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  超・殺人事件  超・殺人事件
  【新潮社】
  東野圭吾
  本体 1,400円
  2001/6
  ISBN-410602649X
 

 
  今井 義男
  評価:A
  傑作『名探偵の掟』をいとも簡単に跳び越えてみせたユーモア・ミステリの極致。この作家はほんとうに何を書かせてもツボを外さない。本書は誰にでも書けそうでいて、しっかりと東野圭吾的諧謔精神に満ち満ちている。ミステリ作家しか吐き出せない悪臭の数々、みっともない算段の一部始終が過剰な脚色で回転寿司のように、ぞろぞろ出てくる。海外の短編ミステリが逆立ちしても絶対に真似のできないジャンルは、真に日本的な作品だけだと常々思ってきたが、作家と編集者の付き合い方もまたこの上なくおかしな日本的風景だ。パロディーと見せかけて、定石を踏まえた油断のならない作品も混じっているから要注意。へらへら笑っているだけでは作者の罠にまんまと引っかかる。かくいう私も見事に引っかかった口である。


 
  小園江 和之
  評価:B
  まあその、いくらなんでも帯のコピーは大げさじゃないかと思いますが、むひひな気分になれることは確かです。中でも、いつも「無駄に長けりゃいいってもんじゃない」って文句たれてる身としては『超長編小説殺人事件』がとても面白うございました。ただ『怪笑小説』でも感じたんですが、シャープな毒気を含んだ笑い、という意匠は見事なものの、私の笑いのツボとは微妙にずれているところがあるんですな。なにかこう整然としすぎているというか、クール度が強すぎるというか、もちっと訳のわからぬ狂気っぽい部分が仕込まれていて、それが何かの拍子に垣間見えるてな具合だと、よりハマれるような気がします。

 
  松本 真美
  評価:B
  あ〜、そういえば「お茶目なオレ」も見せたがる人でした。最近、『秘密』とか『白夜行』の印象が強くて、つい、東野圭吾=シリアス、のイメージでしたが、きっと作者本人がイチバンそれにうざったくなったんでしょう。「巧い」とか「渋い」とばかり言われると、「くだらない」とか「おもしろい」と言われたくなる気持ちはわかるな。まあ、私にわかってもらってどうよ?ですけど。こういう小説を読むたび、バカのひとつ覚えみたいに「筒井康隆っぽい」と思う自分は確かにバカですが、今回もついそう思いました。でも、コミックバンドこそ演奏が巧いように(ホントか?)、こういう風刺話こそ力が要るんでしょう。個人的には「超理系…」と「超読書機械…」が面白かったです、底意地悪くて。もひとつ個人的には『鳥人計画』系のもまた読みたいです。

 
  石井 英和
  評価:B
  ミステリ−を様々な角度からおちょくってみせたパロディ集。例えば冒頭の「税金対策もの」は、必要経費を成立させるために書きかけの小説の内容を改変する羽目になる話だが、そんな事情説明は省いて、その小細工の結果、出来上がった小説のみを提示し、その歪み具合から裏事情を想像させて笑いを誘う形だったら凄かったろう、とか、「超理系」の話は、地の文をも疑似超理系の文章にした方が・・・などとあれこれ文句を付けつつ読んでいったのだが・・・軽く流した作品が多く、ちょっともったいなかったな、という気がしてきた。「超長編」に窺える「業界の風潮」への哄笑とか、「読書機械」における「本という装置に関する考察」などのテ−マ、風刺小説として真っ正面から取り組む価値があったと思うのだが。

 
  中川 大一
  評価:A
  わはははははははは(筒井康隆調)。けけけ傑作ですぅ(松村眞喜子調)。最後の「超読書機械殺人事件」に出てくるショヒョックス(自動書評書きマシーン)、俺もほしいと思うぞ実際の話(原田宗典調)。いやいや、お見それしました。大爆笑。この可笑しさを、どう説明すればいいのか。メタレベルのフィクション。ミステリーのミステリー。横紙破りの楽屋ネタ。確かに「もう二度とこんな小説は書けない」でしょう。白眉を一本あげるなら、「超高齢化社会殺人事件」。老人のボケぶりを笑うって、なかなか難しいよね。そういや清水義範に、痴呆老人が一人称で語る短編があったはず。中島らもの『らも咄』にも大笑いの年寄りネタがある。というわけで、浜やん@発行人、「老人が主役のお笑い小説特集」を希望!

 
  唐木 幸子
  評価:C
  推理作家はこんなことを考えて苦労してるのだよ、という舞台裏を、皮肉と笑いで仕上げた短編集だ。東野圭吾も頑張ったなあ、という気はするのだが、いかんせん、肝心の【毒】が足りない。クラシック歌手が歌謡曲を歌ったような感じの無理がつきまとう。これで筒井康隆が同じ趣向で書いたら、もう、毒の中に針が潜んで2度と忘れられないようなパロディになるだろうなあ、あちこちに敵を作りまくってひと騒ぎかもすなあ、と想像しながら読んでしまった。本短編集は、各話のアイデアはそれぞれ良いのだが、誰も心が痛まない程度の無害さなのだ。中では『超税金対策殺人事件』と『超読書機械殺人事件』が面白かったが、内容的にはショート・ショートに圧縮した方がキレが良くなるんじゃないか、と感じた。

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