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  泥棒はライ麦畑で追いかける
  【ハヤカワポケミス】
  ローレンス・ブロック
  本体 1,200円
  2001/8
  ISBN-4150017050
 

 
  今井 義男
  評価:A
  シリーズ物に途中乗車するのはこれで何度目だろう。私の場合、つい二の足を踏んでしまい、読み始めるまでに時間がかかる。どうせ読むのなら第一作目から読まないと気持ちが悪いのである。しかし、この<泥棒バーニイ・シリーズ>には予備知識なんか何もいらなかった。すぐに語り口の上手さに引き込まれたのだ。なんといっても翻訳ミステリの楽しみの一つである会話が面白い。とくにバーニイと友人のキャロリンに、レイという刑事のからむ場面が秀逸だ。事件は、素顔を明かさない有名作家の私信の争奪と、別件の宝石紛失がもつれた糸球のように絡み合う中で起きる殺人だが、私は途中で推理を放棄した。ミステリといっても色々な作風がある。本書は泥棒で探偵で古本屋という、得がたい肩書きを持つ人物の、行動を眺めているだけでも十分満足できる。してやったりの結末にも思わずニヤリ。訳文もいい。

 
  松本 真美
  評価:B
  元アル中のスカダーシリーズがずっと好きだった。が、最近、妙に枯れてきて物足りない。いくぶん軽めのこのバーニイシリーズの方が説教くさくなくていいや。…しっかし、なんでいっつも懇意の女に全てを語って聞かせるかな、ブロックの主人公達は。決まり文句大賞は「そんなことを誰が気にする?」に決定!スカダーもバーニイもこのセリフがやたら好きだ。内容は、サリンジャーを彷彿させる隠遁作家の書いた手紙をめぐるすったもんだ劇。そう、今回は劇っぽい。登場人物に複数の役者がいるし、場所も、ホテルと古書店と酒場でほとんど事足りる。最初から舞台化を想定か?個人的には、いくら著名人でもその手紙まで手に入れたい心理は気持ち悪い。でも、実際にライ麦で人生観変わったって話よく聞くし、だからこそ隠遁されるとやみくもに知りたくなるのね。隠遁、日本でいえば現役はいしいひさいちぐらいしか浮かばん。でも、彼のおかげでイチバン人生変わったのはやくみつるだな。コジローもか。…関係ない話でスミマセン。

 
  石井 英和
  評価:E
  いかにも気の効いた風な警句やらお洒落な会話やら「俺ってうまいよなあ」と自己陶酔する作家の顔が見えるような書き込みが延々と続き、やっと最初の死体が転がるのは物語が6分の1以上過ぎた頃。そこから一気に事態が進展するのかと期待したが、またもや古本屋の店内に座り込んでの会話が始まってしまう。事程左様に、このまま映像化すれば「徹子の部屋」になってしまうような、90%近くが登場人物二人の会話に終始する御座談小説。登場人物が「このような事態が進行しているのだ」と話し合う小説ではなく、事態の進行そのものを記した小説を読みたいのは私だけか?また、主人公を泥棒に設定してあるが、泥棒シ−ンに特に妙味があるでもなし、その設定を売りにしてしまったから辻褄合わせに泥棒させているとしか思えない。最後に置かれた感傷もどきも、わざとらしいね。

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