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   ラム氏のたくらみ
  【早川書房】
  キャリー・ブラウン
  本体 2,400円
  2001/2
  ISBN-415208331X
 

 
  今井 義男
  評価:B
  清廉潔白すぎるのも考えものだ。気弱で生真面目な人物に限って、恋心を持て余すと前後の見境がつかなくなる。初老の郵便局長ラム氏がストーカー呼ばわりされても反論できない行為を繰り返した挙句に、その立場にあるまじき行為にまで及んでしまったのも、すべて遅すぎた春のなせる業であった。無理もない。女性に対してのノウハウをなにひとつ身につけずに五十五年も生きてきたものだから、羽目の外し方も気の利いたくどき文句も知らないのである。これは他人事とは思えない。私も一歩間違えたらこんな人生を送っていた。罪のない結末にはほっとした。これぐらいの奇跡は大目に見たって罰は当たらないだろう。このじれったくもほほえましい恋物語は、異性に気後れする人々に向けた心からのエールだ。

 
  松本 真美
  評価:C
  う〜ん、いろんな意味で微妙な話だった。美しい話なんだか気色悪い話なんだか、読中も読後も判断しかねた。中高年の恋だろうが50代の初恋だろうが、それ自体は全然OKだし、ナントカ郡の橋なんかよりは好感が持てたが、各紙誌の賛辞の方向はちょっと違う気がした。だって、恋なんて基本的に自分勝手な感情じゃん。それはこの主人公だって例外じゃないと思うのだ。そんなに感動的で美しい話か?恋に落ちた男の、情けなくてひとりうっとりが入った月並みな世界にすぎないと思う、悪いとは言ってないけど。障害者に対する視点も微妙。<実は特別な才能を秘めている彼>という持っていきかたがどうも…。もちろん、それは「あり」だ。でも、そのことがことさら崇高で、それに気づくことが、恋を愛に昇華させる呼び水ってのは…。言葉悪いけど、何の才能も秘めてないよな障害者じゃダメなの?この小説、障害者に対する優しい視点を装っているけど、逆じゃないの?屁理屈か?しかもわかりづらい迷惑な屁理屈…すかしっ屁理屈。あ、また下品だって言われそう。

 
  石井 英和
  評価:A
  恋愛小説、という売りになっているが、幻想小説として読んだ方が良いだろう。舞台となるのは、午睡に訪れるピント外れな夢のように時の滞った空間である。そこの住人の間には、郵便局長である主人公ラム氏が行う、国際的な郵便のネットワ−クを流用したラブレタ−作戦が実行可能な程に、非現実が現実として作用している。そして、次々に紹介されるエキゾティックな切手群がもたらす、読めそうでさっぱり読めない啓示。人々の成す、現実離れした言動。この奇妙な町は、人間の心の中にある、恋愛を司る機能そのものだろう。小説が描くのは、実は恋そのものではなく、舞台裏たるその町の、恋愛発生の際の混乱の風景。仄かな悲しみをスパイスに、甘美な白日夢が楽しめる。この裏面、現実世界では、どのような恋が成就したり破れたりしているのか・・・

 
  唐木 幸子
  評価:B
  昔から私は策を弄する男は嫌いである。夫と結婚したのも、彼が何の前置きもなくいきなり『結婚してくれえ』と言ったからだ、とまあ、そんなことはどうでも良いのだが。中年男女の恋愛が煮え切らないのはしょうがないが、それにしてもラム氏の恋はせつなすぎやしないか。こうまで話をややこしくしなくちゃならないもんだろうか。まだ55歳だろう。読んでいて、ヴーっとなって机に何度も突っ伏しそうになった。男が65歳、女が50歳、くらいのお話に思える。でも、差出人のわからない手紙を受け取る側のヴィーダの心の揺れは実に上手く描かれているので、結局は私も楽しんで一気読みしてしまった。映画『ユウ・ガット・メール』もそうだが、アメリカ人ってこういうもどかしいラブストーリーが好きなんだなあ。

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