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  ルー=ガルー  ルー=ガルー
  【徳間書店】
  京極夏彦
  本体 1,800円
  2001/6
  ISBN-4198613648
 

 
  今井 義男
  評価:B
  近未来、管理社会、端末による個人の識別。いまや目新しくもなんともない設定だが、これらは完成されたスコアと捉えればよい。奏でる旋律は指揮者次第である。指揮者だけでは音楽にならない。優れた演奏者が必要だ。本書では個性的な少女たちがそれにあたる。京極作品の一番の魅力はなんといってもキャラクターの妙味にある。工学系にめっぽう強くやたら行動的な美緒、巫女のごとく霊性を帯びた雛子、非登録住民で拳法の達人麗猫、冷めた感情に秘密めいた翳りが垣間見える歩未、無気力だが友達思いの葉月。このメンバーならもっと面白くできたはずだ。実際のところ彼女たちがいなければ、この作品はただのC級冒険小説に過ぎない。好きな作家の一人でもあり、期待の大きさが裏目にでた感もある。アナクロな中年刑事の橡、喧嘩は弱いが性格はまんま木場修だ。ちなみに少女の順列は私の好みが基準である。

 
  原平 随了
  評価:D
  殺人事件に遭遇した少女たちが、その事件を追跡する過程で、実感の伴わなかった自らの肉体を自覚し、コミュニケーションを回復していくという物語。コミュニケーション不全の子供たちや猟奇殺人という手垢まみれの題材を、近未来SFという手垢まみれの手法で描いたお話と言い替えてもいい。〈読者から近未来社会の設定を公募する〉という試みも、試みとしてはおもしろいけれど、そうやって出来上がった近未来社会に独創性があるとはとても言いがたく、それが長々と説明されている間、物語はさっぱり動かず、結局、ラストで慌ただしく解明された事件の謎は、な〜んだ……というものでしかなかった。

 
  小園江 和之
  評価:C
  今から30年後の近未来社会で起きた、連続殺人事件の顛末が描かれているんですが、この社会設定について読者から設定を応募したってところがウリのひとつなんだそうです。読者からの応募を小説に反映させるってのは以前に筒井康隆さんが同様の試みをしていましたんで、本邦初ってことではないでしょう。で、読み味はどうかというと、その応募した設定の説明のために地の文がくど〜くなってしまって、読むのが辛かったんですね。士郎正宗さんの作品(功殻機動隊2、買いはぐっちゃいましたよう)みたいに欄外に設定に関する解説を配置するというコミック形態ならば、かったるさが軽減されたんでしょうけど。まあ、ラス前からの展開はクールな痛快さがあるんですが、それもなんかコミック的であります。最初からもうちょっとスピード感とノリの良さがあったらなあ、って思います。

 
  松本 真美
  評価:B
  毅然とした少女にいまだ憧れる。それはきっと、自分がそういう少女をやってこなかったからで、ばあさんになっても憧れ続けてる気がする。ここに出てくる少女達、かなりアニメ入ってるが、かっこよかったりします。特に誰、ってんではなく、それぞれに得意分野があって甲乙つけ難い。…物語は近未来SF。なんでも雑誌で募集したアイデアを盛り込んだ物語だそうで、緻密に<少し先にありそうな世界>が構築されてて妙にリアルな分、破綻がなさそ過ぎてSFこそのはみ出し部分の魅力に欠ける気もする。でも、こういう管理のされ方って怖いけど現実化しそうだ。学校という概念が無くなるっていうのもありそう。これも公募意見なのか?…で、物語では少女が次々失踪するわけだ。真相はちょっと食傷パターンだけど、社会に違和感を持つカウンセラーと旧世紀人の刑事コンビの絡みが邪魔じゃなく、けっこう楽しめた京極初体験でした。

 
  石井 英和
  評価:C
  アイディア公募によって作り上げたという近未来の情景を描いているのだが、その情景自体、すでに古いような、見飽きたような感覚がある。私がコンピュ−タ−等が大活躍の小説を、すでに読み飽きているせいか。あまりにも舞台にされ過ぎ、弄ばれ過ぎて、来もしないうちに手垢の付いてしまった「近未来」は、今、最も取り扱いの危ぶまれる素材かと思う。しかも後半、著者本来の調子で物語が展開しはじめると、公募によって作り上げられた「近未来世界」は「ま、それはそれとして」と置き忘れられる。何のための公募?また、物語の90%は、座り込んだ登場人物たちの対話によってのみ成立する、「お座談小説」である。帯に記された「武侠」に相応しいアクション場面は、終わり近くの実質数ペ−ジのみ。期待した分、読んでいてフラストレ−ションが溜まった。

 
  中川 大一
  評価:B
  2030年。情報化がぐいぐい進んで、社会は人と人との接触なしにまわるようになる。肥大するのはフィクションとしての現実、ヴァーチャルなリアリティ。それでもモニタの中に収まりきらないものは何か。匂い? 食欲? それとも友情? そう、前半はそんなことを考えさせる、静かな展開。それが後段、ドッカーンばりばりズバズバ路線に一気に突入。それまでの思弁的なタッチとの落差が、大きな爽快感をもたらす。奇天烈なキャラクターだけじゃなく、中年刑事の橡(くぬぎ)、平凡な14歳の葉月という、現代人の我々が同一化しやすい人物も出てくる。おかげでスッとこの無機的な都市へと入っていけるんだね。子どもっぽいカバーに後ずさりしてるご同輩、まあ読んでみてみ。750ページを一気読みですがな。

 
  唐木 幸子
  評価:B
  この新刊採点を拝命した時から恐れていた作家の一人が京極夏彦だ。デビューした頃、新作ノベルスが出るたびに分厚くなっていくのと、題名の漢字が難しくて読めないのと、どこかで見た著者の写真(夏なのに手袋していて・・・)に恐れをなして、遠巻きにして眺めているだけだった作家だ。だが、今回決心して手に取ってみたら、意外に読みやすいし話もわかりやすい。安堵しつつ読み進んだ。主人公の女の子達も皆、個性的で元気が良い。しかしなあ、21世紀半ばの未来都市が舞台なのだが、現在から50年も先の話にしては、あんまり先進技術開発が画期的に進展していない。少なくとも、私の予想とはかけ離れている。ゲノム解析が意外に医療には寄与しなかった?って、そんなことはないだろう。データベースの構築や対人関係(コミュニケーションの取り方)も、せいぜい、5年か10年くらいで達成されそうな技術進歩しか描かれていないように感じて少々、残念だ。

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