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   デッドリミット
  【文春文庫】
  ランキン・デイヴィス
  本体 790円
  2001/5
  ISBN-4167527758
 

 
  石井 千湖
  評価:B
  不意打ちをくらった。面白い。全然期待していなかったのでいつのまにかのめり込んでいる自分に驚いた。なんてったって陪審員室の攻防が読ませる。クセモノ揃いの陪審員たち。最初は有罪派が圧倒的に優勢を占める。ただひとり建築家のアレックスだけが陪審員室の誰かの不審な行動に気がつく。敵は巧妙に陪審員のひとりひとりを都合のいい結論に誘導しようとし、アレックスは阻止しようと奮闘する。この裁判の結果に誘拐された法務総裁の命がかかっていようとは知る由もない。アレックスが敵を追いつめていく過程が快感。読みやすく山場がいくつもあって楽しめるのだが惜しいことに書き込みが足りない。陪審員室だけに焦点を絞っていればもっとよかったのかも。

 
  内山 沙貴
  評価:B
  誘拐されたイギリスの法務総裁、陰謀が支配する陪審員の評議会、兄を誘拐された英国首相。それぞれがそれぞれの思惑を抱えたまま一つの事件に巻き込まれ、事の真相が見え隠れする。そして人々の本性も、また。人間の本質は少しなからず狂気をはらんでいるものなのだろうか。権力をもつ者の心は極限状態のもとで限りなく犯人に近づくし、また陪審員たちは糸が切れたように自分たちの日常を求め始める。いまいち登場人物の背景というか利害関係が分からなかったが、彼らが今望むこと、進もうとする気持ちだけはひしひしと伝わってきた。一つの物語が進む方向をきれいに表した良質なエンターテイメントだった。

 
  大場 義行
  評価:B
  若干誘拐犯のブロックが物足りない気もするけど、陪審たちが悩むという法廷モノと、誘拐犯との知恵比べの二つの物語を同時進行させるという荒技本だった。だいたいの見当はついているものの、どう転ぶか判らない、どう晴らすか見えない、というもやもや感と、時間が経つにつれて気持ちよく晴れてくる感覚がこの物語のミソ。なにも知らずに裁判を進める11人の陪審員たちの個性というか悩みなんかも充実していて、個人的には読み応えがあったと思う。妙に理論的な人(博士)がいたり、ただの暴れん坊がいたり、編み物し続けているおばあさんが居たりと、バラエティに富んでいるんだなあ。

 
  操上 恭子
  評価:B
  誘拐をテーマにしたサスペンスと陪審員の評議を描いた法廷物。どちらもよくあるジャンルだが、本書はその2つを組み合わせてしまったところがすごい。しかも環境保護暖団体の問題などがスパイスになっている。すごい力技だがみごとに成功していると言えるだろう。その複合体の中で展開されるさまざまな人間ドラマは、とても目がはなせない。ただ、読んでいて辛かったのは、その複雑な構造ゆえに場面の切り換えが頻繁で、登場人物が多いということ。その内容にちゃんとついていかなければ、この物語を十分に楽しむことはできない。読者にかなりの体力を要求する本だということを覚悟しておく必要がある。このジメジメとした蒸し暑い季節に読むにはあまり向いていないのかもしれない。どうぞ、読書は冷房のきいた部屋で。

 
  小久保 哲也
  評価:A
  A評価を付けるには、ちと甘いかな、とも思うけど、エンターテイメントとしては、◎なので、敢えてAを押してみたい!すでに陪審員の評決に移ってしまった裁判の真相を巡り、虚々実々の展開が繰り広げられるこの作品。「あと数時間」みたいなスピード感を作り出すのには失敗しているのだけど、巧みなプロットで、ぐいぐいと引きつけてくれる。やっぱり小説は、プロット命!なのだ。と改めて実感。ま、プロットだけの作品、と言われれば否定はできないのだけど。。。

 
  佐久間 素子
  評価:B
  英国法務総裁が誘拐される。犯人の要求は、総裁の訴追した被告を無罪にすること。陪審員が有罪判決を出すまでに真犯人をみつけないと、総裁は殺される。誘拐劇と、陪審員の評議が交互にえがかれ、いつ来るかわからない「デッドリミット」のせいで、スリルは倍増。という構成で、それ自体はとっても魅力があるのだが、惜しむらくは誘拐劇がつまらない。いや、陪審員の評議が面白すぎるというべきか。評議の進行が気になって気になって、誘拐劇を読むこらえ性がなくなってしまったという次第。手のこんだ構成もこれじゃ猫に小判であった。気骨ある陪審員アレックスがかっこいい。そうそう正体のつかめない正義の姿をちらりと見ることができる。

 
  山田 岳
  評価:A
  <毒の輪>=毒性の強い農薬が先進国から途上国に輸出され、その農薬のかかった農産物が途上国から先進国に輸入されて子どもたちの口にはいる。このことを知ってほしくて著者はこの本を書かはったようです。け’ど、<陪審制のもつ問題点>の方がより強う浮き彫りになってます。12人いてる陪審員、そのうちのひとりがあの手この手で評決を有罪にもっていこうとしはります。事前にほかの11人の弱みをにぎらはって、恩を着せたり、恫喝したり。日本でも陪審制が検討されてますけ’ど、こないな状況になったら、日本人は正し評決できんのやろか。イギリス人かて、こないに揺れてはんのに。誘導されかけてた評決を正し方向にもどす、もうひとりの陪審員の孤独な闘いが丁寧にえがかれてます。裁判を起訴した法務総裁がテロリストに誘拐される。これはなかなかええ<つかみ>やったね。

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