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小久保 哲也の<<書評>>
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Queen

「死の泉」
評価:A
本が厚い。手に取ると重い。帯を見ても、あらすじを見ても、とても面白そうに思えない。課題図書でなければ、ほぼ間違いなく読むことはないだろうと思う。吉川英治文学賞受賞といわれても、ピンとこないし、週刊文春ミステリー1997年の第一位と言われても、ふーんという感じ。だから、この本の良さを知るには、とにかく読んでみるしかないのだ。第二次大戦の終戦を挟んだドイツを舞台に繰り広げられる物語は、現実の世界にしっかりと根をはりながら、夢の中をさまよって行く。戦時中は、狂気の支配におびえ、戦後は自己否定を強いられたドイツ。そのなかで絡み合う人々の姿。最後は少し作り過ぎたきらいはあるのだけれども、それさえなければぐりぐりの花マルであった。惜しい。ちなみに、帯には、「舞台化決定」とあるが、この作品を、どうやって舞台化するのか、興味津々である。
【ハヤカワ文庫JA】
皆川博子
本体 860円
2001/4
ISBN-4150306621
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「グランド・ミステリー」
評価:C
部分部分を見ると、すばらしく光っているのに、全体像がわかりにくいために、結局はキツネにつままれたような、そうした感覚しか残らない。何度もくりかえされる場面が微妙にずれていく記述には心躍らさられるのだが、もう少し構成を考える必要があるのではないだろうか?全体を何度か読み返せば理解ができるかもしれないが、再度読み直そうと思うほど迫って来るものは感じられない。エンターテインメントと言えなくもないが、それよりむしろ奇書と評するほうがよりすっきりと本書の位置を思い描けるような気がする。少なくとも、読み終わったときに充実感が欲しい。それさえあれば、今月一押しの作品だったのにと返す返すも残念。
【角川文庫】
奥泉光
本体 724円(上)
本体 705円(下)
2001/4
ISBN-4043578016
ISBN-4043578024
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「スプートニクの恋人」
評価:B
読みたい本がたくさんあり過ぎて、最近はなかなか読み直すことができない。そんな中で、村上春樹が課題図書に入っていたのは、望外の喜びである。彼の文章は、初期のころから比べると、ポップな感覚は薄れていき、最近はなにか考え込んだ跡が感じられるようになって、あるがままに筆を進めたのではないような肌触りに、一行読むごとに自然と裏の意味を感じ取ろうとしてしまうのが、少し残念だ。それが、いいとか悪いとかいう問題ではないにしても、やっぱり少しさみしい。もっと、昔のように溢れ出るような感覚の彼の文章が読んでみたい。こんな風に感傷的に書くと、この作品がイマイチなのかと思われると嫌なので最後に一言だけ。「それでも、ムラカミは、いい」。
【講談社文庫】
村上春樹
本体 571円
2001/4
ISBN-4062731290
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「女について」
評価:D
昨年話題になった「ジャンプ」を読む時間がないまま過ごしてしまったので、期待度120%で読み始めたのだが、肩透かし。あまりにもさらっとし過ぎていて、なんだかよくわからないうちに読み終わってしまった。昔、「越乃寒梅」を初めて飲んだときに、飲み口があまりにさらっとしていて、なんだかつまらなかったのを思い出す。読み終わったときに、これが「佐藤正午か!」と叫びたかったのだ。唸りたかったのだ。でも、しかしそれは叶わず、やっぱり「ジャンプ」を読まないと、彼の良さは分からないのかなぁ。。。と、がっくし。
【光文社文庫】
佐藤正午
本体 457円
2001/4
ISBN-4334731384
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「夫婦茶碗」
評価:B
今までずっと「町田康」という人は、ものすごいお年寄りだと思っていたので、表紙裏の著者近影を見てズッコケた。若い。若すぎる。僕と同い年とは、知らなかった。しかも、顔がロックンロール系なので、2度びっくり。そうして、読み始めて、も一度びっくり。これはまるで、筒井康隆だっ。と思ったら解説を筒井康隆が書いていて、またまたびっくり。ほんとに驚かしてくれた一冊だ。筒井康隆ファンであれば、文句なしに楽しめるのではないだろうか。特に、筒井のファンだけれど、彼の作品は、やたらとキモいという人や、最近の彼の作品はなんだか難しくて。。。という人には、うってつけだ。読み終わった後、他の町田作品が気になって仕方なくなること請け合い。でも、それは逆に言うと、この作品のどこが『町田康』風なのか?というのが、分かり難いとも言える。一度じっくりと手に取って、筒井康隆と町田康の違いを確認してみては如何でしょうか?
