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  夜のフロスト  夜のフロスト
  【創元推理文庫】
  R・D・ウィングフィールド
  本体 1300円
  2001/6
  ISBN-4488291031
 

 
  石井 千湖
  評価:A
  読め、万国の労働者。くそがつくほど面白いぞ。相次ぐ病欠による人員不足や絵に描いたようなアホ上司・マレット署長の理不尽な命令もなんのその。フロスト警部は下品なジョークを連発しながら不眠不休で捜査にあたる。これでもか、というくらい次々と事件が起こるのだから休む暇がないのだ。ああそれなのに忙しいときにかぎって現場を知らない上司はくだらないことを言いつけるんだよなあ。何を言われても聞いたふり。適当にやりすごして我が道をゆく。ガサツなようでふと垣間見せる繊細さも好き。直感にしたがって手当たり次第に「こいつが犯人だ」と早合点したり、万能鍵でどこでも開けてしまうのは困りものだけど。とにかく働き者のフロスト警部が最高。これを読めば仕事のストレスも笑い飛ばせる、かも?

 
  内山 沙貴
  評価:B
  “下品なジョーク”というオビを見ても敬遠しないでほしい。主人公や背景の前にどっしりと腰を据えた上質な事件と推理が描かれているのだから。事件はすべてわた雲のようにふわふわとしていた。わた雲に鋭いメスが入れられるはずもなく、しかし放っておいたら勝手にわた雲が答えの形になっていたというものすごい話である。こんなに分厚い本など読めるわけがないと思った方も待たれたい。長い長い1週間。いろんな事が起こったために1週間が何年も前のことに思えてしまう。なのに一瞬で週間前の情景が目に浮かぶ。これはそんな本だった。見た目は厚いが読み終わってみるとあっという間だったと感じる。よくこれだけのものをうまく収束させたものだと感心させられた。

 
  大場 義行
  評価:A
  この分厚い本を見れば、この本がいかにごちゃごちゃとした事件を抱えていて、しかもスピーディーさを持ち合わせて居ないかという事がすぐにでも判るはず。でも、この主人公フロスト刑事が、もう最高。阿呆みたいな台詞満載なんだけど、さらりといい事言ったりもする。しかも、こんなキャラクターの為か、凄惨な死体が大量生産されるミステリなのに、余りそれを感じさせないという不思議さ。とにかくずっと読んでいたいと思わせるキャラクターではなかろうか。あれ、そんなんでいいのかという解決もある事はあるし、重すぎるのも確かだが、とにかく何もする事の無い休みの日には最適のいい、ミステリだったと思う。

 
  操上 恭子
  評価:A-
  イギリス人というのは、いつもとりすまして気取っているものだ。そういうことになっている。普通は。ところが、まったく普通でないのがフロスト警部だ。あまりにも下品で型破りで落ち着きがない。時に幼稚なこともしでかす。それでいて八面六臂の大活躍。いったいこの人は天才なのか無能なのか、計算づくなのか何も考えていないのか、真面目なのか行き当たりばったりなのか、奥が深いのか何もないのか、まったくわからない。わかるのは、とても魅力的だということだけ。天敵(というほど強くないが)のマレット署長があまりにも型通りの俗物なので、逆に愛しくなってしまう。※本書はシリーズ物だが、前作を読んでなくてもまったく問題なく楽しめるので御安心を。

 
  小久保 哲也
  評価:B
  文章で書かれたユーモアというもので、面白いものはそうはない。ニヤリとするものや、言い回しの妙に感じ入ったりすることは多いけれど思わず吹き出してしまうというのは少ない。特に翻訳ものだと、滅多にお目にかかれないのだけれど、この作品の「下品なジョーク」は、実に面白い。女性の中には、眉をしかめる人もいるかもしれないが、こういうジョークを言えるセンス、あるいは作中人物に喋らせるセンスというのは並みではない。フロスト・シリーズは、どれもこれも分厚いので、今まで敬遠していたのだけど、課題図書にならなければ、読まないままになってしまうところでした。危ない危ない。あなたは、大丈夫?

 
  佐久間 素子
  評価:A
  「今、何を読んでるの?」と聞かれた。「フロストの新作」「ああ、あの下品なやつね。」と、既に、下品が枕詞になってしまっているフロスト警部なのだが、その実、下品なのはジョークだけである。確かに品はないが、卑しくない。だからこそ、これだけ気持ちいい小説になる。フロスト万歳。雪だるま式に増えていく事件を、いきあたりばったりに捜査する姿もおかしいのだが、やっぱり圧巻は怒涛の解決ぶりだ。適当、または強引。かなり呆れるが、ストレス解消まちがいなし。それにしても、目もあてられない人出不足といい、最後までフロストを悩ませる署内什器備品現況調査のくだらなさといい、いかにもお役所。人ごととは思えない。公務員必読か?

 
  山田 岳
  評価:B
  フロスト警部をはじめ登場人物のキャラがたってます。フロストはうだつのあがらない風貌で、笑えないギャグを連発しては周囲のヒンシュクを買いまくっている。1日に2回も容疑者を取り逃がし、殺人事件でしょっぴいた容疑者はよその管区の輸出たばこ強奪事件の犯人だったというおマヌケぶり。証拠品の輸出たばこをちょろまかし、担当刑事にも吸わせてしまうしたたかさ。こんなんで事件が解決できるのかとおもうのだが、流感で他の刑事はみんなダウンしているのだから仕方がない。と思いきや、文官に与えられる最高章のジョージ十字勲章をもっていたりする。こんな設定をしておいて次々と事件を引き起こしていく著者もかなりのくわせものと見た。はじめ部下のギルモア刑事の視点から書き始めて、フロスト、署長、被害者、容疑者とつぎつぎ視点を変えていく。それでいて物語が破綻しないのだからかなりの手だれ。イッキ読みするほどではないが、とちゅうでやめるのも惜しくなる困った一冊。

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