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   真夜中に海がやってきた
  【筑摩書房】
  スティーヴ・エリクソン
  本体 2,300円
  2001/4
  ISBN-4480831886
 

 
  今井 義男
  評価:A
  詩的な響きの表題に加えて、<覚醒の瞬間>という主題がひときわ刺激的である。語り手が断片的な主観を各々の座標軸に書き留めていく手法には、迷路に踏み込んだ子供さながらに不安をかりたてられた。時計回りに歩く男が作るアポカリプス・カレンダー、メモリーガールの売る記憶、黒く塗られたパラボラアンテナ、狂女の地図など、閉じられた無限大の球体に転がるオブジェが、何度醒めても終わらない悪夢を執拗に思い出させる。覚醒したあと世界は変貌を遂げるのか、それとも単に永いスパンの振り子運動がリセットされるにすぎないのか、その答えは誰にもわからない。変貌したとしても別のカオスが待ち受けているだけのような気もする。傑作ぞろいの6月分テキストだが、実はこの作品がいちばん気に入っている。OSに接続する端子の形状があまりに私とぴたっと合いすぎて、怖いぐらいだった。だから人に教えたりせず、レオノーラ・カリントンの絵画のように、自分一人だけでこっそり楽しんでいたいと思った。

 
  石井 英和
 

評価:E

  昔ながらの文学青年が精一杯の虚勢を張って書き上げた「ありがちな魂の彷徨の書」というべきか。登場人物たちの心はこの種の物語の定石通りに屈折しており、スト−リ−も定番の、倦怠と不毛と性描写で満たされている。主人公は形通りの独白をする。「アタシってカシコイのに、どうして世の中ってアホばかりなのかしら。あ−あ、だるいわ」そして政治の話、あれこれ。そもそも、政治の話題を作中に登場させる事で、作品に箔を付けようなんて、なんたる貧相でカビの生えた権威主義だろうか。古来、著者の抱いているのと同質のコンプレックスとその裏返しの虚勢を切り札として、世の荒波から自我を守ろうと考えた青少年たちによって、このような書は何度も書き下ろされ、伏し拝みつつ読まれてきた。時代ごとにレッテルを貼り変えられつつ。これが何、ポストモダンて言うの?

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