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   ドミノ
  【角川書店】
  恩田陸
  本体 1,400円
  2001/7
  ISBN-4048733028
 

 
  今井 義男
  評価:A
  短いショットの切り替えが目まぐるしく、それぞれに大小様々な問題を抱えた人物が慌しくとっかえひっかえ登場する。最初は互いに接点などなく、普通なら読んでいて散漫になりそうなものだが、心配は無用である。そんな暇はない。恩田陸の達者な筆さばきはドタバタになる一歩手前で見事な収束力を見せつける。大都市東京だから成立する痛快な混乱劇である。大阪ではこうはいかない。人物の書き分けも明解で、各々が果たす役割も分かりやすい。スピーディーなプロットは結末まで寸分のたるみもなく、一気呵成に読み終えた。エンターテインメントはこうでなければ。生命保険会社のOL加藤えり子(23)と田上優子(22)のキャラはとても面白い。この二人をメインにして、ダイハードのようにシリーズ化してもらいたい。もちろん次の舞台は成田か海ホタルだ。

 
  原平 随了
  評価:B
  これは楽しい。東京駅とその周辺を舞台に沢山のキャラクターが入り乱れ、それまでまったく無関係だったはずの人々が、まるで何かに誘導されるように、次第にある一点に集中し、意外な関係が生じ、その関係の緊張感が限界に達した時、カタストロフィが訪れる。スラップスティック風に展開しながら、実は、緻密に計算され構成された物語のおもしろさ、楽しさ、痛快さのぎっしり詰まった贅沢な小説だ。また、いかにも恩田陸らしいマニアックな作品でもあり、このところの多作乱作に失望させられっぱなしだった恩田陸の久々の佳作のような気がする。

 
  小園江 和之
  評価:A
  見開きで登場人物がイラストで紹介されていますが、この27人と一匹がそれぞれの思惑で動き回っているうち、あれよあれよと騒動に巻き込まれていくお話です。各人がその目的に向かって真剣に突き進むほどドツボにはまっていくあたり、正統派スラップスティックと言えましょうか。とにかくスピード感たっぷりの展開ですんで、飽きる暇がありませんし、確信犯的に組み合わされた偶然もここまで徹底的ならケチをつけるのは野暮ってもんでしょう。重箱の隅をつっつくのは止めて、あえて著者の術中にはまってみれば、ジェットコースター感覚がたっぷりと味わえます。ラストのひねりも小気味よいです。登場人物の中で私が一番気に入ったのは田上優子さんです。彼女の天然勘違い体質って見ているぶんには実に可笑しい。おつきあいするのはまっぴらですけどね。

 
  松本 真美
  評価:B
  やっっっっぱり恩田陸は変わった。すっかりプロだ。今回は、タイトルどおり、あちこちから多数の人物と少数の動物が登場し、交錯しまくって最後は一気に一箇所になだれ込むいう、今までの彼女にないタッチ、しかもコメディだが、難なくクリアしてる。キャラの立ち具合も的確だし、展開のジェットコースターも適当、予定調和ぶりも適温、デフォルメも適度…とくれば、ソツがなさ過ぎて、ドタバタものとしてはつまらないほどだ。でも、陸ちゃんはソツのなさもイヤミにならないしつまらなくもない。人徳か。そこがまた、逆にある意味イヤミというか、面白みのなさというか…これじゃ堂々めぐりですね。とにかく、私にとって、過剰さと一種の危うさが恩田陸の大きな魅力だったから、今の彼女の揺るぎなさは複雑だ。この手の話なら、多少、破綻しててもいいから、もっともっとこっちを引きずり回して欲しかった。

 
  石井 英和
  評価:D
  う−む・・・なんだかパッとしない気分のまま読み終えてしまった。まあ、著者のやりたいことは分かる。互いに無関係の筈だった様々な人々の運命が偶然絡み合った結果のドタバタ・コメディを演出しようとしたのだろう。が、残念ながらコメディの割にはそれほど笑えないのだ。すべてがけたたましく上滑りで、状況のややこしさばかりが際立ってしまっている。読んでいて、笑う以前に疲れてしまうのだ。コメディを演出するには、ストイックなまでに抑制された放埒とでもいうべき微妙なバランス感覚が要求される筈なのだが、著者は自分の作品の行く末に余りにも楽天的になり過ぎ、コメディ状況を垂れ流し状態で描き出してしまったようだ。その結果、著者自身が面白がるほどには読み手の方は楽しくはないという、コメディにはありがちな困った結果となってしまった。

 
  中川 大一
  評価:B
  東京駅には出張で何十回となく出入りしてるが、いまだにどこがどうなってんのかちんぷんかんぷん。特に今回、丸の内側を何も知らないことが判明。今度この本に載ってる地図を見ながらウロウロしてみようかな。皆さま、そんな私(38歳男)を見かけたら是非お声がけください(爆)。さて本書、誇大広告とまでは言わないが、看板に偽りあり。この書名だと、たった一つのちっぽけなきっかけが次々と波状効果を及ぼし、大騒動に発展する話を想像する。だが実際には、ドミノが倒れはじめる場所はいくつもあるのだ。それでも羊頭狗肉というわけじゃない。羊頭豚肉か、羊頭牛肉か。つまりタイトルの印象は裏切られるが、別種の面白さがある。週末に、サクッと読んで、スカッとするのにもってこいだ。

 
  唐木 幸子
  評価:A
  話は生命保険会社の月末最終日の気ぜわしい営業部の風景から始まる。そして題名どおり、ドミノ倒しのように、それぞれ別個のドタバタ劇がよりによって嵐の日に連なって起こっていく。恩田陸にしてはアップテンポで始まるのだ。最初は関係がなかった人々が関わり合いもつれ合って菓子袋持って走り回って・・・最後はホンモノの爆弾は誰が持っていたんだっけ、とわからなくなってお手上げ。映画で言うと(別に言わなくても良いけど)、【48時間】と【ダイハード】と【スピード】を混ぜたようなスリルがいっぱいで一気読みだ。国会中継オタクの美人や下剤を飲まされても必死の演技をするオーディション常連少女、TV中継で失態を犯すキャスターなど、登場人物描写にも工夫が生きている。主人公のいない物足りなさは残るが、スピードのある小説は面白い、ということをつくづく感じる傑作だ。

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