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石井 千湖の<<書評>>
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Queen

「スプートニクの恋人」
評価:C
失踪モノが流行ってるのか。それとも本の雑誌社の皆様の趣味?『スプートニクの恋人』は先駆けなのかな。さすがは村上春樹。でもねえ、いちいちくすぐったい。まずミュウという名前にヒャー。小泉今日子の歌に出てきたな、そんな名前。アメリカ文学仕込みの気のきいた素敵な比喩にかゆーくなる。趣味がいい大人の女に恋するすみれは不思議ちゃん(死語)だし。なんか登場人物全員で「私変わってるって言われるの」って主張してるみたい。勝手にやっててくれ、ってなもんだ。どっぷりひたって読んだら自分が繊細で鋭い感性を持った人間になったような錯覚に陥ってしまいそう。美しい嘘に陶酔してみたいけどスカした文体がとっても苦手なので悪しからず。
【講談社文庫】
村上春樹
本体 571円
2001/4
ISBN-4062731290
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「女について」
評価:D
久しぶりに中学の先輩に呼び出されてエンエンと自慢話をきかされた気分。つまり「だからなんなんだ」と言いたくなる。要するにこんな女とヤった(もしくはヤりたかった)という話でヤマもオチもイミも私は見出せなかった。これがほんとの「やおい」なんじゃないのか。『ジャンプ』は出てくる男女の人物造形は気にくわないにせよ、物語はすごく面白かった。でもこの短篇集ときたら何故か女性の職業は不明の者を除くとすべて男性対象のサービス業。ちょっと馴染みだっただけの客に思い出とか言われても困るだろう、きっと。主人公も友人の性病男もおめでたすぎる。梅雨空のように湿気たもやもやをこよなく愛する恋愛体質のかたにはお薦め。
【光文社文庫】
佐藤正午
本体 457円
2001/4
ISBN-4334731384
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「夫婦茶碗」
評価:B
臭いが強い食べものは一度気にいると病みつきになる。町田康のダメ人間文学もそう。まったくヘンテコな文体である。である体とですます体がいりまじり、いきなりノリツッコミしたりする。文壇のお年寄りが怒ったというエピソードもむべなるかな。<ああ夢がこわれました>って?うひゃひゃひゃ。最初は拒否反応を示されても今や芥川賞作家だ。<夢が叶いました>。真似したくなるな、町田式は。三行に一回くらいゲラゲラ笑いながらも、ちょっとうすら寒くなってくる。主人公の日常レベルの狂気に。たとえば冷蔵庫に卵を入れる順番にこだわったり、野良猫の系図をノートに記録したり。筒井康隆の解説も面白いので400円はとってもお買い得だと思うが。
【新潮文庫】
町田康
本体 400円
2001/5
ISBN-4101319316
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「心とろかすような」
評価:C
他の作家だったら評価はAかも。とてもとても巧い作家だとどうしても評価は辛くなる。傑作であることに慣れてしまうからだ。どれを読んでもとりあえずハズレはない。たとえば表題作に出てくる悪魔的に可愛い女の子。『白い騎士は歌う』のせつなさ。『マサ、留守番する』のハラショーという犬。特にハラショーには涙腺が緩みっぱなし。自分の無力さをひしひしと感じた出来事があった直後だったのでとてもこたえた。面白かったんだけどなあ。いつもの宮部みゆきなので新鮮味はないのだ。美味しいレストランもずっと通ってると最初に食べたときの感動は薄れてしまうもの。欲望にはキリがなく力がある作家には注文が厳しくなっていく。読者は贅沢。
【創元推理文庫】
宮部みゆき
本体 620円
2001/4
ISBN-4488411029
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「鳥頭紀行ぜんぶ」
評価:A
湿気が多くて気持ち悪い日には痛快な本を読むにかぎる。『恨ミシュラン』のころからファンなのだがほんとうにサイバラはカッコいい。その目線の低さ、潔さ。どんなに下ネタを書いても汚い言葉づかいをしても読んでいて不愉快ではない。相手が大物だろうが高学歴の編集者だろうがヤンキーの友達だろうが変わらぬ率直な言動が気持ちいい。そこまでやるう?というくらい傍若無人、怖いものなし。『鳥頭紀行ぜんぶ』はそんなサイバラの面白さをぎゅっと凝縮しているのでものすごくお薦め。なんと結婚してしまうことになる鴨ちゃんと出会ったタイ編が私は特にお気に入りだ。ただし女性がハマると平気で下ネタを言うようになって周囲をひかせてしまうかも。電車のなかでの読書も思わず吹き出してしまう恐れがあるので注意。
【朝日文庫】
西原理恵子
本体 476円
2001/5
ISBN-4022642661
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「頭蓋骨のマントラ」
評価:B
あまり大きな声では言えないが仏教美術が好きだ。高校が仏教系で授業か何かでチベットの砂曼荼羅の映像を見せられたことがあるがとても色鮮やかで美しい。転生が信じられている不思議な国。ダライ・ラマがインドに亡命してるけど中国の支配がこれほどまでに文化を破壊しているとは知らなかった。日本だってアメリカだって同じことをしているんだけどそれにしてもすごい。舞台の目新しさのせいか最初はちょっと読みづらい。しかし殺人事件の謎は錯綜しているし、囚人の身となってもなお信仰を失わない崇高なラマ僧たちは大ピンチだし、読み進むうちに緊張感が高まってやめられなくなる。何よりチベットの風景描写が圧巻。いつか行ってみたいと思う。
【ハヤカワ・ミステリ文庫】
エリオット・パティスン
本体 660円
2001/3
ISBN-415172351X
ISBN-4151723528
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