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小久保 哲也の<<書評>>
文庫本 今月のランキング
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Queen

「紙婚式」
評価:B
一番身近な他人同士というのが夫婦であると、改めて感じさせる。ふとした行動や目配せから垣間見える相手の心の中には、自分が知ることの無いさまざまな想いが渦巻いているのかもしれない。未婚の人にも、結婚して長い人にも、お勧めの作品。短編集なので、すいすいと読めるけれど、短編とは思えないほどのイメージが残る。できれば一編づつ、時間をかけて読みたい。でも、これを読むと、迂闊には結婚できないなぁと、しみじみと思ってしまうかも。。いや、逆に面白そうだから早く結婚してみたくなるか?

【角川文庫】
山本文緒
本体 533円
2001/2
ISBN-4041970091
●課題図書一覧

「旅に出ても古書店めぐり」
評価:C
本にまつわる様々な話題を取り上げながら、本と向き合うことの楽しさを十分に感じさせてくれる。全体に漂う、古本屋巡りの楽しみは、著者がほんとに好きじゃなければ、描けないことばかりだ。「ドラキュラ」創作に係わる部分は、とても面白かったものの、知らない作家の生い立ちなどを長々と説明する場所は、はっきり言って、つまらない部分も多い。そういう意味では、オタッキーな活字中毒者向けと、言えなくも無い作品。もちろん、会話や情景描写は面白く、引き付けられるのだけど。。。
【ハヤカワ文庫】
ローレンス&ナンシー
本体 720円
2001/1
ISBN-415050248X
●課題図書一覧

