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大場 義行の<<書評>>
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Queen

「ぢん・ぢん・ぢん」
評価:A
これはマラソンと同じだ。我々のような素人がフルマラソンに挑むと、とにかく、ぼろぼろになっても走りまくる。走っている当人はどっちに向かっているか段々判らなくなる。でも走る。走るしかない。この感覚が登場人物たちと共通している。みんな必死になってなにかを目指すのだが、その結果が何を意味するのか分からない。主人公であるイクオ、典江、みんなの走りぶりが堪らない、切ない。今の花村萬月はこの作品の後から凄味を失った。そう云われてもしかたが無いくらいの凄味溢れる作品だったと思う。

【祥伝社文庫】
花村萬月
本体(上下とも)819円
2001/3
ISBN-439632846X
ISBN-4396328478
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「上海ベイビー」
評価:B
本を閉じても幻想の中にいるような感覚が残った。上を見ていながら落ちていく女、下を見ていながらあがく男。この二人の不思議な恋の行方を綴っているワケだが、なんだかそれが余りに現実から離れていて、そんな感覚が残ったのかもしれない。二人のキャラクターが命のこの作品、なぜ発禁なのか? これがポルノだったら日本じゃほとんどの本が発禁だよと、そればかりが気になってしまった。これは上質な恋愛小説だと思う。
【文春文庫 】
衛 慧
本体 581円
2001/3
ISBN-4167218747
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「天使の街の地獄」
評価:C
どこかで聞いたような有名人の妻殺し事件。麻薬組織のボスの母親殺人事件。二つの事件を追う刑事が主人公なのだが、なんと230ページまでほとんど事件が動かない。その後導火線に火がついたかのように物語が動きだすわけだが、異様な盛り上がりの割に最後にしゅんと萎む感じが否めない。刑事がダメすぎてなにも事件が動かない序盤、萎む終盤と気になりすぎるのだが、この中盤の盛り上がりは一読の価値あり。確かにエルロイの副読本としたい気持ちは判る。
【文春文庫】
リチャード・レイナー
本体 819円
2001/3
ISBN-4167527723
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「兄弟」
評価:B
だからなんだと云えばそれまでなのだが、そう云わせないところがこの本の凄い所。兄弟愛で泣かせるわけでなし、かといってなかにし礼のサクセスストーリーでもない。戦争の犠牲者とか、戦後の被害者とか、それも余り関係ない。だけれども、なにかとんでもないモノを覗き見てしまった感じがして、しょうがないのだ。衝撃を与える力を持っている。とにかくこの兄貴が凄すぎる。
【文春文庫】
なかにし礼
本体 552円
2001/3
ISBN-4167152061
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「異色中国短篇傑作大全」
評価:B
仰々しいタイトル通り、豪華メンバーによるとんでもない短編集ではないだろうか。とくに中村隆資の「西施と東施」が異色。「ひそみにならう」の故事をこんな文体はないだろう、と驚きつつ、ほとんど呆れつつ読み始めたのだが、とんでもない。とにかく巧い。最後は危なく泣くかと思った。この他にも異色作品揃いで、よくぞここまで集めたと、感心してしまう程である。
【講談社文庫】
宮城谷昌光
本体 695円
2001/3
ISBN-4062649705
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「喜知次」
評価:B
少年たちは権力闘争、復讐、家柄と様々な波にもまれながら成長し、女の子喜知次はそれを見守りながら一人成長していく。こんな感じで地味目の本だが、静かながらも読み応えのある作品だった。一言でこの本をいうとさわやか。余り色恋沙汰に発展しすぎず、権力争いもどろどろしすぎず、きりがいい感じで、引き際も見事。人が死にまくったり、どろどろの恋愛モノを読んだ後、すっきりするのにもってこい。まさに胃薬的な本だ。
【講談社文庫】
乙川優三郎
本体 667円
2001/3
ISBN-4062730774
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「天狗の面/天国は遠すぎる」
評価:B
初めに収録されている「天狗の面」は確かに古くなってしまった作品だろう。必要もないのに作者がばんばん登場するし、トリックも、うむうと唸り声を上げるしかないようなチープさ。ところが「天国は遠すぎる」は逆に古さがいい味を出している。「天国は遠すぎる」の歌詞といい、登場人物といい、アリバイ崩しといい、なんだか昔見た土曜ワイド劇場的ノスタルジア。いやほんと楽しめました。古くなってしまったとか、古さがいいとかなんだかおかしな話だが、これは読んでももらえれば判るのではないだろうか。
【創元推理文庫】
土屋隆夫
本体 1.100円
2001/3
ISBN-4488428010
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「十二国記・黄昏の岸 暁の天」
評価:A
これは、十二国記を読んだことが無い人にとって辛いのではないだろうか。他の刊はいきなり放り込まれたとしても、なんとか理解できるかもしれないが、この刊だけは別だろう。「魔性の子」とか違う文庫も読んでおかなきゃいけないし。でも、そんな事はどうでもいいです。この楽しみを味わいたければ最初から読みなさい、としか云いようが無い。この刊も他の十二国記同様、小野不由美がきちんと整備した中国風の設定と、様々な事に悩む人間がたっぷり味わえた。舞台と舞台に立つ人間がほんといいんだよう。このシリーズにはハズレは存在しない。また次作が楽しみだ。とにかくむさ苦しい男でも、女学生をかき分けてX文庫コーナーを漁らせる程の力がこのシリーズにはある。
【講談社文庫】
小野不由美
本体 714円
2001/4
ISBN-4062731304
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「フォーカスな人たち」
評価:D
確かに黒木香はテレビで見た事あるし、細川元首相は知ってる。でも、なんだかなあ。ピンとこない。読ませるし、バブル時代がどんなものかがうっすらと見えた気もするし、読み物としては楽しめたが、どうしてもバブルの頃を懐かしむワケでも、その頃を中心にしているワケでもないので、それ以上でもそれ以下でもないとしかいいようがない。どうしてもバブルの時代は自分の時間軸に入っていない為か、実感が湧かないのだ。だから、ああ、こんな人いた気がするなあとしか思えなかった。なぜ年齢が私よりも上の人はバブルと特別視するのだろうか。
【新潮文庫】
井田真木子
本体 667円
2001/4
ISBN-4101259313
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「解剖学個人授業」
評価:D
授業の始めの方はよかったのだが、回が進むにつれて落ちこぼれだしてしまった。引用を多用し、わかりやすく説明してくれているようなので、養老猛司がどんな事をしているのか判ったが、最後の方はなんだったのか理解できなかった。ああ、こんなところでまた落ちこぼれ感を味わうとは。ちょっと気になるのは、ほんとうに授業をしたのだろうかという点。これはもしかして勝手に南氏がノートをとっただけなのかと思ってしまった。臨場感がぜんぜんないし。でもこれは単なる落ちこぼれのひがみかもしれない。
【新潮文庫】
養老猛司
南伸坊
本体 400円
2001/4
ISBN-410141033X
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