【新潮文庫】
町田康
本体 400円
2001/5
ISBN-4101319316
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「心とろかすような」
評価:B
はっきり言って、ジャーマン・シェパードが飼いたくなる。だからといって、名前に「マサ」と付ける気はないけれど、とにかく家に飼いたくなる。それほど、犬がかわいく思えてしまうのが、すごい。こういう、犬の視点で書かれた作品というのは初めての経験なので、最初はやや身を固くして読み始めたのだけど、それも最初の数ページで作品に没入。あとは、マサと一緒に鼻をくんくんしたり、寝そべったり、近所を散歩したりしているうちに、あれよあれよと読み終わってしまった。犬の好きな人にも、そうでない人にも、お勧めの一冊。問題は、読み終わったときに、実際に犬を飼うかどうか、ということだけだ。
【創元推理文庫】
宮部みゆき
本体 620円
2001/4
ISBN-4488411029
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「鳥頭紀行ぜんぶ」
評価:D(文庫でなければB)
読みにくい。文庫にしたせいで、字が小さすぎ。ところどころ印刷がおかしく、字が2重になっているところもあり最悪。しかし、西原理恵子の言葉の感覚はすごい。最初から最後まで、飛ばしまくりの一冊は、感激もの。せめて、1サイズ大きくて、目に優しければ、文句無く楽しめたのに。目の良い人には超お勧めだけど、最近目が疲れて眼精疲労気味、という私のような人には勧められないのがとっても哀しい。正直言って、30分以上連続して読むことができませんでした。。。とほほ。
【朝日文庫】
西原理恵子
本体 476円
2001/5
ISBN-4022642661
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「頭蓋骨のマントラ」
評価:A
チベットの文化。語り継がれる悠久の歴史。繰り返されるマントラの祈り。夕日に照らされる荒野に佇む巡礼者達。暗闇で稲妻が走る。浮かび上がる守護魔人タムディン。強制労働収容所の作業現場で発見された首なし死体を巡って語られる物語は、中国とチベットの文化、近代と宗教の対立を軸に回転していく。定められたタイムリミットのなかで真相を探り出すことはできるのか?現代の神秘、チベットを舞台に多くの人の血が流されて行く。そして、主人公が言う。「私は望みをいだかずにいられるほど強くないのです」。そうなのだ。諦めてしまえることならば希望など抱かないのだ。あきらめたくない。望みを棄てたくない。だから、もがき苦しむのだ。だけど、そうやって苦しんでいけば、いつかは強くなれるのだろうか?望みを抱かなくてすむほどに。
【ハヤカワ・ミステリ文庫】
エリオット・パティスン
本体 660円
2001/3
ISBN-415172351X
ISBN-4151723528
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「スノウ・クラッシュ」
評価:未完読
どうしても肌に合わない作品というのがあるというのを知るのは、なんど遭遇しても驚いてしまう。スティーブン・ハンターの『悪徳の都』のときもそうだし、今回もそうだ。特に今回駄目だったと思われるのは、ルビと、括弧書きの多さかもしれない。<配達人>と書いてルビにデリヴァレイターと書いてみたり、”バーブクレイヴ”と書いて(郊外都市国家)と加えたりというのは、もしかして意味があるのかも知れないが、「家族」に「ファミリー」とルビを付けたり「特急便屋」に「クーリエ」とルビを付けたりするのは、全く意味がわからない。「AK-47(旧ソビエト製の小銃)を分解」と書くのなら、堂々と「旧ソビエト製の小銃 AK-47を分解」と書いていただきたい。まぁ、しかしそれが肌にあわない理由なのかと言われると、心もとないけれど。とにかく合わないものは、仕方がないのです。というわけで痛恨の未完読。
【ハヤカワ文庫SF】
ニール・スティーヴンスン
本体 各740円
2001/4
ISBN-4150113513
ISBN-4150113521
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「シンシナティ・キッド」
評価:B
文句なく面白い。ギャンブル小説と言っていいのかどうか、よくわからないけれど、こういうジャンルの作品は初めてで、最初の作品がこれほど面白いと、また読みたくなってしまう。とにかく、歯切れがよい。すぱっとしていて、淀んだところもなく、あっさりとして、気持ちいいくらいにストレートな作品だ。こういうのを珠玉の短編というのだろう。問題は、作品が始まる前に訳者によって書かれたスタッド・ポーカーの説明だ。なんでポーカーの説明を作品の冒頭に置く必要があるのか、ぜんぜん理解できない。作品の冒頭というのは、とても大事な場所なのではないのでしょうか?ぜひ、この作品は、冒頭の説明を他の場所に移動して、もう一度出版していただきたいものです。それまでは、この最初の説明はすっとばして読み始めることをお勧めします。(読みながら必要を感じたら読めばいいことですから)
【扶桑社ミステリー】
リチャード・ジェサップ
本体 590円
2001/3
ISBN-4594031048
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