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   「レディたちの
    フィンバーズ・ ホテル」
  【東京創元社】
  ダーモット・ボルジャー編
  本体 1900円
  2001/3
  ISBN-4488016332
 

 
  今井 義男
  評価:A
  このアンソロジーは掘り出し物である。まず形式が面白い。七人の女性作家による、架空のホテルを舞台にした競作集だが、他の作品のパーツを織り込みながらというところがミソである。この設定が最大限に効果を発揮するのが、老いた元女優の銀幕への執着が、エネルギッシュに爆発しまくるペントハウス編である。本欄3月分テキストの『世界の終わりの物語』に入れてもおかしくない怪作だ。まったくとんでもない婆さんがいたものである。このあと起こったであろう混乱は想像するだに楽しい。娘を訪ねてきた父の老醜が哀感を誘う102号室編。幼い頃に手放した息子との再会を前に過去がフラッシュバックする中年女性を描いた105号室編も忘れがたい。国内でも井上雅彦あたりにこんな企画を実現してもらえないだろうか。ホラーやミステリ部門なら絶対受けると思うのだが。作家は苦心するだろうけれど。


 
  小園江 和之
  評価:C
  全部で七作のオムニバス形式。編集がとてもうまくいってて、読み進んでいくと各物語が立体的に繋がっていることが見えてくるって仕掛け。しかも全てが女性作家によって書かれている。なんの予習もなしに読んでもそこそこ面白いんだけど、アイルランドの国情と女性について知っておけば、分からなかった可笑しみも納得できるはず。特にしょっぱなの『微妙な問題』など、なんでこんなことすんのか解説を読んでやっと分かりました。だからアイルランドになーんにも興味の無い人に手放しでお勧めできるとは思えません。私は『ピュー夫妻の結婚』がいちばん気に入りました。

 
  石井 英和
  評価:C
  この採点は、評価というより「採点不能」の意味である。各作品の著者は、そして登場人物は、あるいは泥沼の如く内省し、あるいは際限なくお喋りしたりしながら、「自身がアイルランド人であること」に起因する問題に惑溺しきっている。この作品は恐らく、自身がアイルランド人であるか、あるいはアイルランドに濃厚な関心を抱き続けている人々のものであって、それ以外の者が共感を持つのは、かなり難しいだろう。「部外者」にとって理解が可能か、いや、その必要がある物語なのかどうか?ただ一つ、104号室における出来事は、一つの価値観に囚われることによって視覚狭窄に陥った人物に関する一幕のファルスとしての普遍性を持っており、普通に楽しめた。と同時に、その他の作品の私からの「遠さ」を改めて実感させる。

 
  中川 大一
  評価:D
  一つの短編の主人公が、別の短編では背景としてチラッと登場する。ユニークな仕掛けだなあ。阿刀田高の『街の観覧車』もそんな趣向だった。もっと砕いて言うなら、バカボンのパパが「おそ松くん」に一コマ出てくるみたいなもんだね(「おじさん、出るマンガ違うみたい」(C)赤塚不二夫)。この本は、それぞれの短編を別々の著者が書いてるんだから、構想段階で回し読みしてるわけだ。凝ってる凝ってる。それはいいんだが、肝腎の話自体が、うーむ……? 最初と最後の2本はOK、間の5本はピンとこなかった、という逆サンドイッチ状態。この打率はつらい。が、巻末の解説を読むと、こっちが楽しみ方を知らないのかなあという気にもなる。ただこの解説、ネタをばらしすぎだぜ。読むなら本文の後にしよう。

 
  唐木 幸子
  評価:B
  ある夜、新装まもないフィンバーズホテルで起こった7つの物語が連作で語られる。各短編の女性主人公の年齢も置かれている立場も異なるが、実は書き手も別らしい。どの女たちもトレンディなホテルの部屋の鍵を閉めればそれぞれの秘密を抱えて少々みっともない状況にある。ちょっと哀しい彼女らの物語の中でも私のお勧めは105号室と106号室。両方とも主人公は老年に差し掛かっているが、そこで語られる人生には深みがある。友人の夫に精液を貰って自分で人工授精をしようとしたり(101号室)、ビジネスの勝負の日に狂気の父に邪魔されたり(102号室)している女盛りのレディよりもグンと魅力的だ。待てよ、これは私が中年以降の女性心理に共感を覚えるようになったということだろうか・・・・・。Bにしとこう。

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