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  生は彼方に  生は彼方に
  【ハヤカワepi文庫】
  ミラン・クンデラ
  本体 980円
  2001/7
  ISBN-4151200088
 

 
  大場 義行
  評価:D
  著者の自伝的小説という事なのだが、ちょっと最後まで足場を見つける事ができずに終わってしまった。様々な有名詩人なんかを引き合いに出していたり、自作の良い詩が出てきたり、この辺りは面白かったのだけれども、なんだろうなあ。もしかすると、天才詩人を主人公にしている事に抵抗を感じているのかもしれない。自伝的小説って事は、自分の事を天才と言っているようなものでしょ。確かに凄い人のようだけど。それと、余りにも第三者的な書き方が、読者である自分を寄せ付けなかったのかもしれない。

 
  佐久間 素子
  評価:C
  訳者解説を読んで、はじめて知る凝った構成。「音楽的な配慮」だもの。解説を先に読んでいたら、挫折していたかも(笑)。ともあれ、みかけの割には読みやすい小説であった。しかし、分量の割には心に残るものが少なくて、書くことがあまりない。自伝的小説らしいのだが、若き詩人の自意識過剰ぶりは、『人間失格』の葉蔵と互角をはる勢い。彼我の差を比べてみるのも、また一興。気の滅入る作業ではあるけれど。他人の評価を前提とする自意識は、我が身の存在意義をふらふらになるまであやうくする。非凡のふりして、だましだまし世間をわたっていたヤロミールの行き着く先には、平凡な死が待ち受けている。皮肉な運命が滑稽で哀しい。

 
  山田 岳
  評価:B
  ハヤカワepi文庫のおかげで、本誌も純文学をとりあげるようになった(笑)。「社会主義下のチェコで」と語られることの多い作品ではあろうが、主人公ヤロミールのもつ残酷さ、独善性は古今東西、<若さゆえのバカさ>がもたらすもの。ドストエフスキー『罪と罰』のラスコリーニコフ、連合赤軍事件の永田洋子とも共通する。クンデラはドストエフスキーと違い、主人公を改心させることなく、肺炎で死なせる。主人公によって災厄に巻き込まれたすべてのひとの人生を<犬死>にさせるために。そのへんに著者の祖国への<怨み>がこめられているのだろう。評者としては、むしろ、文化人のスノッブさ、母から与えられた時代遅れの下着に嫌悪する少年の心理に、体制をこえた普遍性をかんじ、共感することができる、のだが。高校生・大学生諸君には、若さのもつ危うさをかんじとってもらいたい。ラストがわかりにくいのがちょっと難。

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