年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
佐久間 素子の<<書評>>
文庫本 今月のランキング
一覧表に戻る
Queen

「ぢん・ぢん・ぢん」
評価:A
冒頭の輪姦シーンで、最高にむかついて、こんな主人公に千ページもつきあえるか!と息巻いていた割には、A評価。主人公イクオはヒモ見習いなのでやり放題なのだけれど、修行で女を抱くときも、欲望のままに抱くときも考えることをやめない。セックスしては考え、考えてはセックスをする。当然、読者もイクオの考えにつきあわなければならない。青臭くても、理解できなくても、理解したくなくても。つきあっているうちに、発作のように愛しさがおそってくる。しゃれにならないくらいアウトローな登場人物がこうも愛しいとは。人間であり続けることはつくづくかなしい。

【祥伝社文庫】
花村萬月
本体(上下とも)819円
2001/3
ISBN-439632846X
ISBN-4396328478
●課題図書一覧

「上海ベイビー」
評価:B
学歴があって、経済的にもまあ自立していて、そこそこ大人の25歳。毎日が楽しいのは、エキセントリックな自分を楽しむ容姿と知性があるから。毎日がむなしいのは、愛情だけの男でも、性欲だけの男でも満たされないから。ストーリーはしょうもないし、人物も薄っぺらいけど、空気感は抜群だ。自信過剰でうっとうしくて、でも、放たれる光がまぶしくて、目が離せない、ココみたいな女の子って結構いるでしょう?期待も興奮も欠落もリアル。ストーカーになる昔の男など、細部も笑ってしまうほどリアル。国境は感じない。中国で発禁処分というのが挑発的だけど、理由はよくわからない。性描写は確かに扇情的だが、健全じゃないか。ま、宣伝になって、騒がれ得なのだけど。
【文春文庫 】
衛 慧
本体 581円
2001/3
ISBN-4167218747
●課題図書一覧

「天使の街の地獄」
評価:C
普通のハードボイルドかと思っていると、主人公がどんどんハードボイルドからずれていくので、びっくり。自分内ルールを破り、かつ、それに対して、屁理屈をもって弁解するという堕落っぷり。決してダーティーヒーローなどというかっこいいものではない。どちらかというと情けない。共感もできない、やばいほどの情けなさ。しかし、主人公の魅力と反比例して、ストーリー力は増していくので、読書最中の期待感は途中から俄然たかまる。このまま容赦ないラストにもっていってくれたら、それこそおもしろかったろうに。丸くおさまりすぎて、嘘くさくなった。こういう結末が似合うには、よほどスマートでスタイリッシュでないと。
【文春文庫】
リチャード・レイナー
本体 819円
2001/3
ISBN-4167527723
●課題図書一覧

「異色中国短篇傑作大全」
評価:D
執筆陣は確かに豪華なのだけれど、順当すぎるかな。ほとんどの作品の初出が同じ雑誌というところから予測するに、本書の出版をみこして、「異色」というお題を出したのだろう。手堅い企画だけれど、アンソロジーの手法としては安直だと思う。「異色」の「傑作」の「大全」は言い過ぎでしょ。各々の作家の略歴、代表作等、解題がないのも不親切だと思う。もっとも、作品それぞれに罪はなく、バラエティ豊かだ。のんびりした風情の『潔癖』、スケールが大きいんだか小さいんだかわからない『茶王一代記』がいい。いきなりミステリの『蛙水泉』は確かに異色。大御所、宮城谷昌光の『指』は、お色気もので、ちとあほくさかった。ご愛敬か。
【講談社文庫】
宮城谷昌光
本体 695円
2001/3
ISBN-4062649705
●課題図書一覧

