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   T.R.Y
  【角川文庫】
  井上尚登
  本体 667円
  2001/5
  ISBN-4043582013
 

 
  大場 義行
  評価:D
  物足りない。ごっちゃごっちゃな人種たちの中を、凄腕の日本人が泳ぎ切るといえば、いやがおうにも船戸与一と対比してしまう。運の悪いペテン師伊沢、中華革命にかける関、執拗に伊沢を狙う殺し屋、しかも革命の為の武器が必要となると、やはり対比してしまうのではないだろうか。確かにこれは悪い癖であるとは思っているし、良くないとは思うのだけれど、しかたがない。で、対比してしまうと、船戸の持つ熱さが無い。足りない。明石大佐なんかがからんでくるのは面白いとは思うんだけどなあ。やっぱり「革命」を題材にしているんなら、読んで熱くなるような本の方が面白いと思うんですが。

 
  小久保 哲也
  評価:C
  面白い。面白いんだけど、読んだあと、なんにも残らない。登場人物は、詐欺師、革命家、暗殺者とそろっているし、舞台も中国から日本へと、その距離感が気持ち良い。構成もなかなかに決まっていて、よくできた映画を見ている感覚。なんだけど、毒がないっていう感じ?実は今、自分的にはどどーんと迫ってくる作品に飢えている状態なので、「そりゃおいしい料理なんだけど、ちょっとさらっとし過ぎかなぁ。。。」というのは、つまらない。こういう、すっきり作品が読みたいときであれば、ぐりぐりのお勧めなんだけどなぁ。

 
  佐久間 素子
  評価:B
  国際謀略もの? まあ読みづらそうと心配しつつ、とりかかったが、杞憂であった。むしろ、ご都合主義な部分や、少々アニメキャラ的な人物が、本格好きには軽すぎるのでは、と余計な心配が湧いたりして。個人的にはどちらも全く気にならなかった。わくわくしながら読み進んでいくうちに、終盤のどんでん返しの嵐にあれよあれよと飲み込まれる。これくらい盛大にだましてくれると読者としても本望だ。江戸っ子、喜春姐さんのしんみりした独白で物語は幕を閉じ、記録者の視点でエピローグが記される。伊沢が、陳が、パクが、歴史の中に埋もれていく人々が、笑いかけてふっと消えていく、そんな余韻もまたよかった。

 
  山田 岳
  評価:A
  おおきに。課題図書にならへんかったら、読んでへんわ。安っぽい少年コミックみたいなタイトルのせいで(笑)時は明治、中国の革命運動に協力して、日本の軍部相手に一世一代の大バクチ。いや大ペテン。これがなんで、横文字のタイトルにならなあかんの?「革命もまた天にむかってのペテン」とは、かつてヘルメットかぶってかんばらはった人には許せへんことかもしれん。け’ど、痛快。詐欺師、伊沢修自身、かつてロシアの革命運動に共鳴したためにペテンに遭ったというあたり、ものがたりの奥行きを深めてます。最後にどんでん返しに次ぐどんでん返し。すべては夢とはきえんますけ’ど、夢だけはのこった、ってとこでっしゃろな。

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