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カリスマ
  【徳間書店】
  新堂冬樹
  本体 各1,600

  2001/3
  (上)ISBN-4198613192
  (下)ISBN-4198613206

 

 
  今井 義男
  評価:E
  カルトを善悪の二元論で切り捨てることはたやすい。多分世情にも反しないだろう。だが絶対に忘れてはならない。松本サリン事件で日本中がこぞって被害者の一人を犯人に仕立て上げようとしたことや、地下鉄サリン事件の際に大多数の通勤・通学客が、蹲る被害者をまたいで通り過ぎたこと。そして全国に連鎖した集団ヒステリーじみた排斥運動のことを。オウムは<こちら側>に孕む闇をも炙り出した。カルトは紛れもなくその闇から生まれるのだ。その検証もなしに興味本位に<彼ら>を語るのは不当なことだ。前置きが長くなった。本作は洗脳に至るプロセスと洗脳集団からの救出劇を、両側から描いた小説である。カルトと一般社会に共通項はない。接点はおろか共存すらできない。ゆえに交じり合うときに生じるすさまじい消耗戦は十分書くに値するシリアスなテーマである……と、やや気合を入れすぎて読んだためか、あまりの脱線ぶりに途中で腰が砕けそうになった。こんなに重い素材をよくぞここまで……。ストーリーも文章表現も私などの理解の及ぶところではなかった。

 
  松本 真美
  評価:C
  現実の輪郭をくっきり隈どりしたみたいな新興宗教と下世話な教祖の話を、上巻は暗くやるせなく、一方、下巻はまるでギャグかと思うほどハジけて急展開させて、最後は意外な結末(?)になだれ込ませたサービス精神いっぱいの力作。疲れた。読みづらいわけではなかったが、作者のやる気と勢いに気圧された感じでした。さっすが大阪人!?あえて、キャラを立たせてステレオタイプやデフォルメな表現を装ってみせつつ、終始「現実はもっとえげつないことになってまんがな」と言ってる印象。最後に、幻影と書いてカリスマとルビをふるとこなんざぁ。…この物語のわかりやすい洗脳より、昨今の、たとえば<音楽も本も人も「売れてるから」という理由で選んでる>みたいな風潮の方がある意味すっげえ不気味だ。かくゆう自分も、知らず知らすのうちに市場動向を操作してる(つもりの)人間達に踊らされてるかも、と自問&自戒してみる。携帯電話なんてホントに要るのか私?とか。

 
  石井 英和
  評価:D
  あのオウム真理教騒動をモデルとした物語のようだ。カルト宗教の実体等、良く調査され書き込まれているが、かってのオウム報道から伝わって来た、嫌悪しつつもついTVの画面に見入ってしまうような、いかがわしくも妖しい「魅力」は、作中の教団には漂っていない。著者の筆致そのものが、例えば作中の教祖の「下品な俗物」ぶりよりも、よほど猥雑なエネルギ−に満ちあふれているせいだろう。その露悪的な表現が、教団や教祖を「邪悪」として際立てるより、むしろ滑稽に矮小化するほうに働いている。と言って、風刺作品ととるには作風が重過ぎて笑えず、どっちつかずの結果になってしまった。新しい視点の提示なども、特に見当たらず。それにしても、何かというと逆上し絶叫する登場人物やらビッシリ詰まった長台詞、入れ込み過ぎのト書き等々、実にけたたましい小説だ。

 
  中川 大一
  評価:A
  えげつないオープニング。ここでめげずに読み進もう。単にグロい描写で読者の度肝を抜こうとしてるだけじゃなく、あとで重要な伏線として効いてくる。装幀やオビの推薦文からうかがえるノリは、「現代社会の暗部を抉る!」路線。だが意外にも中味は爆笑満開。ハードなストーリー展開と、描写に仕掛けられたギャグとの落差に、ああ、めまいがしそう。硬と軟が車の両輪となって読者をぐりぐり引っ張る。連発される比喩がまた卓抜。「ジメついた腐葉土で小さくまるまるダンゴ虫」「納豆と牛乳とマヨネーズをシェイクしたようなぐちゃぐちゃとした己の性格」。そう形容される城山信康に、同い年のサラリーマンとして肩入れして読んでた私としちゃ、このエンディングは(ピーッ〈ネタバレ防止のため消音〉)だなあ。

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