「仲蔵狂乱」
評価:B
江戸時代の人気歌舞伎役者、仲蔵。彼の波乱の生涯をつづったこの作品。ページを読み進むごとに、物語にのめり込んで行き、孤児から千両役者まで駆け上がる主人公の姿から目を離すことができない。難点を言えば、そのときどきの主人公の年齢が分かり難いこと。気が付くと30歳になっていて、おおっと思うと50歳になっていたりする。もっと、主人公にとっての時間の流れを感じさせてくれれば文句無しのAランクだったのに、惜しい。でも、気になったのはそこだけ。時代小説ビギナーの私が読んで、まったく問題ないこの作品。ある意味、宮部みゆきの「怪し」と同じように、時代小説の枠を超えていると言える。最近のTVドラマで「松たか子」のファンになって、歌舞伎ってどんなものなのだろう、と疑問に思っている人にもお勧め。
【講談社文庫】
松井今朝子
本体 752円
2001/2
ISBN-4062730715
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「人魚とビスケット」
評価:C
これは一体なんなのでしょう?
「海洋ミステリー」とか「漂流事件の謎」とか聞くと、自然に気持ちが盛り上がってくるではないですか。しかも物語り開始早々ミステリー心をくすぐるような、新聞個人広告。よーし。来た来た来た。久しぶりに来ましたねぇ。と、ちょっと半笑いで読み始めたのだけれど、なんですか、これは?どうなっているんでしょう?言ってみれば、「松坂牛」と書いてあるお歳暮を貰って、喜んでふたを開けると、「高級松茸」の詰め合わせだったような、そういう作品ですよ。これは。いや、そりゃ松茸はおいしいですよ。好きですよ。炭火であぶって醤油をかけて食べると、ほっぺたが落ちますよ。ええ。でも、箱には「松坂牛」って書いてあるじゃないですか。ね?高級松茸だからいいでしょって言われてもそりゃなんだか、納得がいかないなぁ。。。うーむ。。。
【創元推理文庫 】
J・M・スコット
本体 620円
2001/2
ISBN-448821102X
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「永遠に去りぬ」
評価:B
非常に重厚だ。プロットもそうなら、翻訳もそうだ。ストーリーに流れる時間は、ゆったりと、しかし引き返せない力を感じさせる。
 多くの登場人物達も、それぞれに自分の生活を持っており、彼らには彼らの物語がある。作者が注目しようがすまいが、彼らは確かに息をしているのだ。そうして彼らの、優しさや、哀しさや、そういった人生すべてを紡いで、物語が進んで行く。そしてストーリーも二転三転し、読者は、長い物語に、夢のように包まれていく。
「稀代の語り部」とはよく言ったものだ。後半、ほんの少しサスペンス小説っぽい慌ただしさが作品を軽く感じさてしまうが、そんなもの全体からみれば、たいした問題ではない。旅の途中で知り合った見知らぬ彼女が言う。「いまの自分を棄てて、べつのなにかになれる?」遠く連なる山並みに、言葉が吸い込まれて行く。そして、それがこの作品なのだ。
【創元推理文庫 】
ロバート・ゴダード
本体 1,120円
2001/2
ISBN-4488298060
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「赤目四十八瀧心中未遂 」
評価:A
部屋に閉じ篭り牛や豚の贓物を切り刻み、鳥の肉を腑分けして串刺しにする。部屋のなかには、血と脂の匂いがこびりついている。読んでいて指先がぬるぬるする。思わず眉をしかめてしまう状況なのに、やがてその手触りや、匂いも気づかなくなるくらい、主人公に同化して行ってしまう。そうして、主人公と一緒に、向かいの部屋から聞こえてくるうめき声に耳を澄まし、階下の女性に想いを馳せてしまうのだ。とても作られた物語のようには思えないほどの現実感がそこにある。まさにこれこそが小説を読む醍醐味だ。どんでん返しや、意表を突くプロットの巧みさ、みたいなものを期待する人には、ちょっとどうかな?という作品だけど、そういう人にもぜひ読んでほしいけどね。という意味を込めて、A。
【文春文庫 】
車谷長吉
本体 448円
2001/2
ISBN-4167654016
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「ハルモニア 」
評価:AA
音大を出たものの音楽家で生活できるほどではなく、音大受験生を教えながら生活をしている主人公が、あるとき訪れた診療所で、彼女と出会う。彼女は脳に障害を持ち、言葉を理解することができず、自分の周りの環境にも意識を向けることも無い。しかし、天才的な音楽の才能を持っていた彼女にチェロを教えていくことで、主人公は少しずつ彼女の心を知って行く。高慢なほど気高く壊れ易い心を。言葉を介さないことで、余計に彼女のこころの形がはっきりと見えてくる。いつしか彼女と心を合わせていく主人公は、ふとしたことから彼女の周りに起きる不思議な現象に気が付いて行く。。。。抜群の描写力と巧みな展開は、途中で読むのを中断することなどできはしない。文庫班課題図書で初めての、そして記念すべき評価AAだ。本の帯には「音楽ホラー小説」などと書いてあるが惑わされてはいけない。この作品は、哀しい調べで奏でる、切ないほどの恋物語だ。
【文春文庫】
篠田節子
本体 686円
2001/2
ISBN-416760504X
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「陰陽ノ京 」
評価:B
ストレートに見える。状況や、主人公の動きが、まるで映像のように響いてくる。特に、音の使い方が抜群だ。戦いのシーンで、攻撃と反撃の流れが微妙に変わるその瞬間、作者は、ただ一言「どくん」という鼓動の音を書き、すべてを表現する。主人公が反撃に転じる気配の変化と、その気配を察して攻撃を止める相手の動きを。すばらしい、感性だ。しかも、あまりにも素直に読めてしまうので、その素晴らしさを見逃してしまう。魑魅魍魎を相手にする陰陽師の活躍と言うと、それだけで子供向きの作品と捕らえる人も多いけれど、本書の押さえの利いた荒唐無稽さは、十分精読に耐えうる。これからの季節、夜空を眺めながら読みふけるには、この一冊である。
【電撃文庫 】
渡瀬草一郎
本体 610円
2001/2
ISBN-4840217408
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「悪徳の都 」
評価:E
計3回挑戦した。そのたびに、40ページくらい読んで力尽きる。なぜなんだ?結局120ページを超えたあたりでダウン。なにが合わないのだろうか?
ひとつには、主人公が置かれている状況がイメージとして浮き上がってこないのだ。なぜなんだろう?ただただ文章を追っているだけ。ストーリーが進んで行くだけ。登場人物の会話も、なんとも説明的。まるで台本を棒読みしている役者の芝居を見ているように感じる。主人公との一体感とか、その状況への没入というのが、まるで起こらない。不思議だ。まったく不思議だ。スティーヴン・ハンターといえば、本屋でよく平積みされていたが、今まで読んだことがなかったので、かなり期待していたけれど、無念の敗北です。誰か、スティーヴン・ハンターの読み方を教えてください。。。。
【扶桑社ミステリー 】
スティーヴン・ハンター
本体 (上下とも)781円
2001/2
(上)ISBN-4594030777
(下)ISBN-4594030785
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「逢わばや見ばや 」
評価:B
昭和30年代に自分が立ち止まっているような、そんな気にさせてくれる作品。文中のちょっとした情景から広がる当時の東京の風景や時事風物に驚かされる。
 作品に書かれた時代のことは、なかなか私たちの目に触れるチャンスがないものだ。東大で学生がデモをしていた時代に、庶民がしていたことなど、ニュースにもならない。人情や風情や粋、そういう感覚がまだたくさんあった時代の名残りは、このわずか50年で跡形も無くなっているのではないだろうか?果して、これからの50年で一体なにが無くなって行くのだろう?と、おじさんはとても心配になる。そして、その時に、今の時代の僕たちを生き生きと描いてくれる作家がいることを祈ってしまう。
【講談社文庫 】
出久根達郎
本体 695円
2001/2
ISBN-4062648776
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