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  夏の滴  夏の滴
  【角川書店】
  桐生祐狩
  本体 1,500円
  2001/6
  ISBN-4048733095
 

 
  今井 義男
  評価:E
  前にも書いたが、私はホラーやミステリにリアリティなど不要だと思っている。嘘を嘘と感じる隙を与えなければそれでいいのである。従って、読んでいる最中に何度も違和感を覚えるような作品は失格と断定せざるを得ない。本書はなんと小学四年生の児童の視点で語られたホラーである。私は十歳の子供の日常をよく知らない。それを割り引いても、この小説はひっかかることが多すぎる。いかにも昨今の子供を象徴するアイテムを組み込んではいるが、それらは観察眼によって培われたものではなく、上っ面な情報を元にしたつぎはぎの産物としか思えない。さらに、致命的な欠点はストーリーそのものにある。ホラーに不可欠な要素は、読み手に得体の知れない不安を与えることである。本書にはそれが皆無だ。いっそ、主人公を含めた不愉快な子供の群像を主題にした方が、少しはナスティー・ホラーらしくなったことだろう。

 
  原平 随了
  評価:B
  主人公である子供たちの日常描写とその会話の瑞々しさに、まず驚いた。夏休みの気分、大人たちに対する反発や嫌悪感、町に何かが起こりつつある、その不安(期待)感などが切実に感じ取れて、前半部分は、ぐいぐいと惹きつけられて読んだのだが……、後半、長々と記述されたある文書以降、物語は、一気に荒っぽくなり、説得力に欠ける強引なラストには唖然となってしまった。前半から、唯一、〈いじめ〉に関する描写だけは違和感がつきまとっていて、その答えの出し方もまた、やはり、とても納得のできるものではなかった。それでも、この小説には、強烈な個性と抜群のセンスが感じられ、忘れ難い一冊となったことは確かである。

 
  小園江 和之
  評価:C
  まず最初の十頁くらいで、読むのやめよかな、って思ったんですが気を取り直して先へ進むとまあまあ面白かったんでした。ただですね、八重垣さんという少女を除いて、ほかのクソガキ全員が胸くそ悪いっていうか、こんな奴等なら殺されてもしゃーないかなって思っちゃうんですよね。だから、主人公の少年が追いつめられても、全然はらはらしないもんで、わたしゃ自分が案外冷血漢なのかと思っちまいました。そんでまあ、筋立ての核である『秘薬』に関する考証というのがあんまりにも安易なんで、そのあたりも不満でしたね。それと江戸時代のやくざさんが「こんな研究」なんて言いますかいな。文句ばっかしみたいですが、この胸くそ悪い読後感が著者の意図ならば大したものです。

 
  松本 真美
  評価:D
  バトル・ロワイアルよりずっとヤバいんじゃないの。ある意味、いっぱい「不毛死」するし、まとまりも底意地も気色も後味も悪いし。八重垣以外は、登場人物にも全然感情移入できなかった。ただ、妙にプライドの高い田舎の地方都市ってホラーの舞台にうってつけで設定には説得力あり。小野不由美の『屍鬼』も先月の『長い腕』もそうだけど、地方の共同体って、その尋常じゃない閉鎖性が独特の磁場を形成してて、何が起こっても「土地柄」の一言で納得させられそう…っていうかからめ取られそう。そこに、昨今の、これまた尋常じゃない親子関係が混入すれば、日常こそがホラーかも。イジメとか、障害者に対する過剰な理解っぷりとか、医療への偏った期待とか、病巣というか眼のつけどころは鋭いのだろうが、如何せん、読み心地悪かった。

 
  石井 英和
  評価:C
  やや話を広げすぎたせいで焦点がぼけ、ホラ−よりもむしろSFの方向に物語がはみ出てしまい、その分、恐怖味が薄れてしまった。気色悪くはあるが、怖い、という性質の話ではない。また、終幕にいたっての、「これはどういう物語だったのか」に関する説明的な長話の連発にはウンザリさせられてしまった。さらに、その長話の中に、著者の「論」が生な形で混じり込むのも興ざめだ。エンタ−ティメントを読もうとして、生硬な演説を聞かされるのはやり切れない。違和感を呼ぶのは、主人公たちは小学生という設定なのだがとてもそうは思えないあたり。完全に「中身はオヤジ」が、小学生という設定を成立させるために無理やりランドセルを背負ってみせている感じだ。さらに言えば、メインのアイディアは昔、梶尾真司が小説化しているのだが・・・

 
  中川 大一
  評価:B
  【ちびっとネタバレよ〜】HOP=天然の植物を利用して医薬品を作る。すんなり受け取れるアイデアだ。エイズ治療薬の素材を熱帯雨林に求める研究は現実にもあるしね。STEP=植物と人間との対応関係。ここに無理がある。怪しげな「植物占い」だけで、「松島君はイヌタデよ」、などといわれても真実味がない。全体のムードが怪奇SFならまだしも、リアリズムの手法で通しておいて、急にトンデモ系アクロバット回転というのはどうか。もっと擬似科学的な肉付けを施してほしかった。JUMP=〇〇を利用して××を作る。ふむふむ面白い。グロテスクでインモラルな描写も、それだけで読者を引っ張ろうとしてない、つまり必然性があるので了解できる。結論。STEPがちょっと横に流れましたけどB!

 
  唐木 幸子
  評価:C
  知らないで読み始めると、これは10代の人々向けの本かなと感じるくらい若々しい文章だ。しかも事件の舞台は小学校だし主人公は小学校4年生、9〜10歳の子供たちだ。だが中身はとんでもないぞ。単に残酷なイジメや血まみれや生首だけじゃなく、こんなこと書いても良いのかというような、誰かから文句が出なかったのかと言うようなタブーがてんこ盛り。ところが、読みやすいのでそれに気が付かないでついつい、さわやかに読み進んでしまう。ちっとも醜悪に感じないのだ。話の要素は京極夏彦と類似点が多いが、こちらの方がうんと残酷なのに明るい。・・・・・ということは私の苦手なファンタジーの要素が漂っているということで、面白さは認めるが点数は伸びなくて、C。

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