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  旅涯ての地  旅涯ての地
  【角川文庫】
  坂東眞砂子
  本体 各571円
  2001/6
  ISBN-4041932068
  ISBN-4041932068
 

 
  大場 義行
  評価:A
  最近会社でいろんな事をしているせいか、外に出ていない。もちろん旅行なんて行ってない。その寂しさを少しは紛らわせてくれたのかなと思う。マルコ・ポーロなんかがいる時代の、西の涯ての国に来てしまったなと、素直に感じてしまった。オモシロイのが、当時の人々が居ると思っていた悪霊、悪魔、神様なんかが、当たり前のように出て来ちゃう所。平気で手がある魚が捕れたり、バジリスクなんて化け物もいるし、しかも結構さらりと書いてたりもする。そんな風に様々な生活様式、宗教、人種なんかをごっちゃごちゃと鍋で煮て、飲まされた感じがした。しかも後味も不思議と良かった気がしている。

 
  佐久間 素子
  評価:C
  世界史で教会史を習ったときのことを思い出す。異端を排除する醜さにうつうつとした気分になったものだ。信じるものが人それぞれで何が悪いんだと、それぞれを許せない神なんて、神じゃないと、単純な高校生は思ったし、今でもそう思っている節がある。偶然手に入れたイコンによって、異端カタリ派と運命をともにすることになった主人公の夏桂は、徹底的にローマ教会にもカタリ派にも無理解で、傍観者の姿勢を崩さない。立ち位置が読者である私と同じなのだ。ラスト、イコンにかくされた福音書の内容を知って、夏桂は笑い、私はなあんだと思う。この結末の残酷さに、私の想像力は及ばず、でもそれはきっと排除と根を同じくするのだ。そして私はまたうつうつとなる。

 
  山田 岳
  評価:A
  13世紀、マルコ・ポーロのころのイタリアに興味を抱く人は、そうはいてへん。け’ど、著者は、日本人の血をひく奴隷、夏桂を主人公にすることで、読者をあっというまに物語の世界にひきずりこんでしまいます。この夏桂、めっちゃ現代的なものの見方・考え方をしていて、彼のヴェネチアの町に対するおどろきは、たちまち読者のもんとなります。「聖杯」をめぐる冒険譚のおもしろさに上巻はあっという間。一転して、下巻には、物語りの形をとった「信仰への批評」が待ってた。クリスト教徒がクリスト教徒を火炙りにする「異端」問題。「信じることは、考えないことと同じではないのか」「優しい言葉は他人を騙し、自分も騙す」等、夏桂の言葉に、現代人の読者は「そうやそうや」と思いがち。け’ど、「危険をおかしてまで『異端』の教義を信じるのはなんでやの?」という大事な問題に、著者はこたえてへんのと違ゃうかな。

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