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   蹲る骨
  【早川書房】
  イアン・ランキン
  本体 1,800円
  2001/4
  ISBN-415001700X
 

 
  今井 義男
  評価:B
  初めて読むシリーズなので、リーバス警部がいまの立場に置かれている経緯がさっぱりわからないが、それはそれとして、独立したミステリとしてもけっこうな読み応えがあった。リーバスは有能だが、完璧ではない。頑固なわりに軽率なところもある。作者は推理機械としての緻密さよりも、生きた人間の皮膚感覚に重きを置いている。地道な調査に配属された部下の不満とか、上司に付きまとわれる女性刑事の困惑といった、一見どうでもいいような描写も、端役の刑事たちを物語の単なる部品から生身の人間へ昇格させている。国の成り立ちに関わる背景はちょっとうるさい気もしないではない。300年前に併合されたスコットランドの不満より、世界中で行った植民地支配やアイルランドのことをもっと真剣に考えてもらいたい。余談だが<ステープル>と正しく表記した訳には感激した。

 
  松本 真美
  評価:C
  シリーズものを途中から読むのって、映画館で映画を途中から見るのに似てる。その世界に馴染むまで、場違いな所に入り込んだ居心地の悪さが妙に強いし、面白ければ面白いほど途中参入の後悔が大きい。だから「シリーズものは順番に読む」ことにだけはこだわってるのだ、私。で、これはどのくらい後悔したかというと、ほどほど。主人公の魅力もストーリーもスケールも私にはやたらほどほどだった。つまんなくはないがすぐに忘れそう…現に、読後2週間でもうかなり忘れてます。無愛想キャラのシボーンの印象だけが残ってる。最近、米より英の小説の方がそそられるが、そそられ度もほどほど。しつこいが、このほどほど感がある意味、ポケミスの醍醐味か。そういえば、マイベスト”ほどほど”ポケミス作家、ジェレマイア・ヒーリーの探偵さんは、今もお墓ん中の奥さんと話しながら元気でやってるんだろうか。関係ないけど。

 
  石井 英和
  評価:C
  ヤニ色に古びたエジンバラの街の表情と、その背後に横たわるスコットランドの歴史が深い味わいを伝えてくる。渋い渋い展開で、事件発生の描写も地味。後はとにかく、延々と続く聞き込みのシ−ン。ペ−ジを半分以上めくったあたりでも事件の全貌は予感の域を出ず、主人公はまだ「だから俺たちは慎重に行動しなければならないんだ」などと言っている。人格者の読む小説、という気がするなあ。が、そんな前半の展開の渋さとの対比から、話の激しく動きはじめる物語終盤は、なんだか、やや品の下ったような印象になる。と言うか、軽薄な読み手のこちらは、そこに至ってやっと話に乗れたのだが。それにしても、このエンディングにカタルシスを感じる人って、いるのだろうか?これ、何かの前編だったの?スト−リ−が全部終わってから話をしようや(怒)

 
  唐木 幸子
  評価:C
  主人公のリーバス警部の気取らず飾らず体制に媚びないキャラクターは好きなのだが、余りに本作は全体の雰囲気が暗すぎて、楽しんで読めなかった。複雑なストーリーじゃないのに人ばかり多くて、読後、あの登場人物は必要なかったなあ、と思うのが何人もいる。長いなあ長いなあ、と残りを見ながら読み続けた。それに、私はストーリーに政治や選挙が絡むとどうも面白くないのだ。・・・・というわけで採点はイマイチだが、警察の中の緊張感漂う人間関係の鞘当ては臨場感に満ちて良かった。特に、性格も実力も中身の薄いエリート警部のリンフォードを思い切りフってしまうシボーン刑事の強さには大拍手だった。

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