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山田 岳の<<書評>>
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Queen

「ぢん・ぢん・ぢん」
評価:D
おもろいけど、評者はスプラッターがあかんねん。上巻287ページからの指詰シーンはパスしたい! セックス、暴力、オカマの「萬月の法則」は今回も健在。ちゅうか、より強化されたかんじやね。
「薄汚く、不細工なものを人前にさらすのは、犯罪だ」「うんこ味のカレー、カレー味のうんこ、どうしてもどちらかを食べなければならないとしたら、どちらを食べるか」「この一歩は小さな一歩であるが、大きな第一歩である」等々、「格言・名(迷)言」がそのままプロットになってはる。「人はなぜ、性にとらわれて苦しむのか」「孤独は腐った匂いがする」純文学からはもっとも遠い方法で、純文学を追及してはんのやねえ。

【祥伝社文庫】
花村萬月
本体(上下とも)819円
2001/3
ISBN-439632846X
ISBN-4396328478
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「上海ベイビー」
評価:C
中国はタテマエの国やさかい、この程度の話で発禁にしはる。まあ、日本でも村上龍が『限りなく透明に近いブルー』でデビューしはったときは、おおさわぎやったけ’ど。マシンガンのような疾走感ある衛彗の文体は、上海が六本木やNYと同時代の空気をすっていることをみごとに伝えてはる。け’ど、よくよく読んでみれば、主人公の意識はエリカ・ジョングの『飛ぶのが怖い』とさほどかわらへん(ジョングも中国系アメリカ人やった)。「なにかやってなきゃ退屈で死にそう」は、フランスのマルグリット・デュラスにも通じるかな。おもろくなるのは210ページから。
【文春文庫 】
衛 慧
本体 581円
2001/3
ISBN-4167218747
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「天使の街の地獄」
評価:D
純文学やね、これは。刑事小説のスタイルをとってはるけど、ハードボイルドどころか温泉たまご。主人公の独白がえんえんとつづきはるし、字数も漢字もめっちゃ多い。主人公は父がアメリカ人で母がイギリス人。両親の離婚のためにイギリスの大学を出て、大学院の留学でアメリカにわたらはったら、いつのまにかロスで父とおなじ職業=捜査官をしてはった。これが心の分裂その1。ポルシェをのりまわし、ハリウッド関係者の子弟がかよう学校に娘をいれるのが幸せとおもってはるのが、その2。仕事にのめりこんで妻子に捨てられ、その妻は同僚とデキてはったというのが、その3。そのつぎには、もっともっと大きな分裂が・・・。
 読者は、この哲学・心理分析地獄に耐えられるか?
【文春文庫】
リチャード・レイナー
本体 819円
2001/3
ISBN-4167527723
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「兄弟」
評価:A
ちわ、ビートたけしです(嘘)。テレビの「兄弟」ではよ、オイラのやった「兄さん」が一方的に悪者にされちまったけどよー、原作読むと、けっこう似たとこあったんじゃねえか「禮三さん」にもよ。まえに娼婦やってたかもしれねえっだけで女と確かめもしねぇで別れちまったり、芸能界で羽ばたくにはジャマだってんで妻子をすてちまったり、テメーも、とんでもねーことやってんじゃねぇかっての。顔つきまで似てるっていうじゃねぇか。だから捨てられなかったんだ、「兄さん」をよ。「なにかもっと投げやりな、人生を真面目にうけとめていないような、生意気で無感覚な衝動」から兄弟ふたりして逃げられなかったわけだ。そしてこの「衝動」を植えつけたのはよ、戦争だったんだ。よくおぼえとけ、コノヤロ!チャンチャン!!