「喜知次」
評価:C
派閥闘争で腐りかけた藩に育つ少年の物語。裕福な祐筆の家に生まれた小太郎が、藩政改革のため、現場仕事である郡方を志す姿は清々しい。しかし、醜い権力争いのとばっちりをうけるばかりで、内情をまるで窺えないもどかしさ、努力しても何も変えられないやりきれなさは、あまりにも現実的だ。読書という行為の興がすっと冷める程に。ビルドゥングスなのに、この冷静さは珍しいように思う。題名『喜知次』は、主人公が心の支えとし、ほのかに思いを寄せる義妹のあだ名。喜知次と小太郎がすごす場面の描写はどれも美しい。菊を摘むときも、笹舟をうかべるときも、何でもない光も雨も。それは、無力で無駄な、でも、かけがえのない人生に訪れる、一時の幸福を映して、はかない。
【講談社文庫】
乙川優三郎
本体 667円
2001/3
ISBN-4062730774
●課題図書一覧

「天狗の面/天国は遠すぎる」
評価:D
『天狗』は不可能犯罪、『天国』はアリバイ崩しを扱う。トリック、ストーリーともに『天国』の完成度が高いが、インパクトがあって、つっこみがいのある『天狗』のが楽しい。毒殺論が展開されたり、読者への挑戦もどきが挿入されたりと本格臭がぷんぷんしている割には、ヒントが多すぎて、犯人と第一の殺人トリックはかなり簡単。そこで、第二・第三の殺人トリックが争点になるわけだが、どう評価していいものか。なるほどー、でもやっぱ無理でしょ。といいたい。戯画的に描かれた農村民は、明るく泥臭く、したたかなくせに、だまされやすい。無理もとおるキャラではある。古き良き本格という感じ。
【創元推理文庫】
土屋隆夫
本体 1.100円
2001/3
ISBN-4488428010
●課題図書一覧

「十二国記・黄昏の岸 暁の天」
評価:C
十二国記五作目。『図南の翼』は好きだけれど、本編は陽子が暗いのが苦手で第一作しか読んでいない。ために、的外れな評があったら、ご容赦願います。景王として立派に成長した陽子のもとに、王と麒麟を同時に失い、混乱の極みにある戴国から、将軍李斎が助けを求めて訪れる。本作は李斎が再び戴に戻るまでを描いた長い序章のようだ。戴の状況説明が多く、行方不明の泰麒探しも伝聞ばかり。面白くなってきたところで終わってしまうし、本作を待っていた人は欲求不満になるのでは?ただ、李斎の抱く「天の理」への疑問は、十二国記という物語世界をゆるがすものであり、玄君との問答は息づまる。しかしこれも次作へ持ち越し。次作、気になる。...二作目以降も読んでおくか。
【講談社文庫】
小野不由美
本体 714円
2001/4
ISBN-4062731304
●課題図書一覧

「フォーカスな人たち」
評価:C
黒木香、村西とおる、太地喜和子、尾上縫、細川護煕。本書は、バブル時代に旬だった五人のルポである。彼らがいかに旬だったかではなく、旬の物が旬でなくなったとき、いかに決定的にずれてしまうかが描かれる。客観的で硬質なルポだが、その段差の色合いは五者五様で、著者の思いを映す。先日、新聞のいわゆる「ひと」欄で、細川氏がとりあげられていた。首相時代のことを「あれは本来の自分ではなかった」と相変わらずねぼけた発言をしておられた。段差に気づかぬまま、奇妙にゆがんだ世界のまま。文庫版エピローグで著者がいうように、バブルはまだ終わっていないのだと、ちょっと寒い思いがした。
【新潮文庫】
井田真木子
本体 667円
2001/4
ISBN-4101259313
●課題図書一覧

「解剖学個人授業」
評価:B
南伸坊が、専門家の話を聞いて、ノートをまとめる個人授業シリーズ。読みやすく、おもしろく、頭がよくなった気がする好企画だ。わからなくても許してもらえる懐の深さも嬉しい。今回の先生は、養老猛司なので、知らないことを教えてもらうおもしろさより、知っていることの異なった面に気づかせてもらうおもしろさが大きい。理系のはしっこと文系のはしっこはつながっていて、だから本書もけっこう哲学。日々の生活に役立つわけではないが、身が軽くなるのが気持ちいい。脳みそに関わる話が刺激的で、特に脳の中に無限はあるか論争はすごい。ブラックホールをのぞきこんだみたいに胃のあたりがきゅっと縮む。
【新潮文庫】
養老猛司
南伸坊
本体 400円
2001/4
ISBN-410141033X
●課題図書一覧

戻る