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  小説中華そば「江ぐち」  小説中華そば「江ぐち」
  【新潮0H!文庫】
  久住昌之
  本体 486円
  2001/6
  ISBN-4102901027
 

 
  石井 千湖
  評価:A
  いいなあ。すごくいい。近所のラーメン屋にまつわるバカ話をいつもつるんでる仲間同士でああだこうだ言い合うだけの本である。それなのになんて面白いの。まずメニューの「チャーシュー」が「チャシュー」になっていたり「シナチク」を「竹の子」と呼んでいるところがいい。そして店員に勝手にアダ名をつけて妄想をふくらませるところが特に笑える。挿し絵も楽しくて「大盛り髪の毛の男」とか「アクマ」とか一度見たら忘れられない味わい。「江ぐち」は情報誌やテレビで紹介される行列のできる店とは違う。でもとっても美味しそう。うだるような暑い夏、近所のラーメン屋でビールを飲みたくなる。蘊蓄たれるグルメガイドとは対極にある、のほほんとした一冊。

 
  内山 沙貴
  評価:C
  なんだか懐かしい。懐かしすぎて泣ける。店の人に勝手にあだ名をつけていろんな想像を膨らませて、ちらちら横目でばれていないことをうかがいながらコソコソ背を丸めて囁き会う様はまるで小学生である。それがまた堪らなく懐かしい。ほのぼのしていて外界から守られ安息していられる場所。何も知らないくせに安心して騒いでバカなことをやっていられる時間、時代の中で、何が大切なのかをちゃんと分かっている。そんな懐かしさに男臭さで味付けしたようなおもしろい小説だった。

 
  大場 義行
  評価:C
  小説って書いてあるけど違うじゃんと云うのは置いておいて、ああ、こんな事よくやったなと思い出してしまった。いきつけのラーメン屋についてあれやこれや言い合うやつ。おやじさんは巨人大好きで、負けると機嫌が悪い。息子さんはアイスビール好きで自分と同い歳くらい。全く同じ事してるよ、こいつ、という事でほんと懐かしい。ラーメン屋の三人の従業員の得意技、どこら辺に住みついているのか、などなど。でも、それは自分たちの事を思い出させてくれただけ。この本は、他人の思い出なので、余り入りこめなかった。それにちょっと脱線が激しすぎて、読み飛ばし気味になってしまいました、ごめんなさい。たぶんこの本は、古き良き不毛な時代を過ごしていなかった人向けだと思う。

 
  操上 恭子
  評価:D-
  ラーメン屋のカウンターで注文したラーメンを待ちながら、暇にまかせてそのラーメンを作っている店員の人となりや生活を想像してみる。誰にも経験のあることだと思う。そうやって想像したことなどを一冊の本にまとめてみたのが本書だ。面白くない、というわけではない。「江ぐち」の店の様子とか「ボク」友人たちのこととか、とても活き活きとリアルに描けている部分もある。だが、私にはこの本を楽しむことはできなかった。他人の覗き趣味につき合わされているような違和感、内輪受けを押し付けられているような不快感がつきまとった。あとがきまで読み進んで知ったのだが、作者は実在の「江ぐち」の人々に許可を求めるどころか、一言の相談も報告もなしにこの本を出版したらしい。結局、後味の悪さだけが残った。

 
  小久保 哲也
  評価:B
  近所のラーメン屋にここまでのめりこみ、マニアックに追求している姿は、自分達の身近にもちらほら見られる姿なのだけれど、それをちゃんと文章にして見せてくれたというところが非常に面白いし、とてもうらやましい。大げさに言うなら、自分が確かにその場所にいたという証みたいなものを、こういった形で残すことができたら、すごく幸せだろうなぁと思う。この本を読んで、ぜひみなさんも、自分の思い出を文章に残してみては?

 
  佐久間 素子
  評価:D
  ゆるーい感じ。前半、そのゆるさがここちいいのだけれど、後半はゆるいというより、たるい。著者本人もあとがきで触れているように、脱線が非常に苦しい。書くことがなくなったとバレバレ。中身は、行きつけの近所のラーメン屋をめぐる仲間同士の雑談話。内輪ウケにしては面白いし、近所の秘境という切り口に糸井重里が目をつけたっていうのも、わかる気がする。実際、雑誌ではいい味を出していたのだろう。だからといって、本にまとめなくてもよかったのでは。雑誌連載で、まあ毎回毎回どうでもいい話だねえと、笑って読んで、読んだはしからころりと忘れるというのが、この話には似合っていると思う。

 
  山田 岳
  評価:B
  京都のラーメンはな、「天一」こと天下一品に代表される「こってりラーメン」で、スープがどろどろに濁って麺が見えへんねんで、と思わず「ふるさとラーメン自慢」がしたなります。本書の魅力、その一。底本の原題「秘境としての近所」にあるように、近所のラーメン屋「江ぐち」の謎を、徹底的に追求してはることです。仲間うちで、ああでもない、こうでもない、と。店員への取材は、してまへん(笑)。その二。タカシさん、ワカ、ウチヤマ、ムタさんと、その仲間をイラストつきで紹介してはること。彼らとの会話がなかなか笑ける。さながら「江ぐち」をめぐる青春物語。その三。話が脱線すること。「ハリガミ館」こと化学成分無添加の石鹸屋さん、小学校のときにランドセル忘れて学校に行ってもうたこと等、字数かせぎやと、わかってても読んでしまいます。「匂(にお)ってごらん」言わはる正体不明のオバサンは、おそらくは、京都出身。本にまとめはっても、「江ぐち」には持っていけへん著者の小心者ぶりが、いちばん笑けます。

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