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  エンデュアランス号漂流  エンデュアランス号漂流
  【新潮文庫】
  アルフレッド・ランシング
  本体 781円
  2001/7
  ISBN-4102222219
 

 
  内山 沙貴
  評価:B
  まるで小説のような物語だ。ジュール=ヴェルヌのSFに劣らぬ冒険とスリルであった。雪の白と雲と海の灰色と黒。もう90年近くも昔のことであるのによく映えた白と黒と、大きくうごめく雲とうねる海の様子が厳しい冷気と共にぴりりと肌を指す。恐怖の爆弾を腹に抱え、それでも希望を捨てられなかった彼らはやはり冒険者なのだ。当たり前のように全員帰還してしまった。すごい。彼らは本物の英雄である。もっとたくさんの人々に知ってほしい、人類の誇りだと思う。

 
  大場 義行
  評価:A
  冒険野郎どもの素晴らしさにただただ号泣。最近泣きすぎのような気もするけど、ほんと泣きます。しかも号泣。南極冒険に出かけた命知らずの冒険野郎どもが、流氷に閉じこめられた為、船を捨て、脱出。いつ溶けるか判らないような氷の上を移動し、ペンギン喰らって食糧難を乗り越え、助けにくるのか判らないまま、生きようとするのだ。余りに過酷な条件なので、最初は実感が湧かなかったが、そこは写真が付いていて親切。最初に出てくる氷の海に横たわる船の写真もそうだけど、数多くの写真が信じられないような光景なので、ただただ呆然となるはず。実は今でも信じられなかったりして。それにしても男どもが結構あっけらかんとしてたりというのも驚き。冒険野郎ども万歳という感じの素晴らしいノンフィクションだった。

 
  操上 恭子
  評価:B
  素晴らしいノンフィクションだ。それは間違いない。実際にあった出来事を、様々な資料と丁寧な取材をもとに、臨場感あふれる物語として描き出している。ありがちな体験記ではない。作者はこの出来事があった時点ではまだ生まれてもいなかった元ジャーナリストで冒険小説家だという。残っている日記や得られた証言をコラージュするような形になっているため、所々にそれを書いたり話したりした人の主観が出てくる。そのせいで全体的に見るとかえって、客観的でありながらリアルな物語に仕上がっているのだろう。しかも結末は絵に書いたようなハッピーエンド。これが小説なら、こんな終わらせ方はできないだろうと不思議な気がする。だけど映画化するにはいい題材かも知れないな。最近は実話を元にした映画ばかりが作られていることだし。

 
  小久保 哲也
  評価:A
  どうすればこれほどの過酷な状況に打ち勝って生き延びていくことができるのだろう?極寒の地で沈み行く船を逃れる冒頭のシーンから始まり、困難は後からあとから探検家達に襲い掛かってくる。「立ち向かう」という表現がまさにぴったりとあてはまる彼らの姿は、ともすれば流されてしまいそうな自分の生活に、新しい違った方向からの光を当ててくれるようだ。唯一の不満は、極寒の地の物語であるのに、なぜかその寒さが伝わってこないこと。船をこぐオールが凍りついたり、凍傷になったりして、その状況はわかるのだが、肌で感じることができなかった。ノンフィクションとしては、このあたりが限界なのか、あるいは、登場人物たちがあまりに「熱い」ので寒さを感じないのか、それは良く分からない。

 
  佐久間 素子
  評価:A
  星野道夫の本を読んでいたので、本書の存在は知っていた。翻訳されたことも知っていた。しかし、南極を1年半も漂流する話なのだ。いくら生還するとわかっていても、読むのはしんどいなあ、と敬遠していた。でも読んでみると、意外にも明るいのだ。船さえなくした氷山上でのキャンプ生活も、小さなボートでの漂流も、彼らの明るさをそこなわない。生命の危機にさらされながら、何て呑気なと顔がほころぶほどだ。その明るさが生死をわけている。ほとんど意思の力で、彼らは明るくふるまい、そして、不可能をのりこえていく。なるほど勇気の出る本だ。

 
  山田 岳
  評価:A
  43ページまでが死ぬほど退屈で、この本の面白さにたどり着くことなく、南氷洋の氷のなかにとじこめられてしまう読者がいったい何人でるのか心配になる。迷わず、第一部第三章から読もう。南極近くの海で遭難した船の乗員28人全員がたすかってしまう、信じられないお話。まず、南極探検に行くのに木造の船に乗っていくというのが信じられない。船が氷にとじこめられたまま、9ヶ月、けっこう快適に漂流していたというのも、にわかには信じがたい。船が氷の圧力でつぶされてしまったというのは、さもありなん。そのあと2ヶ月、犬ゾリで移動したあとまた3ヶ月、氷の上でキャンプをはったというのも信じられない。エレファント島への、サウスジョージア島へのボートでの航海で、波をもろにかぶっていながら、凍死する者がいないというのも信じられない。信じられないことのオン・パレード。扉のまえに、彼らの軌跡を記した地図がついているのだが、だんだん「あと何日したら助かるのか」と地図をひっきりなしに見る自分がいた。「陸だ!」「みんな無事か?」の言葉に、素直に感動しました。

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