「ぢん・ぢん・ぢん」 評価:A とろんとした眼差しをした人物の思ってもみなかった本心を聞く。ハッとする。どこにでもいる青年が、目をランと輝かせて肉欲に溺れ、暴力に走る。やるせない閉塞感の爆発ではない。世界の中心で自分がスポットライトに熱せられているのに気づいた時の、高揚感の表現である。一時の喜びも悲しみもただ人生のある一幕に過ぎず、ハッピーエンドもアンハッピーエンドも本当は存在しない。この世の実態はいつまでも泥の中をゆくような粘着質のだらだらした人生の集大成であり、人の付けた終止符だけがあちこちに残る。この本にあるのは血の赤や空の青い色ではなく、つややかであるいはしわの寄った、生々しいばかりの肌の色、人間の色。気づけば吸い付けられたように見入ってしまう、妖しい肌の感触だった。