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  ホワイト・ティース  ホワイト・ティース
  【新潮社】
  ゼイディー・スミス
  本体 各2,200円
  2001/6
  (上)ISBN-4105900234
  (下)ISBN-4105900242
 

 
  今井 義男
  評価:D
  宗教上のしきたりとか、その民族固有の習慣から生まれた価値観を、我々の尺度で量ることは不可能というより無意味である。シナゴーグやラビを知らなければユダヤのジョークを楽しめないのと同様に、コーランに縁がない人間には、ムスリムの悩みも喜びも伝わらないし、原理主義者が少々羽目を外したからといってさほど滑稽ではない。さて、ジャマイカとイギリスとバングラデシュとインドをシャッフルした結果、発生する不協和音が極東の読者にどれほどの効果を与えることができたのか。作者はそんなこと端から念頭にないのだろうが、少なくとも私は、この小説の面白さを理解するまでには至らなかった。ときおり、はっとする瞬間もあるにはあるのだが、インパクトはすぐに雲散霧消する。ことに後半の散らかりようは、あたかも当方の忍耐力を試すがごとくであった。

 
  小園江 和之
  評価:E
  ロンドンの下町育ちの心優しい優柔不断男アーチーとバングラデシュ出身の男サマードとの腐れ縁から始まる、互いの家族間に生じた関係に振り回され、あたふたと動き回る人々の行状がだらだらと書かれてありました。たしかにアーチーの言うところの「みんなが何となく仲良くいっしょに暮らせればいいのに」って言葉は、イギリス人である自分と移民であるサマードとの半世紀にもわたる友情に根ざしたものなのでしょうが、彼等以外の人々においてはそうもいかないところが辛そうです。善良な人達同士なのに、拠って立つ所の違いでうまくいかないのは何でだ? ってあたりが主題なんでしょうか。それにしても物語としてあまりにも退屈。しかも無駄に長いんで眠くて眠くて……。

 
  石井 英和
  評価:A
  帯に「21世紀のディケンズ!?」とあり、「!?」が、出版側の戸惑いを物語っている。この「!?」を翻訳すれば「ディケンズ・・・と思って読んでいただけませんかねえ。そうでもしないと、ちょっと辛いものがあるかも知れないんスけど」となるのではないかと思われるのだが、な−に、「せ−かいはみんなアホなのら−。たりらりらん」で良いんじゃないですか、先生がた!インテリのヒトは、コケンにかかわるだろうけど。かっての「日の沈まぬ帝国」に回ってきたツケとしての、様々な民族やら文化やらが入り乱れる、めったくた状態のロンドン。著者は、時間空間を自在に飛び回りながら、その混沌を奔放にぶった切り、世界のすべてを笑いのめす。この「笑い」の提示がなければ、よくある「状況を鋭く切る」なる、実は単なる写生屋で終わってしまったところだろうが。

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