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   ベルリン1933
  【理論社】
  クラウス・コルドン
  本体 2,400円
  2001/2
  ISBN-4652071957
 

 
  今井 義男
  評価:AAA
  陰鬱な時代。市井に横溢する影はひたすら重く暗い。ファシズムの台頭する前夜、人心はすでに救いようもなく荒廃していた。国家が地獄に通じる扉に手をかけようとしていることを当時の人々が知る由もない。翻弄され、踏みにじられるのは常に底辺に生きる者であり、為政者に服はぬ者である。近代史のアウトラインを駆け足でなぞるだけの義務教育からは、窺い知ることのできない市民の苦しみが活字から溢れんばかりに迫り、本を置くことが幾度もためらわれた。しかもまだ序章である。やがて欧州全土を巻き込む戦火が愛くるしいミーツェや無邪気なムルケルにどんな苛酷な運命をもたらすのか。そして両親から引き離されたエンネの未来は……。これはどうあっても3部作すべてを読まずにはおれない。我が国とは対照的に真摯な態度で過去の教訓を見据える国民性とは裏腹に、ネオ・ナチが確固として存在するのが現実のドイツの姿である。だからこそ文学の担う意義はとてつもなく大きい。

 
  原平 随了
  評価:B
  ナチが台頭し、ヒトラーが首相になる前後のドイツ、ベルリンの町の様子や、そこで暮らす一家の貧しい生活、主人公である15歳の少年の日常が実に丁寧、かつ、きめ細やかに描かれている。主人公の、ナチ党員となった友人との確執や、ユダヤ人の娘との恋、生き方の異なる姉との対立など、少年の成長小説として鋭く胸に迫ってくるし、当時のドイツの混迷する政治状況や、戦争の予感……と、時代の波に翻弄される家族の物語として、また、激動するベルリンという町を描いた都市小説として、ヤングアダルト系ながら、ずしりと重い読み応えがある。ただ、この作品は三部作の第二部らしくて、完結した物語となっていないのが残念だ。

 
  石井 英和
  評価:C
  歴史の年表を眺め、「何故、このような愚行を」と呆れるのは簡単だが、その詳細を知れば知るほど、人は言葉を失う。ヒットラ−に率いられたファシズムが、その狂った花を咲かせるに至った「土壌」としての当時のベルリン市民の、惨憺たる生活の活写。そんな生活に忍び寄り、やがてすべてを覆い尽くす、絶対的な暴力。出口のない日々に目を閉じ、そんな「力」に身を任せ、思考を止めてしまう「安逸」への誘惑。この書は、歴史のある時期における人類の愚行への道程を収める、貴重な記録だ。が、小説としての評価はどうだろうか?「歴史を誤った方に導く、無知で野蛮な人々の蛮行と、これに心傷めつつ流されてゆく善良で無力な人々」、そんな図式の物語が、これまでに幾つ書き継がれて来た事だろう?また1冊、増えたところで・・・悲しむだけでは、足りない。

 
  唐木 幸子
  評価:A
  私は小学生の時に、姉の本棚にあった『夜と霧』(フランクル著/ドイツ強制収容所の体験記)をこっそり読んで衝撃を受けた。S.キングのゴールデン・ボーイじゃないけれど、アウシュビッツの集団殺戮の写真を何度も見ては震え上がったものだ。ナチ以外の普通のドイツ人たちは一体、何をしていたんだろう、この虐殺を知らなかったのか?と子供心にも不審に思ったことを覚えている。その答えは本書にある。正確に言うと、本書(3部作の第2作)はヒトラーが実権を掌握し始めるところで終わっているから、計画中と言われる第3作でそれが明らかになるようだ。ベルリンの真面目な労働者・ハンスやその家族がどんな気持ちで独裁政権の繁栄と倒壊を経験していくのか、何がなんでも読まねばならない。

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