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  インコは戻ってきたか  インコは戻ってきたか
  【集英社】
  篠田節子
  本体 1,800円
  2001/6
  ISBN-4087745392
 

 
  今井 義男
  評価:C
  そうか、女性誌の読者はファッションやリゾートやグルメにしか興味がないと編集者に思われているのか。もし本当なら、世の女性たちはそろそろ考えを改めるか、腹を立てるかしないといけない。だが、真に憂慮すべきは情報を発信する側がその程度の世界認識しか持ち合わせていないということである。このほとんど思考停止状態と思しき業界で、糊口を凌ぐベテラン女性編集者が取材で赴いたリゾート地で、思わぬ民族紛争に巻き込まれるわけだが、それにしても<思わぬ>というところがあきれる。我が国は情報が満ち溢れていて、その気になれば事前に大抵のことは調べられる。彼女はその努力を初手から放棄しているのだ。ほとほと能天気なことであるが、帰国後の彼女が変に目覚めたりしなかった点だけは評価できる。人間がそんなに簡単に変われたら誰も苦労はしないのである。

 
  原平 随了
  評価:C
  不愉快な女を描くのは篠田節子の得意とするところだが、この小説のヒロイン、雑誌編集者の平林響子もまた、かたくなで、ヒステリックで、相当に感じの悪い女である。こんなヒロインと海外取材のコンビを組まなくてはならないカメラマンの男も気の毒だけれど、読む方だって、たまったものではない。ところが、それこそが作者の狙うところだったりするわけで、この物語の前半部分は、ひたすらガマンで持ちこたえるしかない。後半、この二人が旅先での政変に巻き込まれてからは、少々慌ただしくはあるものの、篠田節子らしい力強い展開が待っていて、ヒロインにも、それなりに好感が持ててくる。しかしながら、前半の流れが辛かったせいもあって、バランスの悪い小説という印象が強く残ってしまった。

 
  小園江 和之
  評価:B
  こっぱずかしくなるような帯のコピーです。冒険小説という言葉に期待し過ぎると外れですが、男女間のシンクロする部分とそうでない部分のあわいがさり気なく書かれていて悪い感じはしません。相手役のカメラマンが主役のように見えちゃいますが、そんなことはなくて、やはり主人公の女性の心情を投影させるための配役であります。このカメラマンてのが「達成感も終息感もなく繰り返されていく日常に対する倦怠」に耐えられず戦場に向かったそうなんですが、そんなら結婚なんかしなきゃいいんですよね。だって大多数のお父さんはその倦怠に耐えて日々を送ってるわけでしょ(ま、勇気がないとも言えますが)。それで、帰ってきたら娘がグレてた、なんて愚痴ったってしょうがないです。こういう人はさっさと離婚して、孤独に耐えながら人生を送らなきゃいけません。

 
  松本 真美
  評価:C
  ウチのインコは10年戻ってこない。友達は文鳥をドアに挟んで圧死させた。…そっかあ、こういうドヨ〜ンな四十女もいるわけね。『娼年』で「四十代は素晴らしいお年頃」と宣ったナミコと対談させたい。かみ合わんだろうな。私はこいつらより『ハードタイム』のV.Iに百倍共感するけどね。とにかく、うっとうしいぞ、響子。それがたとえ、檜山との出会いと別離後の彼女を際立たせる意図だとしても、前半は読んでてイライラした。そもそも、仕事や家庭とこういう向き合い方してる女ってのがよくわからん。共感する層もいるんだろうが…。さんざん泣いた後、鏡の中の自分に「がんばろうね、甘えちゃだめ」とつぶやく女。こえぇぇ〜!でも、檜山っちはそんなキョンキョンに魅力を感じる…ばかりではなく、隠されていた魅力も引き出してしまうのだ。見た目はさえないくせに。そうそう、ガタイはよかったりするんだな、これが。中年男の鑑!おおっ!たった6日間の「極上の恋」だもんな。あ、キプロスの事件の感想を書くつもりが字数が尽きた。む、無念!

 
  石井 英和
  評価:C
  冒頭、語られる「家庭を持ちつつ働く女の苦悩」は、もはや「正調・篠田節を謡う」の感あり。その後は全編にわたって、キプロスを巡る国際情勢に関するウンチクが、「という事なのだそうです」「実は・・・だったのです」といった、説明調の長台詞によって延々と開示される御座談小説。他に登場人物の身の上話やら、戦争絡みの様々な「論」の開示等々が、これも登場人物AとBが座り込んでの長台詞にて。それらを取り去った後に残る動画系の風景としては、「車であちこち回っているうちに危険な状況に巻き込まれてしまいました」といったところで、しかも「車であちこち」が話の四分の三強を占めるのだから、小説としての面白味は見つけ難い。そもそも、「女の側から書かれた冒険小説!」と著者が意気込んだ作品が、実質、ただ男に付いて歩くだけのスト−リ−とは悲しいよ。

 
  中川 大一
  評価:B
  マッチョな男が機関銃をぶっ放す――そんなお決まりのパターンにNO!を突きつけた冒険小説。本書の主人公は雑誌の女性編集者。生理痛や姑との関係に悩むおばはんである。まったく所帯じみてるぜ。だが読者は、その生活臭を足がかりにして、「日本にある果てのない日常」から民族紛争渦巻くキプロスへと、自然に入っていけるのだ。正直、冒険小説のわりに大したことは起こらない。でも、主人公のあり方が我々に近い分、ちょっとした出来事でも緊迫感をもって迫ってくる。不満は一つ。物語のほとんどが、主人公とカメラマンのダイアログのうちに進められる。その他の人物は、二人に情報をもたらすエキストラに過ぎないのだ。狡猾な裏切り者や魅力的な悪役――戦争ものにはそんな配役が必須だと思うのだが。

 
  唐木 幸子
  評価:B
  本当にこの著者は仕事人間の女性を書かせると上手い。旅行雑誌の編集者・響子の苛酷な勤務ぶりや若く身勝手な同僚とのやり取りなど、職場の様子が浮かび上がるように描かれる。努力が報われない自分の位置付けをわかっていながらやみくもに働く響子自身も、そんな彼女に文句を言わない夫や姑の存在も、あー、わかるわ、私。そんな響子が取材にでかけたキプロスに同行するカメラマン・檜山は、奥があるのかないのか定かではない男で、これが奇妙に魅力的だ。何だこの鬱陶しい男は、と最初は思いつつも、響子になりきった私はちょっと好きになったりした。この恋と冒険の行く末はドキドキなのだが、民族紛争のあたりは興味のない者=私にとっては余り面白くない。檜山が、『少数民族が』『政府軍が』、と語りだすと斜めに飛ばしてしまった。

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