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勝手に目利き
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   勝手に生きろ!
  【学研M文庫】
  C・ブコウスキー
  本体 580円
  2001/5
  ISBN-4059000434
 

 
  石井 千湖
  評価:B
  チナスキーの述懐で印象的な一文がこれ。<幸運なことに、ほとんどの人間は作家ではなく、タクシー運転手ですらなく、そして何人か、かなり多くの人間は、不幸なことに何者でもない。>チナスキーはバスで放浪しながら無一文になるまで働かず、酒を飲んでぐうたらしている。せっかく得た職もすぐさぼってクビになったり自ら放り出したりする。どうしようもない男なのに憎めない。小説がやっと採用されて嬉しくて何度も通知を読み返したり、光る生地で手にくっつくから「魔法のズボン」だと喜んだり。女にたいしてセックスがいいから好きだというのは潔くて品すら感じる。デタラメな生活をすることで<何者でもない>自分と闘っている気がする。切ない。

 
  内山 沙貴
  評価:D
  一体どれだけの人が彼に共感するのだろう?生きているのが嫌になる。生きているのが怖くなる。感覚を麻痺させるために酒を飲む、女と寝る、喧嘩をする。この世界は一体何のためにあるのか。何も考えずに生きてゆける人はきっと幸せである。彼らがうらやましい。けれど無知であろうとは思わない。世界は悲しい。この著者は、どうしようもなく非社会的だけれども、そういう人間が生きているのもこの社会である。悲しいことだと思う。私が何を思おうとも、どうしようもないことなのだけれど・・・

 
  大場 義行
  評価:C
  ほんとうはAにしたい所だが、やはりCが似合うということでこの評価。チナスキーこと、チャールズ・ブコウスキー20代、無職。金が無いのであっさり就職、女とであう、競馬をする。就職といっても簡単な仕事、しかもすぐクビ。違う場所へ向かう。の繰り返し繰り返し。ただこの繰り返しをひたすら書いているだけで、他は何もないという本。単調で、たまに刺激的というだけなのだが、ひじょうに冷静に書いている所がブコウスキー。自分の身になにが起ころうが、他人になにが起きようが、全然無関心という文体がたまらなく格好いい。飽きてくるといえるけど、それよりも一番凄いのは、俺今なにやってんだろう、そう思えてくる所。やはりこの本は何も考えず、横になって適当に読むのが最適。

 
  操上 恭子
  評価:C
  定職もなくブラブラし、アメリカ中を放浪。就職してもすぐに嫌になって辞めるかクビになる。職さがしばかりしているから履歴書の作成と面接でのでまかせはプロ級。知り合ったばかりの女の部屋に転がりこむかと思えば、しつこくモーションかけてくる女をクールに無視したりする。とんでもないロクデナシだ。しかもこの主人公、小説を書いている。解説によると、このチナスキーという主人公、作者の分身なのだそうだ。作者も若い頃、作中のチナスキーと同じように放浪しながら小説や詩を書いていたのだろう。それで後に小説家として詩人として成功するのだから不思議なものだ。それにしても、ヤマもオチもストーリーもほとんどないこの作品、これも一種の小説と呼んでいいものだろうか。

 
  小久保 哲也
  評価:B
  こうやって、勝手に生きていられたら、おもしろいよねぇ。っていうか、こういう貧困な生活に対する、クールな感覚って、そう簡単には身に付かないよ。逆に、今の日本でそこそこの生活している人が、このクール感覚を身に付けると人生豊かに感じちゃうかもしれない。。。って、そんなことないか。むしろ、表面的な退廃感をクールと間違えて、突っ走っちゃうと、困るか。なにはともあれ、こんな人生もあるんだなぁと、ふと垣間見る異次元世界、っていう作品。「放蕩と狂気」が合わない人は、読まない方が賢明かもしれないが、そこはほら、恐いものみたさってあるでしょ?読んでみよーよ。

 
  佐久間 素子
  評価:C
  文庫についているしおりに、「こころ、さわやか」というコピーがあるのだが、つりあわないこと甚だしい。読み始めようと、本を開くたびに、それは違うだろうと笑ってしまうのであった。稀代の不良作家ブコウスキーの二十代をえがいた自伝的小説ということで、どこを読んでも、適当に働いているか、クビになるか、飲むか、ぐうたらするか、女といるか、それしかない。それが全て。仕方なく生きる日々は、退屈でどうでもよい。楽しさなんてかけらもない刹那的な生き方は、いっそ聖者の苦行のようだ。明るく乾いて、でも振り返ると誰もいない。「おれはまるっきり一人ぼっちだった。」うう、苦しい。訳者あとがきにある、父親との確執云々はおせっかいな情報だと思う。この本に理由なんていらない。

 
  山田 岳
  評価:B
  アメリカの「あかんたれ」のお話。先月の『夫婦茶碗』よりも評者の評価が高いのはなぜでしょう。主人公(ブコウスキー自身がモデル)の人柄でしょうかね。へんにかっこつけることもなく、あがいてみせることもなく、日本の編集者がつけたタイトルのような「いきがり」もなく、淡々と「こわれて」ます。父親への屈折した感情には、共感さえ抱いてしまいます。こわれた人間をこわれたまま、存在を許してしまうアメリカの懐のふかさ!なにひとつ「救い」のない物語ですが、主人公がちっとも悲観していないところが「救い」です。まじめな人には許せないかもしれませんが。

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