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   だれが「本」を殺すのか
  【プレジデント社】
  佐野眞一
  本体 1,800円
  2001/2
  ISBN-4833417162
 

 
  今井 義男
  評価:A
  デジタルだかなんだかいっても結局アナログ情報より永く残る物はないそうである。CD−ROMもMOもいずれ寿命が尽きる。だいいちソフトが保存されていてもハードがなくなればただの不燃ゴミである。互換性のないソフトや機器はいずれ淘汰される。デジタルは次代のデジタルに殺されるのが定めだ。それに比べて古文書の類や洞窟の落書きは、若い頃のスタン・ハンセンのように打たれ強い。誰も後世に残す努力などしていないのにちゃんと21世紀まで形を留めている。「本」の役割がデジタルに取って代わられるとは思わない。「本」が私たちに提供するのは情報だけではないからだ。印刷インクや紙の匂い、手触り、重み、装丁、書棚に並べる楽しみ、それらをひっくるめたものが「本」なのだ。「本」がなくなるようでは人類はおしまいだ。矛盾だらけの流通の仕組みには、あ然としたが意見をいう気も起こらない。業界で互いの首を絞めあって気温を華氏四五一度まで押し上げたいのならどうぞ御勝手に。エンド・ユーザーには「本」を見殺しにするしか術はないのだから。現代屈指のノンフィクション作家渾身のルポ。すべての活字中毒者必読。

 
  原平 随了
  評価:B
  大胆なタイトルだ。こんなタイトルをつけられては、本好きは無視できないだろう。今、大変なことになっている(らしい)〈本〉の出版や流通、書店や図書館などの内情が、事細かに検証してあって、そうか、今、本は死にかかっているのか……と、納得させられる。同時に、自分はこんなにも本のことを知らなかったのかと、そのことにも驚かされてしまう。本好きなら誰しも感じていることだと思うが、本屋さんには不満は多い。新刊本がなかなか入ってこない、読み逃した本があっという間に店頭から消えてしまう……等々、いろいろあるが、最大の不満は、やっぱり、棚に魅力がないってことだ。しかし、問題なのは本屋さんだけではないらしい。作家によって書かれた本が読者の手に届くまでのあらゆる過程が、実際、これほどひどい状況にあるとは思ってもいなかった。とはいえ、気の重くなる話ばかりというわけではない。頑張っている本屋さんや出版社のこと、新たな流通の試みなども紹介されていて、まだまだ希望は残っている。ともかく、ただの本好きとしては、〈本〉が〈日本映画〉のようにならないことを祈るばかりである。


 
  小園江 和之
  評価:A
  ちょうど読了した翌日に再販制度維持が決まりましたが、出版不況は相変わらずだそうで、新刊書店に並んでいるのはどこにでもあるベストセラー本ばっかり。意外な面白本はたいてい店頭にはなく、取り寄せてもなかなか来ないし、気付くのが遅すぎると「出版社品切れ。重版未定」。もはや作り手側、受け手側の本に対する熱い想いだけではどうにもならないらしい、ってことは分かっていても、じゃあそもそもこの業界の構造はどうなっていて、現在どの部分に問題があって、それに対してどのような対策がとられようとしているのか、本書を読むまでは知りませんでした。まずは正確な事実が知りたい、という私の希望に本書はちゃんと応えてくれています。そのうえで著者は「遅効性のメディアである本が世の中の動く速さについて行けなくなった」ことが出版不況の本質だと言います。でも遅効性だからこそ、何度でも使えるような気もします。最近ひとまわりも年下の人に中勘助の小説を勧めたら、大変感激してくれました。
岩波さん、『犬』を絶版にしないでくださいよう。

 
  松本 真美
  評価:B
  7年ほど図書館界隈をうろつきましたが、出版業界の難しいことはよくわからずわかろうともせず今日まで来たもので、この本はとてもとても勉強になりました。私は単純に<活字は素材>で<本は料理>かと思っていました。ですから作り手は、いかに人の食指が動く料理を提供するか(ポイントが、味か見た目かコックの知名度か店か宣伝力かはわかりませんが)が勝負だと考えていました。なので、出版流通の複雑なシステムは料理の鮮度を落とす元凶ではないかと思い、図書館付近などに多数棲息する、妙に読書の啓蒙を教育と連動させようとする輩には、「食え食えと言われると食いたいもんも食いたくなくなる!」とうざったくてたまりませんでした。…いろ〜んな意味で、そんなカンタンな世界ではなかったのですね。でも、だからといって、どこか関係者に選民意識臭すら感じがちな、この業界のとっつきの悪い複雑さがいいとは全然思えません。顰蹙を覚悟で聞きたいですが、「本」ってそんなに特別なんですか。

 
  石井 英和
  評価:C
  本をめぐる業界の様々な問題点をえぐり出した書。労作である。が、「本好きとしては、この辺りの事情も知っておかねば」などと義務感を沸き上がらせつつ読み進んでいたら、なんだ、今の自分がしているのは、まさに著者が問題視している「タメになるが面白くない読書」そのものじゃないか?なんて気がしはじめ、妙な気分になってきた。また、著者が排斥すべきと主張する「事大主義や権威主義」の手触りを、私は著者自身の言葉の端々から感じてならないのだが、気のせいだろうか?「まとめ」の部分を読んでいると、そんな「自分の尻尾を飲む蛇」的風景が浮かんで来るのだが。興味を惹かれたのは、現場報告のハザマに窺える「業界の人々」の生の姿。が、残念ながらそれらの活写はブツ切りで終わってしまい、物足りない。大丈夫か?犯人を取り逃がしてはいないか?

 
  中川 大一
  評価:A
  「「本の雑誌」は……通巻二〇〇〇号を数え……」。そりゃ二〇〇号の間違いでしょっ!というような、本欄ならではのオタッキーなつっこみはさておき、よく目配りの効いた出版業界の鳥瞰図。この世界、一家言持つ人が多いから、本書に対しても毀誉褒貶相半ばするだろう。確かに難を言えば、制作プロセスのうち、大きな要素として装丁家と製本会社への取材が欠けている。また、DTPを簡易版下製作機と訳すのは今や不適切。編集者が無能な高給取りっていうのも言い尽くされたステレオタイプだろう。しかし、ここには確かな出発点がある。本をめぐって川上(著者)から川下(読者)までを串刺しした形で描こうとした著者の意図は圧倒的に正しい。今後の議論は、本書を基本テキストにしてなされるべきだ。

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