「シシド 小説・日活撮影所」 評価:D 小説と銘打たれている以上、これは<事実>に装飾を施したものと受け取って構わないのだろう。それなら話は簡単だ。シシド氏にはスターになれなかった一俳優のあがきや恨みつらみを、包み隠さず吐き出す覚悟が決定的に欠けている。恰好悪さとか醜さを端折って、自身の半生を美化する意図が透けて見える私小説に一体なんの意味があるのか。作中の表現を借りていえばこの作品は『作り手の自己満足一杯の私小説』以外のなにものでもない。芸能人が書く本の価値は、潔さにあると私は思う。それはたとえ代作者の手によるものだったとしても変わらないし、自分で書いたのならなおさらだ。ただ、脚注には本文よりも興味深いことが少なくない。むしろそちらの方に重きを置くべきだったのではないだろうか。視点の不安定なところとカタカナ表記を多用しすぎるのも気になった。