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   トライアル
  【文春文庫】
  真保裕一
  本体 448円
  2001/5
  ISBN-4167131099
 

 
  石井 千湖
  評価:C
  あんまりよく知らない競馬や競輪の世界の魅力を手際よく見せてくれる職人芸はさすが。でも食い足りない。個人的真保裕一ベストは『奪取』なのだが、やっぱり長編のほうがいい気がする。思うに巧すぎるんじゃないだろうか。あまりにもきれいにまとまっているので一編一編の印象が薄いのだ。強いて言えば一番よかったのは厩舎の描写が面白かった『流れ星の夢』。私はギャンブルは学生時代に何度か競馬場に行った程度で、関心がそれほど強くないからそう感じるのかも。現にギャンブル好きなひとは馴染みの競技場が出てきて嬉しかったと言っていたし。手堅い馬だけどオッズは低いという感じ。しかも単賞は狙えない。通勤電車で読むには手ごろでいいのでは?

 
  内山 沙貴
  評価:E
  体を張った競技にはつきものの年月という壁、それを承知で今まで続けてきたのだから文句など云うあてがないのだけれど、なんとなく精神的に落ち目の選手たち。彼らを支えるはずの家族や隣人の間にも入り込んだ不穏な空気。いつ均衡を崩してもおかしくない危険な世界の中で、今にも崩れ落ちそうな高い塀の上を歩む。物語の素材は悪くないのに非常に嘘臭い感じがした。しかも似た素材ばかりで無理やり寄せ集めた印象を受ける。予定された道を堂々と頭から突っ込んでゆく、そんな人生の厳しさから横道に逸れてしまった感覚がいつまでも残る作品だった。 

 
  大場 義行
  評価:C
  競馬、競輪、競艇等の世界にどっぷりはまった人を主人公にして書いているのに、ありきたりな堕ちていく話じゃない。逆に読み終えるとすがすがしい感じ。気持ちいい汗をかくスポーツのような感じさえしてしまうという不思議な本だった。ただのスポーツを題にしていたら、くさい話だで終わっただけだったかもしれないが、家族、過去さまざまなものをしょい込んでいる主人公たちが普通のサラリーマンぽくて、人間くさく、それなりに楽しめた。ただ、やはり個人的にはなんとなく、「麻雀放浪記」のドサ健のようにとんでもなく走っている男の話も混ぜて欲しかったのが正直な所。

 
  操上 恭子
  評価:C+
  競輪、競艇、オートレース、競馬の4つの公営ギャンブルの選手や騎手を主人公にした物語。帯にはミステリーと銘打たれているが、まあ人間ドラマと呼んだ方が近いだろう。ひとつひとつの短編はかなり面白い。私は公営ギャンブルにはあまり興味がないが、大金が動く舞台であるからこそ、裏側にはこんなドラマがあってもいいかな、と思わされる。どれも、場所を変え乗り物を変えてスピードを競うだけのレースだと認識していたのだが、なかなかどうして奥の深いものがあるらしい。ただ、4遍を続けて読んだ時に共通のパターンのようなものが見えてしまうのが残念だ。

 
  小久保 哲也
  評価:B
  短編集なら言っていただきたい。収録されていた2作目を読み終わってもまだ、もしかして連作短編かな?とか考え込んでしまった。最初から分かっていれば、よかったのになぁ。とつくづく残念。しかも帯には、「ミステリー」と書かれているけれど、どこらへんがミステリーなのかよく分からない。。。と文句は、これくらいで終わり。収録されている4作品とも、期待どうりの作品揃いで、大満足。最後の作品だけが、やや首を捻ってしまう部分もあるけれど、だからといって問題はなし。「おお。まさに真保裕一!」といえる手堅い逸品。でも、なんで「ミステリー」なんだろう?

 
  佐久間 素子
  評価:D
  四つの短編の主人公は、それぞれ競輪、競艇、オートレース、競馬の選手であるが、この短編集にギャンブル臭はない。実際のところ、本作は家族小説集であり、えがかれているのは地道に日々を生きる人の姿である。そつのない作りだし、うまいなあとは思うものの、なんだかありきたりというか、優等生的というか。どの短編もいつかどこかで読んだような気がしてしまう。焦点となる家族が、ダメ兄貴だとか、頑固親父だとかでは、手垢がつきすぎているうえ、話の展開も予想通りでは、いくら細部がうまくてもねえ。

 
  山田 岳
  評価:B
  40歳未満の方、「♪あしーたがある」と浮かれている方は読んではいけません(笑)いいけど、読んでもわからないかも。じぶんの可能性がどんどんうしなわれていく中年の苦悩なんて。競輪、モーターボート、オートレース、競馬、いずれの話も主人公はこれから伸びていく選手たちですが、対照的に、先が見えてしまった人たち(借金におわれる兄、ピークをすぎた選手の夫、余命いくばくもない父、流れ者の厩務員)がキーパーソンとして描かれています。彼らこそが、この短編集の真の主人公なのかもしれません。「中年のおじさまはステキ♪」というあなたは、一つひとつの物語に出てくる男たちの、のこりすくなくなった「可能性」をいとおしんでやってください。いずれも現場でたんねんに取材したようで、リアルな臨場感を楽しむことができます。

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