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  紙の迷宮  紙の迷宮
  【ハヤカワ・ミステリ文庫】
  ディヴィッド・リス
  本体 (各)760円
  2001/8
  ISBN-4151728511
  ISBN-415172852X
 

 
  佐久間 素子
  評価:B
  1719年ロンドン。冒頭から、猥雑な都会の雰囲気と、何か起こりそうな予感がぷんぷんと漂っているのである。慣れ親しんできた「物語」のにおいがする。やったあ、当たりだ!と飛び込んでみると、何とこれ、経済小説なのだ。上巻の半分くらい読んだところで、それが判明してひるんでも(経済オンチなのだ)、もう渦中の人となって引き返せない。それで正解。経済オンチでも十分楽しめた。そして、たぶん毎朝、日経を読むような人でも楽しめるはず。本書で語られるのはバブル崩壊前夜。我々の経験よりは単純で、劇的で、わかりやすくみえるが、きっと本質は同じだから。「われわれは約束と約束を交換し、その約束は一つとして果たされない」、そんな約束に踊らされる人間の話だから。

 
  山田 岳
  評価:B
  おなじ英語をつかっていながら、イギリス人とアメリカ人では小説の書き方がまったく違う。夏目漱石と村上春樹くらいに。イギリスの作家は、情景を事細かく描写し、登場人物の心理状態をたんねんに描いていく。ふつうの人はこんなことまで考えてへんで、とツッコミのひとつも入れたくなるほど。著者のディヴィッド・リスは、アメリカ人ながら、イギリスの文体をわが物とすることに成功したようだ。ときは18世紀、ロンドンは、あたらしくはじまった株の売買に活況を呈していた。そこへおこる南海会社の株券偽造事件。調査員のウィーヴァーは、父殺しの犯人をさがすうち、金融界の一大スキャンダルにまきこまれていく。クライマックスが近づいて、著者の気がゆるんだのだろうか。描写が映像的なものにかわり、アメリカ人の(ブッシュ大統領も)大好きな<暴力による解決>へとつきすすんでいく。「なぜ逮捕状を求めなかったのだね?」という判事のことばは、書いていて、じぶんで虚しくならなかったのだろうか?

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