクリートしかなかった。そんな、ちょっと“他人事”の感じがした。読んでいる間はおもしろいと思ったのですけどね。

 
  大場 義行
  評価:C
  この物語はバグジーやミッキー・コーエン、アル・カポネなどの暗黒街の顔役から、ハリウッドの大物まで登場し、巧く虚実の狭間に存在している。ところが、これを重視しすぎている気がしてならない。はっきり云って迫力不足。武装強盗団というフレーズでこちらは無意味にしかも異様に盛り上がっているのに、バグジーとかいいじゃんそんなの。本書のような小手先の器用さよりも、「狩りのとき」のような単純で豪快な物語の造りの方がスワガーには合うのではないだろうか。どうせスワガー家の男どもには弾丸が当たらないのだから。

 
  操上 恭子
  評価:A+
  とにかくアールがカッコいい。戦争の英雄で、射撃の天才で、強くて、強い責任感とリーダーシップがあって、そして運が強い。もう完璧なヒーローだ。惚れた!しかも、不幸な少年時代のトラウマと戦争神経症の可能性という爆弾をかかえており、それは更なる魅力ともなり得るだろう。私個人としては、冒頭の飲んだくれて酒に逃げようとしている様は、ないほうが良いような気がしたが。アールの息子ボブの物語が先に書かれていて、アールの運命がもう決まってしまっているのが残念だ。もうこれ以上アールの活躍は読めないだろうから。舞台は太平洋戦争直後。アメリカの温泉(湯治場)歓楽街。ラスベガス以前のアメリカの娯楽事情が、面白い。また、たった五十数年前なのに、南部とはいえ、黒人の地位がこんなに低かったことも驚きである。※アールは第二次世界大戦の大平洋戦線の英雄なので、敵役の代名詞として日本人が出てくるのが、人によっては気になるかもしれない。(A+は、AとAAの間)

 
  小久保 哲也
  評価:E
  計3回挑戦した。そのたびに、40ページくらい読んで力尽きる。なぜなんだ?結局120ページを超えたあたりでダウン。なにが合わないのだろうか?ひとつには、主人公が置かれている状況がイメージとして浮き上がってこないのだ。なぜなんだろう?ただただ文章を追っているだけ。ストーリーが進んで行くだけ。登場人物の会話も、なんとも説明的。まるで台本を棒読みしている役者の芝居を見ているように感じる。主人公との一体感とか、その状況への没入というのが、まるで起こらない。不思議だ。まったく不思議だ。スティーヴン・ハンターといえば、本屋でよく平積みされていたが、今まで読んだことがなかったので、かなり期待していたけれど、無念の敗北です。誰か、スティーヴン・ハンターの読み方を教えてください。。。。

 
  佐久間 素子
  評価:C
  第二次大戦の英雄でありながら、絶望感にさいなまれるアールは、ギャングの牛耳る「悪徳の都」の摘発部隊の訓練を要請される。厳しい訓練、摘発時の銃撃戦を本筋に、利害入り乱れる人間関係、アールのトラウマを緻密に描いて、最後までやめられない。だからおもしろくないことはないのだが、どうにも好きになれない作品であった。そもそもアールを英雄にしたのが、硫黄島の戦功、つまりは「ジャップ殺し」なわけで、日本人としては何とも複雑なプロフィールだ。アールの抱える虚無感も、自殺願望も、戦争や銃撃戦という場では英雄行為と変化する。これが、いたましいというより不愉快だった。的外れは承知のうえだが、敵にしろ味方にしろ、大勢の無価値な死にっぷりが割り切れない。

 
  山田 岳
  評価:A
  56ページまで’は、主人公アールの紹介やねんけど、太平洋戦争の硫黄島戦がどないなもんやったかわかって、おもわぬひろいもんした感じや。けっこうびびってはったんやな、アメリカさん’も。戦争がおわって「ふぬけ」にならはったのも、日本の兵隊さんとおなじやし。アーカンソーのギャング撲滅の指令をうけてたちなおりはったのも、なんやインドネシア独立戦争に協力しはった日本の兵隊さんみたいや。あかん。よけ’いなところで字数くってもうた。アーカンソーのカジノがつぶれはったさかい、いま’のラスベガスの繁栄がある’。歴史がある’から、現在の姿がある’。歴史をつくらはったおとこた’ちのドラマやねん。(フィクションやけど)

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