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勝手に目利き
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   永遠に去りぬ
  【創元推理文庫】
  ロバート・ゴダード
  本体1,120円
  2001/2
  ISBN-4488298060
  
 

 
  石井 千湖
  評価:C
  半分の枚数でいいんじゃないか?とにかく冗長。それでも最後まで読ませる筆力はすごいけど。初対面で気障なセリフを吐きあう男女ってイヤだなあ。私から見るとロビンは夢想家でルイーズはすかした有閑マダムとしか思えないが。ルイーズに関しては夫の金で芸術家のパトロンやっててしかも美人でもてもてなので羨ましいから嫌いなだけかも。勝手な幻想をいろいろ抱かれて殺されちゃって気の毒とも言えるし。ロマンチストな中年男の感傷はさておき、クリケットのラケットを製造する会社を営むロビンの一家の軋轢は面白く読んだ。ワンマンだが実力ある兄の急死と後を継いだ家族の分裂といがみあい。日本でもイギリスでも人間は同じことをする。

 
  内山 沙貴
  評価:B
  『あなたとわたし、ほんとうに何か変えられると思う?』紫とオレンジと紅色に染まる夕日の空を永遠と感じながら、開けた緑の山頂で少ない言葉を交わした二人は見知らぬ旅人のまま別れ去る。この小説はセリフが牧歌的で、風景描写は胸が締めつけられるほど美しいと思う。ただ、長い話だった。読み始めは人名・地名に戸惑い、進むにつれて話の展開しないミステリィ、過去の美しい憧憬をなじるような推理が謳歌し、読み終えたときには語り手の主旨も忘れて、ほっとした。だが読み終えてみれば早かったような気もする。物語たちはカーニバルのように私の胸をかきたてて、嵐のように去っていった。私はその胸の内の変化に折り合いをつけるために、ただ寂しく佇んでいる。手を伸ばす。そこにはもう何もない。あるのは胸の内側に、である。

 
  大場 義行
  評価:A
  もの凄い。分厚いのでゴダードは読んだことが無かったけれど、ほんとにこれは後悔している。これぞ極上の読書時間を味わう為に必要な本。そこまで言い切ってもいいのではないだろうか。ほんのちょっとの偶然の出会いから事の真相を探りだしたいという、好奇心の強い主人公は、動き回っているのだが全くダメな探偵ぶりを発揮。この為に我々読者は否応無く先の見えない物語に引きずり込まれる。ほんと主人公がダメすぎて、物語と登場人物の本当の姿が二転三転するんだよなあ。しかし一番気になるのは、翻訳。またあの「アンダードッグス」の伏見威蕃じゃないか。この人はほんと芸達者。話自体面白く、ゴダードを読みたいと思うのは確かだが、それ以上にこの伏見威蕃訳の本を読みまくりたいのである。

 
  操上 恭子
  評価:C
  「ゴダードは苦手なんだよな」というのが、今月の課題本リストを見た時の正直な感想だった。ミステリファンの間で評価の高い作家だし、『このミス』などのランキングでも毎年上位に入っている。確かに、読んでしまえば面白いのだ。よく練り上げたストーリー、しっかりした人物造形、二転三転する謎。ミステリとしての要素は十分に備えている。だけど、あまりに読みにくい。イギリス人特有のまわりくどい表現、というだけではない。なにか他人の日記を無理に読まされているような、答を得るために必要のない余分なところまで読まなくちゃいけないような、そんな気がしてくる。文学的ということか。スピード感とか、歯切れのいいサスペンスというのもミステリには必要な要素だと思うんだけど。

 
  小久保 哲也
  評価:B
  非常に重厚だ。プロットもそうなら、翻訳もそうだ。ストーリーに流れる時間は、ゆったりと、しかし引き返せない力を感じさせる。多くの登場人物達も、それぞれに自分の生活を持っており、彼らには彼らの物語がある。作者が注目しようがすまいが、彼らは確かに息をしているのだ。そうして彼らの、優しさや、哀しさや、そういった人生すべてを紡いで、物語が進んで行く。そしてストーリーも二転三転し、読者は、長い物語に、夢のように包まれていく。「稀代の語り部」とはよく言ったものだ。後半、ほんの少しサスペンス小説っぽい慌ただしさが作品を軽く感じさてしまうが、そんなもの全体からみれば、たいした問題ではない。旅の途中で知り合った見知らぬ彼女が言う。「いまの自分を棄てて、べつのなにかになれる?」遠く連なる山並みに、言葉が吸い込まれて行く。そして、それがこの作品なのだ。

 
  佐久間 素子
  評価:B
  ブランドに負けて、評価に自信がない小心者の私は、本作が初ゴダード。最後までお腹いっぱいごちそうさまの読みごたえであった。旅人同士として、ひととき心をかわした女性が、直後殺害される。犯人としか思えない男の逮捕、裁判までが長いプロローグ。このままでは終わるまいという期待は、何と最後の1ページまで持続する。力技だなあ。人気があるはずだ。これだけ重厚だと、話のおもしろさとは、別のプラスアルファを期待してしまう。冒頭の出会いのシーンが、本来それを運ぶのだろうが、どうにもぴんとこなかった。「あなたとわたし、ほんとうになにかを変えられると思う?」って、どんな旅人やねん。このシーンが大丈夫な人にはおすすめです。

 
  山田 岳
  評価:A
  主人公はかんじんなときに限って、ぼうっとしてはるか、あらぬことを考えてはって、ことごとくチャンスをのがしはります。そやのにもっともらしい正義をふりまわしはったり、いらんおせっかいを焼きはって、はなしを、どんどんややこしくしていかはります。はっきり言うて、ちィっとも魅力ありまへん。それでも読んでしまうのは、著者の力量でっしゃろ。ふつうやったら363ページでおわんねんけど、それから250ページもつづきがあって、そやのに一気に読んでもうた。ひゅう。二転三転する話を成立させるためには、主人公はボケてなあかんってことやろか。

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