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原平 随了の<<書評>>

「ボルトブルース」
評価:B
読み始めてからしばらくして、以前に読んだ何かに似ていることに気づいた。沢井鯨の『P.I.P.(プリズナー・イン・プノンペン)』(小学館)である。『P.I.P.』は、アジアを放浪していた主人公が麻薬所持の容疑でカンボジアの刑務所に収監されるというお話で、『ボルトブルース』の方は、失業した主人公が全寮制の自動車製造工場で三ヶ月間だけの期間工として働くという内容だ。もちろん、工場での労働と刑務所の服役が同じなわけはないのだが、似た印象を受けるのは、『ボルトブルース』の物語の骨格が、いわゆる〈牢獄〉モノのパターンにしっかりとはまっているから。一定期間の拘束、仲間との友情や反目、裏切りなど……、この小説のおもしろさは、やっぱり、〈牢獄〉モノのおもしろさに限りなく近い。日記風の記述がやや単調で、退屈する箇所もないではないが、それでも、労働の過酷さや、筋肉の痛み、汗の匂いなどがとてもよく感じられるし、また、年期明けの〈出所〉は、一抹の寂しさと共に、その嬉しさがびんびんと伝わってくる。
ボルトブルース 【角川書店】
秋山 鉄
本体 1900円
2001/2
ISBN-4048732757
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「敵討」
評価:D
幕末から明治にかけて、実際に起きた敵討ちを描いた中編二編が収録されているのだが、どうやら、作者は〈敵討〉をドラマチックに演出する気はさらさらないようで、事件の進行が淡々と述べられているだけだ。そうすることで、確かに、〈敵討〉という名の復讐の空しさが浮かび上がってくるし、時代という歯車がカチリと一つ回っただけで、それまで美談であったはずの〈敵討〉が、一転して、殺人行為へと変わってしまう、そんな矛盾も際だって見えてくる。──とは思うのだが、どうしても、小説として物足りないという印象は拭えないし、また、この作品が、幕末、明治という激動する時代の本質を捉えているかというと、どうも、あまり、そんな風には感じられなかったのだが……。
敵討 【新潮社】
吉村昭
本体 1500円
2001/2
ISBN-4103242299
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「だれが「本」を殺すのか」
評価:B
大胆なタイトルだ。こんなタイトルをつけられては、本好きは無視できないだろう。今、大変なことになっている(らしい)〈本〉の出版や流通、書店や図書館などの内情が、事細かに検証してあって、そうか、今、本は死にかかっているのか……と、納得させられる。同時に、自分はこんなにも本のことを知らなかったのかと、そのことにも驚かされてしまう。本好きなら誰しも感じていることだと思うが、本屋さんには不満は多い。新刊本がなかなか入ってこない、読み逃した本があっという間に店頭から消えてしまう……等々、いろいろあるが、最大の不満は、やっぱり、棚に魅力がないってことだ。しかし、問題なのは本屋さんだけではないらしい。作家によって書かれた本が読者の手に届くまでのあらゆる過程が、実際、これほどひどい状況にあるとは思ってもいなかった。とはいえ、気の重くなる話ばかりというわけではない。頑張っている本屋さんや出版社のこと、新たな流通の試みなども紹介されていて、まだまだ希望は残っている。ともかく、ただの本好きとしては、〈本〉が〈日本映画〉のようにならないことを祈るばかりである。
だれが「本」を殺すのか 【プレジデント社】
佐野眞一
本体 1800円
2001/2
ISBN-4833417162
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「ベルリン1933」
評価:B
ナチが台頭し、ヒトラーが首相になる前後のドイツ、ベルリンの町の様子や、そこで暮らす一家の貧しい生活、主人公である15歳の少年の日常が実に丁寧、かつ、きめ細やかに描かれている。主人公の、ナチ党員となった友人との確執や、ユダヤ人の娘との恋、生き方の異なる姉との対立など、少年の成長小説として鋭く胸に迫ってくるし、当時のドイツの混迷する政治状況や、戦争の予感……と、時代の波に翻弄される家族の物語として、また、激動するベルリンという町を描いた都市小説として、ヤングアダルト系ながら、ずしりと重い読み応えがある。ただ、この作品は三部作の第二部らしくて、完結した物語となっていないのが残念だ。
ベルリン1933 【理論社】
クラウス・コルドン
本体 2400円
2001/2
ISBN-4652071957
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「お言葉ですが…〈5〉キライなことば勢揃い」
評価:C
〈言葉〉にうるさいおぢさんが、近頃のいいかげんな言葉の使い方に異義を申し立てるという、どうやら、そんな週刊誌連載のエッセイをまとめた本らしい。〈WEB本〉新刊採点の課題本でなければ、まず、手に取ることのない本だ。というか、書店の店頭に平積みになっていても、目に入らないだろう。だいたい、言葉なんてものは、その意味も読み方も時代と共に変化していくものであって、細かいことに、いちいち、目くじら立てなくても……、などと思いつつ読み進めてみると、これが意外とおもしろいのだ。そうそう、ウチの田舎でも、急須を〈きびしょ〉と呼んでたっけ……と、いつしか、そう呟いていたりする。これって、やっぱり、おぢさんの証拠か?五巻も出ているところをみると、きっと、この著者の主張に、うんうん頷いているおぢさんたちがいっぱいいるんだろうな。
お言葉ですが…〈5〉キライなことば勢揃い 【文藝春秋】
高島俊男
本体 1762円
2001/2
ISBN-416357090X
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