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   ミステリ・オペラ 
     宿命城殺人事件
  【早川書房】
  山田正紀
  本体 2,300円
  2001/4
  ISBN-4152083441
 

 
  今井 義男
  評価:C
  人体浮遊に貨物列車消失、密室殺人に見立て殺人と矢継ぎ早に繰り出される大技小技。入り組んだ人間関係。過去と現在の不可解な交錯。これぞ王道の、それもど真ん中を往く堂々たる本格長編ミステリである。ところが贅沢なもので、ミステリ・マニアは足るということを知らない上に、口さがない。よって柔道の公式試合のようにあやふやな判定は頼まれてもできないのだ。本の厚みに比例して、不可能興味の<量>は確かに充分すぎるほどある。あとは、それを上回る<質>をもって解決してくれれば文句なしだった。長丁場を支えるよすがは、やはり全ての疑問が氷解する期待にある。大仰な仕掛けでひねくれた読者をねじ伏せるには、そうとうな体力が不可欠だ。謎のための謎では寂しい。それとあまり魅力的な人物がいないのもつらい。探偵小説に首まで浸かっていた頃なら、もっとのめり込めたかもしれない。

 
  原平 随了
  評価:D
  『神狩り』や『弥勒戦争』に仰天し、『崑崙遊撃隊』や『ツングース特命隊』で興奮し、『女囮捜査官』シリーズは、トリックとハードボイルドの共存に目を見張り、あるいは、最近の『妖鳥』や『螺旋』、『神曲法廷』などは、トリックの過剰さに違和感を覚えつつも、その幻想的なタッチに魅了され、そんなふうに山田正紀作品を読み続けてきた。山田作品は、そのトリックがあまりにも荒唐無稽であることによって、逆に、壮大なスケールの物語を支え、法螺話ぎりぎりの微妙なバランスを保っていたように思う。けれど、この『ミステリ・オペラ』に至って、その絶妙のバランスは崩れさり、物語は空転し、バカげたトリックが自己主張するばかりだ。それを〈メタ・ミステリー〉と呼ぼうが何と呼ぼうが、これはもはや、徒労としか言いようのない空虚な作品と断じざるを得ない。

 
  石井 英和
  評価:C
  夫の自殺の真相を追う妻の物語りに始まり、やがて小説は、時間と空間を自在に飛び回り始める。「南京事件」や満州国建国の秘話、甲骨文字・・・著者の築き上げた文学の大伽藍に圧倒される思いがした。が、物語が終盤に差しかかり、提示された謎への回答が示されだすと、こちらの気持ちは萎えて行ってしまう。組み上げられた謎の大伽藍に比して、差し出された回答は、なんだかひどく貧相に感じられたのだ。謎の解かれるカタルシスよりも幻滅がやって来てしまう。それは、著者が「語るテクニックの高度化」と引き換えに手に入れてしまった「語られるべきものの希薄化」に通底するものに思われるのだ。また、それ以前に「探偵小説でなくては」ではなく「SFでなくては語れない真実もあるんだぜ」なる惹句が帯に記される小説を、今こそ著者は書くべきではなかったのか?

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