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  25時  25時
  【新潮文庫】
  ディヴィッド・ベニオフ
  本体 629円
  2001/9
  ISBN-4102225218
 

 
  大場 義行
  評価:B
  麻薬の売人が主人公=マフィアとのからみ=どんぱち、という本を読みすぎている自分には、とにかく新鮮だった。だってどんぱちゼロ。というか刑務所に入る最後の一日、主人公は何を考え、友人は何を感じ、恋人はどうするのか、淡々と綴ったものなのだもの。こんな所に目をつけたのかと、驚いてしまった。しかも、最後の数ページはちょっと忘れられないかも。ここまで印象的な語りは無いんじゃないかなあ。現代アメリカ文学恐るべし。ハードボイルドばかりじゃなくて、ちょっとこういう特殊な翻訳物を読むのもいいものだ、という典型的な作品だったよ、ベニオフ。

 
  操上 恭子
  評価:A+
  この本をずっと読んでいたくて、読み終わってしまうのが嫌で、ゆっくりゆっくり読んだ、途中から。どんなふうに終わのか、モンティがどうなってしまうのかはとても気になったけれど、それでも読み急ぐのはあまりにもったいなくて、ゆっくりとページをめくった。その気分は読み終わった今でも続いている。こんな終わらせ方があったなんて。大雪のニューヨークという幻想的な背景。決してお涙頂戴ではない。静かな感動。いや感動という言葉も当たらないかも知れない。「こんな人生もあるよなあ」と心の片隅で納得するような感じ。さりげなく、ごく自然にそこここに挿入される回想シーンで、読者はモンティの今までの人生のすべてを知ることになる。計算され尽くした作者の技なのか、たまたまツボに入ったのかはわからないけれども。出だしのあたりでは、ちょっと文学臭が鼻につくが、すぐに気にならなくなる。絶対お勧め。

 
  小久保 哲也
  評価:B
  とにかく会話に驚いた。この訳者は、なかなか面白い。「ていうか、聞きたいことがあるんだけど」という会話文には、ほんとに驚いた。ティーンズ系ではない作品で、「ていうか」という言葉を読んだのはこれが始めてだ。しかも邦訳である。もとの英文がどうなっているのか、とても興味深い。流行の言葉を作品に載せるのは、たしかにリスキーなのだけど、それだけに効果的に使われたときは、素晴らしい。作品自体は、主人公たちの一日を上手に切りとって、過去から現在までを、見事に描いて見せてくれている。確かに話題になりにくい、静かな作品である。 が、こういう作品は広く読まれてもいいと、思う。ぜひ御一読を。

 
  佐久間 素子
  評価:A
  解題に青春小説とある。モンティは27才だ。青春小説の主人公としては、ちょっとトウがたちすぎているかな、とも思う。でも、これは青春の最後の一日の話で、現代の都会ならジャストな設定なのかもしれない。地球が終わるわけでもない、不治の病に侵されているわけでもない、モンティは麻薬密売の罪で24時間後に刑務所収監をひかえているのだ。最後?大げさな、と思うなかれ。若く美しいモンティが、刑務所の中で無事7年の刑期をつとめられるわけはないのだ。友達と恋人と家族と愛犬とすごす一日は、苦しみにみちている。本人ばかりではない。カリスマをもつモンティの「最後」にみな動揺している。あきらめきれない苦い思いが痛い。青春は年じゃなくて気の持ちようだなんて、大笑いだ。人生いつでもやりなおしができるなんて、うそっぱちだ。取り返しのつかない自分の来し方行く末をじっとみつめるモンティの姿の切ないことよ。戦慄のラストにしばし呆然となり、その後どっと涙が出ちまった。

 
  山田 岳
  評価:B
  最後のパーティーが終わったあと、高校の同級生だった3人が、とぼとぼと夜明けのNYを歩いていく。折からの雪で、彼らのあとには3組の足跡がのこされている。ひとりはこれから刑務所にむかわなければならない。あとのふたりは、犯罪に手を染めていく友をどうして諌められなかったのかと悔やんでいる。美しくも悲しいシーン。アメリカ人はおセンチが嫌いだ。このシーンをさりげなく描くために、著者はお膳立てとして、刑務所へむかう主人公モンティがいかにタフな男だったかとえんえんと書きつらねる。そして最後の「夢」。マーチン・スコセッシ監督にも、もしキリストが生き長らえていたらという内容の映画(タイトルは失念)があったが、発想としてはおなじであろう。

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