【文春文庫】
なかにし礼
本体 552円
2001/3
ISBN-4167152061
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「異色中国短篇傑作大全」
評価:B
中国歴史小説のダイゴ味ゆうたら、田中芳樹「茶王一代記」、伴野朗「汗血馬を見た男」、藤水名子「范増とハンカイ」。「茶王」は毎日お茶を飲んでくらしたいために国をたてはった男、「地汗馬」は匈奴の捕虜となりながらも西域と国交をひらいた男の話。「范増」は劉邦をうつ千遇一在のチャンスをのがした項羽と家臣団。中村隆資「西施と東資」は「美人だからといって幸せになれるわけではない」「国なんかあてにならない」の教訓をふくんではる。宮城谷昌人「指」は『玉人』にも収録。女を幸せにする指は、みずからをも幸せにする。これも教訓? 安西篤子「曹操と曹丕」は「親の心、子知らず」、森福都「蛙吹泉」はミステリー。もりだくさんやね。
【講談社文庫】
宮城谷昌光
本体 695円
2001/3
ISBN-4062649705
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「喜知次」
評価:A
あさの連続テレビ小説にうってつけやね。子ども時代にはわんぱく仲間がいはって、友にふりかかる災難からなんとかたすけようとしはる。あれこれしはるうちに農業の技術指導という、じぶんの進むべき道を主人公は見つけはる。おしよせる嵐もなんのその。青春のエネルギーを治水にぶつける。それを見守る妹、喜知次。ええなあ。テレビ化の問題点はただひとつ、あさから時代劇を見ることを視聴者がうけいれてくれはるかどうか(笑)。農民に天災があるように、武士には幕府という人災がある。それで話が一変するけ’ど、それはもう、エピローグやねえ。兄妹の淡いおもいは夢と消え、主人公の志しも挫折。そやのに読後感はふしぎ’とさわやか。
【講談社文庫】
乙川優三郎
本体 667円
2001/3
ISBN-4062730774
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「天狗の面/天国は遠すぎる」
評価:B
輸入盤CDにありますやろ? むかしのLP2枚分がCD1枚にはいってるやつ。あれのミステリー文庫版。「天狗の血」は今やったらテレビの2時間ドラマ「信州天狗の里殺人事件」、「天国」は「はぐれ刑事 信州編」の原作になるやろね。どちらも40年以上まえにかかれはったのに、文体が今風で、そら、びっくり。土屋はんから、学びはったミステリー作家もおおいのんとちゃいますか?
【創元推理文庫】
土屋隆夫
本体 1.100円
2001/3
ISBN-4488428010
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「フォーカスな人たち」
評価:B
うーん。好きキライがはっきりわかれんのとちゃいますか。黒木香、村西とおる、太地喜和子、尾上縫、細川護煕、それぞれの評伝は一級品やのんけど、いかがわしいのが、それぞれの前フリにつけてはる、おなじ時代を生きた「似たような人々」。そのすがたを写真週刊誌のバック・ナンバーからピック・アップしてはんねんけ’ど、いかがわしい人をとりあげると、文章までがいかがわしくなんのは、なんでやろ? 直接取材しはったもんと雑誌をぺらぺらめくって書かはったもんとの違いやろか。
 とまれ、黒木香と村西とおるの関係が世間でいわれてはるのと違うとか、太地喜和子が女優、太地喜和子を演じてはった、と看破するあたりは、さすがやねえ。
【新潮文庫】
井田真木子
本体 667円
2001/4
ISBN-4101259313
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「解剖学個人授業」
評価:C
「個人授業」というタイトルやのに、実際は授業のあとのレポートとそれについての講評。養老学を伸坊生徒がどうかみくだきはったか、がポイント。解剖学に孔子をもちだしはって「中国は都市化したから儒教しか生き残れなかった」といわはるあたりは、伸坊生徒のチカラ技やね。だからどーしたと言われるとつらいけ’ど、無限に脱線していかはるのが、この本の魅力。はなしは「無限」にもおよんで、「よく『若者には無限の可能性がある』と言うけど、若者でいられる時間には『限り』があるから、これは単なる気休め」と言ってはる。命短し恋せよ乙女、勉強しろ中年男ってとこやろか。
【新潮文庫】
養老猛司
南伸坊
本体 400円
2001/4
ISBN-410141033X
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