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   13階段
  【講談社】
  高野和明
  本体 1,600円
  2001/8
  ISBN-4062108569
 

 
  今井 義男
  評価:C
  ディテールがすごい。事実関係をよく調査している。本書を読めば現行の死刑制度のことが事細かに分かる。知りたくないけど別に。そのことと、ミステリとしての出来が全然関係ないところがつらい。こういう<カウントダウン物>にはもっともっと焦燥感があっていいはずである。無実を証明しようとする側と死刑囚との間に、何のつながりもないのが最大のネックだ。失うものが報奨金だけというのでは、身を切られるような痛みはどこからも伝わってこないし、死刑囚の存在感も稀薄である。素人がたった二人で、警察も見つけられなかった物的証拠を、短期間のうちに発見できるのかどうか。そのあまりに安直な推理と結果にはあ然とした。作者は一度でも土を掘り返したことがあるのだろうか。ウイリアム・アイリッシュの偉大さを改めて認識した次第である。

 
  原平 随了
  評価:C
  元刑務官と元受刑者が今まさに冤罪で死刑にされようとしている男を救うために走り回るという、ハリウッド映画っぽいお話なのだが、すべての謎がきっちりと収まるところに収まる、よく練られたプロットと、三ヶ月のタイムリミットが効果的で、国産ミステリーとは思えぬスピード感があり、死刑の是非という重いテーマを扱いながら最後まで飽きさせず、一気読みさせるおもしろさを持っている。ただ、二転三転するサスペンスが強調されているだけに、物語の進行に強引さが目立つし、リアリティの点でもちょっとばかり首を捻ってしまう。もっとも、一級のエンターテイメントにすることが作者の狙いだったのだろうから、それは確かに成功していると思う。

 
  小園江 和之
  評価:A
  ある男性死刑囚の冤罪を晴らそうとする中年の元刑務官と彼に協力する傷害致死で服役・仮出獄した青年が事件を再調査するうちに意外な真相が明らかにされていくわけですが、非常に緻密なつくりになっていながらほどよいスピード感があり、一気に読めました。サスペンス要素だけでなく、死刑に値する犯罪行為の基準が意外にあいまいだったり、ちょっとした行き違いで誰でも冤罪を被る可能性があること、死刑が執行される時期も国会開催時期や内閣改造によって左右されたりするなど、知らないことがたくさん書いてありました。さらに刑を執行する刑務官は大きなストレスを抱えて壊れていく者もいるのに、なぜいとも簡単に他人の生命を奪える人間がいるのか、またそういった人種に改悛の情というものが本当にあるものなのか、いろいろ考えてしまいました。やはり戦場以外で平然と殺人行為をし得るというのは普通ではないようです。

 
  松本 真美
  評価:C
  子供の頃から<社会>という言葉が不可解だった。抽象的で意味不明。会社の逆ってのにも違和感。ついでに言えば、小学生のときは、社会の窓も福島地区だけの隠語かと思ってた。…で、この小説だが<社会>派と呼ばれるのだろうな。死刑や冤罪を真正面から捉えようとする志はスバラシイし、お勉強にもなる。著者の写真を見ると、親切な従兄にそっくりだ。だから悪口は言いづらいのだが、読んでてワクワクしなかった。活字と自分の間に一定の距離を感じてしまった。なににつけ、一定の距離なんてものはクソくらえ!だ。ことに小説は、私の場合は一定とは対極の世界を求めるからこそ足を踏み入れるわけで、100%おちゃらけモードでテーマパークに行ったら、そこが世界地図か何かになってて「遊びながら<社会>科を学べて一石二鳥です」と言われたみたいなうざったさがある。地図を挿入するなら、遊んでいる間はそれと気づかないくらいの手口でやって欲しい。小説の中の<社会>にもそれを感じるときが多い。

 
  石井 英和
  評価:A
  記憶を失った死刑囚の無罪を証明する、しかも期限付きというサスペンスの王道を行く物語を、重厚に展開している。二転三転するスト−リ−に、手に汗を握りつつ読了。背後に存在する死刑制度を囲む状況とその考察にも深いものがあり、それはそのまま一つの文明論、人間論になっている。「正義」が、飲み下すには苦すぎるものとして描かれるあたりも納得できる。ただ、終盤の「ネタ明かし」に至り、この物語にここまで混み入ったカラクリが必要だろうか?と疑問を持ってしまった。登場人物相互の重層的な関わり合いが明らかにされ、物語に奥行きが出た代わりに、それまでの筋運びにあった重戦車のような疾走感が失われてしまい、惜しい気がしたのだ。この作品に「どんでん返しのためのどんでん返し」のサ−ビスなど不要だ。剛直一本槍で最後まで突っ走るべきだったろう。

 
  中川 大一
  評価:B
  口絵裏の「著者の言葉」は、言わばエンターテインメント至上主義宣言。怪談話やハリウッド映画に連なる路線を走り、芸術ではなく娯楽をめざす。おお、大歓迎。私ゃ純文学(死語か)はよく分からないし、半端な社会派小説など真っ平御免。読書は楽しくなくっちゃ。一読、著者の志は実現している。十分に練られたストーリー、丹念に張られた伏線。最後に起爆する、意外でかつ無理のない結末。だがあえて言うなら、すべての人物・小道具・エピソードが、話しを盛り上げるために勤労奉仕させられてる感あり。キャラクターのむこうに作者の作為が透けて見える。著者の意図せぬところに吹き出す「情」にこそ真の面白さが宿るのだとすれば、第一級の小説って、まっこと成り立ち難いものなんだね。

 
  唐木 幸子
  評価:B
  今年の江戸川乱歩賞受賞作だ。著者は30代後半とそんなに若くはないが作品からは初々しくも真面目な気配が感じられる。殺人罪で服役して仮出所中の純一が金に困って、刑務官・南郷に誘われて無実の死刑囚を救うための仕事を引き受ける・・・と書くと、日本が舞台ではかなり無理のあるストーリーではないかと感じられるが、文章が上手いので余り気にせずに最後まで一気だった。1冊の本として面白く読めたし、何より、純一が本当は一体どこまでの罪を起こした男だったのか、謎を含んだまま話が展開するのがサスペンスの雰囲気を高めている。しかし、読み終わってどこか得心行かない疑問も残った。例えば(詳しくは言えないが)、預金通帳の振込み人なんて通帳そのものがないとわからないもんじゃあないだろう。

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