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勝手に目利き
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   天使の街の地獄
  【文春文庫】
  リチャード・レイナー
  本体819円
  2001/3
  ISBN-4167527723
 

 
  大場 義行
  評価:C
  どこかで聞いたような有名人の妻殺し事件。麻薬組織のボスの母親殺人事件。二つの事件を追う刑事が主人公なのだが、なんと230ページまでほとんど事件が動かない。その後導火線に火がついたかのように物語が動きだすわけだが、異様な盛り上がりの割に最後にしゅんと萎む感じが否めない。刑事がダメすぎてなにも事件が動かない序盤、萎む終盤と気になりすぎるのだが、この中盤の盛り上がりは一読の価値あり。確かにエルロイの副読本としたい気持ちは判る。

 
  操上 恭子
  評価:B-
  映画界のスターという名士に対して何をすることもできない司法への無力感。別離れた後障害者となった元妻への未練と罪悪感。同時に起こった、この二つの挫折を前に、優秀で堅物の殺人課刑事に人生の転機が訪れる。そう、この主人公「わたし」は有能で、順調に出世競争に勝ち残っている優秀な刑事らしい。だが、とてもそんな風には感じられない。自分勝手で、女々しくて、後ろ向きな中年の男の内面の葛藤を、ミステリに絡めてとてもうまく表現している。人間味のある魅力的な人物造形と言えるかもしれない。脇役たちもなかなかイカしている。だが、クールでニヒルで格好いいハードボイルト探偵に慣れている身には、どうにもこの主人公が情けなくて、親近感を感じることができなかった。

 
  小久保 哲也
  評価:C
  自分自身を変えようともがくあまりに、話はどんどん悪いほうへと進んで行く。自分が変わるための禊(みそぎ)かもしれないけれど、自分でまいた種に翻弄されるというストーリーは、今一つ面白味に欠ける。というか、550ページもあるわりに、ストーリーに起伏が少なすぎる。いろんな伏線が張られていて、絡み合ってもいるのだけどでも、全体としてなんだかとってもこじんまりとしている。はでな銃撃戦がないとか、そういう意味ではなくて、スリリングではないのだ。逆にスリリングでない分、登場人物の造形は、とてもよく描かれている。だから、ちょっと長い作品だけど、肩の凝らないアメリカン・テイストの犯罪小説を楽しみたい人にはいいかも。

 
  佐久間 素子
  評価:C
  普通のハードボイルドかと思っていると、主人公がどんどんハードボイルドからずれていくので、びっくり。自分内ルールを破り、かつ、それに対して、屁理屈をもって弁解するという堕落っぷり。決してダーティーヒーローなどというかっこいいものではない。どちらかというと情けない。共感もできない、やばいほどの情けなさ。しかし、主人公の魅力と反比例して、ストーリー力は増していくので、読書最中の期待感は途中から俄然たかまる。このまま容赦ないラストにもっていってくれたら、それこそおもしろかったろうに。丸くおさまりすぎて、嘘くさくなった。こういう結末が似合うには、よほどスマートでスタイリッシュでないと。

 
  山田 岳
  評価:D
  純文学やね、これは。刑事小説のスタイルをとってはるけど、ハードボイルドどころか温泉たまご。主人公の独白がえんえんとつづきはるし、字数も漢字もめっちゃ多い。主人公は父がアメリカ人で母がイギリス人。両親の離婚のためにイギリスの大学を出て、大学院の留学でアメリカにわたらはったら、いつのまにかロスで父とおなじ職業=捜査官をしてはった。これが心の分裂その1。ポルシェをのりまわし、ハリウッド関係者の子弟がかよう学校に娘をいれるのが幸せとおもってはるのが、その2。仕事にのめりこんで妻子に捨てられ、その妻は同僚とデキてはったというのが、その3。そのつぎには、もっともっと大きな分裂が・・・。
 読者は、この哲学・心理分析地獄に耐えられるか?

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