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   「父の輝くほほえみの光で」
  【集英社】
  アリス・ウォーカー
  本体 2300円
  2001/3
  ISBN-4087733440
 

 
  今井 義男
  評価:A
  弱者や少数派は差別される。女性と異民族は少数派でなくても、やはり抑圧の対象になる。女性の少数派か弱者、または異民族の少数派か弱者なら、通常の二乗分不利益を被る理屈になり、少数派で弱者で女性、あるいは少数派で弱者で異民族なら三乗分、少数派で弱者で異民族で女性なら……という風に考えていると、自分が広場恐怖症になったような気分になって、たちどころに眩暈が起こりそうになる。私にはムンド(黒人とアメリカ先住民の混血種族)の傷痍軍人マヌエリートと、小人症の白人女性イレーネの言葉を自分の娘たちに伝えることと、アリス・ウォーカーが小説を書かなくてもいい時代が来るのを祈るぐらいのことしかできない。《WOMAN IS THE NIGGER OF THE WORLD》とJ・レノンが歌っても、なにも変わらなかった。我々の暮らす世界が天井桟敷だったなら少しは気が楽だったろうに。

 
  石井 英和
  評価:E
  まず、中南米文学風魔術的リアリズム表現みたいな世界が展開されるが、それは50ペ−ジ程で消え失せ、その後は「欧米先進国風の小説表現」が続く。こんな風に、第三世界の美味しい所を勝手に摘んでくるのを「新植民地主義」って言うんじゃないの?著者の濃厚なナルシズム発露に辟易。ある時は高揚しある時は内省に沈みしながら著者は、全世界の虐げられた者、ことに女性への共感と抑圧者への怒りを歌う。が、その一方で、例えば冒頭に挙げた、自分の気がつけない「弱い立場」へは無神経な対応。「私は正義の使徒」との陶酔の中で自己を客観視出来なくなった著者はいつか、「私こそが正義」との高慢に至っている。そんな状態で書き上げられた、この行き当たりばったりの小説の文学上の不備の正当化に「全女性の為の戦い」との大義名分を流用するなど、許すべきではない。

 
  中川 大一
  評価:D
  アメリカ合衆国において、アフリカ系の人びとは差別されている。では、彼らは差別する側に回ることはないのか。そんなことはない。黒人男性は黒人女性をないがしろにしている。レイシズムとセクシズム。二重の差別構造の中で、抑圧された女たちの主体を解放せよ。精神的に? それだけじゃなく性的にこそ。おのれのセクシャリティを我が手に! ちょっと強調しすぎたかな。読んでてそんなメッセージ色を感じるわけじゃない。むしろ、抑圧された者は解放闘争のことばっかり考えてるというステレオタイプを破っているところが、少なくとも私は新しく感じた。でも、小説としてうまく行ってるとは思わない。生硬なメモ書きを輪ゴムで束ねたような文章で、何回も休みつつようよう読了しました。

 
  唐木 幸子
  評価:C
  映画『カラー・パープル』を観たときと同じで、アリス・ウォーカーが描こう、訴えようとしているその真髄は私には理解出来ないのだが、本作はきわめて私的に興味深く読めた。早い話が私にも姉がいて一本気な父と何かと激しく衝突していた。年の離れた末娘であった私は、私には優しいこの2名がなんでこうなるかなあ、と思いつつ、掴み合いの喧嘩を見ていたものだ。幼いなりに私は図太かったのか、本作のスザンナのように傷つくこともなかった。【家の中で一番チビ】という立場は何事にも責任がないが故に、家族の人間関係や出来事の真実を最も客観的に見ることが出来る。本作を読んで、つくづく長男長女というのは可哀想なもんだという、アリス・ウォーカーが聞いたら怒りそうな感想が湧いたのであった。

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