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勝手に目利き
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   人魚とビスケット
  【創元推理文庫】
  J・M・スコット
  本体620円
  2001/2
  ISBN-448821102X
 


 
  石井 千湖
  評価:B
  タイトルがいい。三題噺みたいで。ブルドッグとナンバー4をあわせれば四題噺?まったくつながりのなさそうな語感のことばが組み合わさっていると不思議な感じが強調される気がする。読みはじめるとすぐ単なるあだ名ということがわかって少しがっかりした。しかし三行広告の暗号めいた文章は面白い。つかみはOKだ。それからはじまる遭難シーンの壮絶さ。最初に船が難破してひとびとが次々と死んでいく描写がすごい。助かった四人も頼りないボートで水も食べ物もなく絶望的な航海を続ける。四人の人間関係がこじれていく経過がリアル。白人の差別的視点には有色人種として嫌な感じがした。ナンバー4の造形とか、まぬけな日本軍とか。

 
  内山 沙貴
  評価:A
  文章もはやり芸術作品であるのだなぁと思った。この「人魚とビスケット」、読んでいる間こそ生々しくて、感情の最中に巻き込まれたけれど、少し間をおいてこの作品を考える時、私はロスコのあのにじんだ絵を思い出す。一見意味不明な絵。よく見ても意味不明なのはそのままだが(題名も「無題」、「ナンバー××」と、特に意味があるとは思えない)何かしらすごいものが伝わってくる(気がする)。ちょっと普通の感覚では理解しがたい、次元の違う高級な芸術。時が経てば経つほど細部が気にならなくなってゆく。なのに読み返すと断片は脳に色鮮やかに刻まれていく。不思議な作品だった。

 
  大場 義行
  評価:C
  始めの導入がひじょうに巧い。新聞の三行広告を利用した会話が面白く、こりゃあオモシロイかも、と期待を持たせる。が、その後が気にいらない。女一人男三人の漂流モノになるのだが、日本の潜水艦、裏切り、生存の危機とふんだんに使った挙げ句にあのラスト。三行広告が余りに意味ありげだったので、こちらとしては本当にぐろぐろとしたとんでもない漂流劇を期待していたのに。やはり昔の本でどろどろぐちゃぐちゃの劇を期待した私が悪かったのだろうか。最初が巧いだけに外した感がひじょうに残った。

 
  操上 恭子
  評価:C-
  今から50年近くも前に書かれた第二次世界大戦下を舞台にした小説ということを考えれば、この物語の根底に流れる人種的偏見には目をつぶらざるを得ないだろう。「海洋冒険小説とミステリの見事な融合」という宣伝文句はまさにその通り。漂流物語部分はグイグイ引き付ける力があるし、ミステリの方も思わず「やられたっ」というくらい見事なものだ。だけど、全体に作りが薄っぺらだ。人物造形も甘い。それぞれの行動の動機や心の動きが見えてこない。特にナンバー4の言動の一貫性のなさや異常さに「黒人との混血で隻足の労働者だから」という以上の説明がないのは、やはり目をつぶりきれない程の差別意識を感じて不快ですらある。

 
  小久保 哲也
  評価:C-
  これは一体なんなのでしょう?「海洋ミステリー」とか「漂流事件の謎」とか聞くと、自然に気持ちが盛り上がってくるではないですか。しかも物語り開始早々ミステリー心をくすぐるような、新聞個人広告。よーし。来た来た来た。久しぶりに来ましたねぇ。と、ちょっと半笑いで読み始めたのだけれど、なんですか、これは?どうなっているんでしょう?言ってみれば、「松坂牛」と書いてあるお歳暮を貰って、喜んでふたを開けると、「高級松茸」の詰め合わせだったような、そういう作品ですよ。これは。いや、そりゃ松茸はおいしいですよ。好きですよ。炭火であぶって醤油をかけて食べると、ほっぺたが落ちますよ。ええ。でも、箱には「松坂牛」って書いてあるじゃないですか。ね?高級松茸だからいいでしょって言われてもそりゃなんだか、納得がいかないなぁ。。。うーむ。。。

 
  佐久間 素子
  評価:A いちおし
  おはなし好きの欲求をきっちりみたしてくれる、シンプルかつ個性的なストーリーテリング。夢中で読んだ。最後のだまされ感も心地よい。祝再刊!プロローグは、好奇心そそられる新聞広告の応酬(しかも実話らしい)。それをうけて語られる十四週間にわたる男3人女1人のインド洋漂流事件は、過酷でスリリングだ。ここで終わっても十分おもしろい話だが、二十ページたらずのエピローグで、それまでのおもしろさが倍増する。ニックネーム(「人魚」とか「ビスケット」とか)でしか呼ばれなかった匿名性が急に生きてくる。さすがに時代を感じるなあと思っていた描写が伏線として見えてくる。性格、行動、感情、すべてのピースが、かつんかつんとあるべき所に収まっていく快感といったらない。みたされていたはずの好奇心が、本当はみたされていなかったことに気づいて驚くはずだ。作中の日本人が人非人なのが悲しいが、傑作。読むべし。

 
  山田 岳
  評価:B
  こ’んばんは、浜村純です(嘘)。第二次大戦のさなか、多くの避難民をのせた船がシンガポール港をでたあ’と、インド洋上のま’わりになにもないところで、日本の潜水艦によって沈められる’んですね。海に投げだされた人たちは、数すくない救命ボート(ラフト)にわれ’さきに押しよせて、阿鼻叫喚の地獄絵となります’。じ’ぶんが助かりたいために他人を海につきおとすのもへい’きなんです。そんな状況のなかで同じラフトにのり合せた3人のお’とこと、ひとりのお’んな。だれ’が自分を殺そうとするかわから’ない。一人ひとりが疑心暗鬼にかかってい’て、それでい’て、逃げ出すと’ころは、どこに’もない。さあ、この結末は・・・。じわじわっときはります’よ。

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