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   ジュリエット
  【角川書店】
  伊島りすと
  本体 1,400円
  2001/7
  ISBN-4048733052
 

 
  今井 義男
  評価:D
  のっけからこのタイトルに面食らい、不自然な状況と不自然な登場人物にとまどう。隔絶した環境設定にある作品を思い浮かべてしまい、特別な場所と犬の扱いにも、また別の作品を思い出してしまう。プロローグとエピローグにはますます混乱させられた。怪異を解釈してみせることで、作者が何をどうしたかったのかさっぱりわからずじまいである。ホラーは難しいジャンルである。作者の思惑と読者の期待が一致するなどということは、ないものねだりに等しい。注文が一つ。いったん提示した思わせぶりな小道具はちゃんと使い切ってほしい。それでなくてもホラーやミステリの読者は作中人物のちょっとした素振りや、隅に転がっている<物>が気になって仕方ないものなのだ。この作品では携帯電話と貝殻がそれである。随所で不安を構成する要素になり得ていただけに惜しい。余計なお世話かもしれないが、この新人作家はいま少しホラーから離れた方が面白くなりそうな予感はある。次回作が正念場。

 
  原平 随了
  評価:B
  鮮烈な出だしだ。覗きこんだ海底の砂の上に、主人公である中年男の亡き妻の顔が浮かび上がる。それは、海底に文字を書くという水字貝の仕業であるらしい。そんなショッキングな出だしで始る物語の導入部分が実に見事で、怪異の世界へぐいぐいと引きずり込んでいく描写に目を見張った。……ところが、そのパワーも、話が進むにつれ、何故か急速に萎んでしまう。描写されるイメージが散漫になり、物語から説得力が失せてくるのだ。また、ストーリーの骨格のみならず、ホラー部分のアイディアもまた実は著名な作品からの借り物であったことが判明する。冒頭の秀逸な描写に驚かされただけに、後半の失速は残念だが、しかし、次作がとても楽しみに思える作家ではあることは間違いない。

 
  小園江 和之
  評価:B
  ホラー小説大賞大賞受賞作ってことですが、はっきり言って怖くないです。それよりも南の島のジャングル、思い出の中だけに存在するはずのものたちが繰り返し現われながら、徐々に実体を得ていく、なんてちょっとファンタジックです。しかもそれらは決しておぞましいものではなく、むしろ懐かしく、いとおしいものたちだからして、主人公たちは怖がりながらも哀しかったり切なかったりしています。建物によどむ湿った空気や、気色の悪い蟲、流れる血液などなど演出を凝らしてはあるんですが、なぜかどろどろした感じではありません。なんというか、孤島版『異人達との夏』みたいでした。この著者、他の題材でも素敵なものを書いてくれそうです。

 
  松本 真美
  評価:C
  以前も書いた気がするが、他人の夢に付き合わされているような話は苦手だ。丸ごと鷲掴まれ、こっちまでおもいっきり<夢中>になれるなら別だが、章の最後に「そこで目が覚めた」が出てくるたびに脱力するような類は食傷気味。…最近、思いが濃すぎる小説が多くないか?濃くてもいいのだが、「真摯に書けば自分の思いは必ず他人にも伝わるはず!」と決めつけてるよな遮眼帯小説はど〜もな。伝わらないもんは伝わんねえよ。「行き場のない想いを抱えて死んだもの達がホロスコープのように立ち上がってくる不思議な磁場である島、そしてそこにやってきた心に傷を持つ家族の話」という設定は悪くないと思うのだが、もっとシンプルな構成の方が面白いし、ホラーとしても映えたと思う。せっかく、小道具の一部は思わせぶりでそそられるのに残念。

 
  石井 英和
  評価:B
  この作品を読むと、「心を病む登場人物」はホラ−作品には無用、との結論が出てしまうようだ。作中の「体験役」がクリアな視線を持っていた方が、登場する怪異がより際立つのは当然なのだが、それ以前に、この作品に登場する娘の心の病み様は、恐怖を育むよりも物語の進行をうっとおしいものにする方向にしか作用していない。醸し出すものが「不快」であって恐怖ではないのだ。また、地震体験による心の傷、といった心理描写もくど過ぎ、煩わしく感じた。物語の中心に、ストレ−トに「恐怖」を据えるべきだったろう。(全体にスティ−ヴン・キングの悪影響を感ずる・・・)等々、不満に感ずる部分もあるのだが、それでも納得して読まされてしまったのは、なかなかに魅力的なアイディア「貝の魂抜き」や島の自然の描写、そして著者の文章力だろう。無駄に長くないのも良い。

 
  中川 大一
  評価:C
  「揺れる 揺れる 揺れながら」「振り向く/振り向く/振り向いて」。繰り返しを多用する独特の文体が、不思議なリズムを刻む。冒頭に登場するのは不気味な水字貝。ホラーのオープニングとして期待させる。だが、そこから330ページ(つまりほぼ終わり)まで中だるみが激しい。言葉を繰り返すのはいいが、話しを繰り返すのはやめてくれえ〜。それに、開幕の雰囲気からすると、得体の知れない恐怖こそ本領のはず。少女の自傷行為やずるねちゃ系軟体動物は全体のトーンに見合わないのではないか。巻末の選評を読んでみると、うーむ、日本ホラー小説大賞は、本作と言うよりは作家、それも将来性を買って授けられたものではないのか。それはそれで文句ありませんが、作品単体でいうなら、ま、Cが妥当かなと。

 
  唐木 幸子
  評価:C
  本作を読めばどうしても思い浮かべてしまうなあ、S.キングの【シャイニング】を。あの鬼気迫るジャック・ニコルソンの顔を。ということは、そのくらいの狂気と緊張感が満ちた世界を、この作者は作り上げているということだ。これは日本ホラー小説大賞を受賞した作品なので、あちこちで書評を目にしたが、何れも、後半を誉めるものが多かったように思う。私の感想はまったく逆だ。前半は何事かが起ころうとする雰囲気があって引き込まれるものを感じたが、後半、延々と続く決まった文体の繰り返しは読みづらい。先月の課題本の『夏の滴』の方がぎょっとするような瞬間が続いて最後まで飽きずに読めた。本作のような幽霊話ホラーの方が正統的なんだろうけれど、私はやはり、ミステリーやサスペンスの要素が少ないと物足りない。

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