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  指揮官たちの特攻  指揮官たちの特攻
  【新潮社】
  城山三郎
  本体 1,400円
  2001/8
  ISBN-4103108126
 

 
  石井 英和
  評価:B
  「同時多発テロ事件」の報道を横目に読み終えた。初の特攻を行った者、最後の特攻を行った者・・・あの悪夢のような作戦の発動により、身をもって最終兵器と化すことを余儀なくされた人々の送った日々を、深い悲しみと怒りを込めつつ描いた書。逝ってしまった者たちへの鎮魂の書だ。それら人々と同じ時間を生きた著者の想いは重く、丁寧にその想いが折り込まれた文章を追って行けば、こちらが発するべき言葉も見当たらないような気がする。が、それでも言わねばならないだろう。その想いを持ってしても、やはりすべては美化されてはならないと。作戦は愚劣で、人々の死は無意味で、アメリカ人が桜花に付けた「バカ爆弾」の綽名はやはり妥当なのだ。著者が祈りを持って筆を置いてしまった以上、逝ってしまった人々がもう語りだせない以上、愚行への怒りのバトンは我々が受け取るしかない。

 
  今井 義男
  評価:C
  大戦末期、中国大陸の山中で無謀な作戦行動が敢行された。兵站を絶たれたまま進軍を命じられた指揮官は、当時の大本営を指して《馬鹿の三乗》とはき捨てる。それは到底作戦などと呼べるようなシロモノではなく、部隊は壊滅する。皇軍の辞書には玉砕の二文字しかなかったのだ。この事実を如実に示している
のが特攻である。神風を筆頭に、人間魚雷・回天、人間ロケット弾・桜花……。よく次から次へとこんな非人間的な戦法を考え出すものだ。人間機雷・伏龍に至っては極めつけの無残さに言葉も失う。狂気の沙汰である。西村寿行の小説に、飛び立った特攻機がUターンして司令部に突っ込むシーンがあった。史実
かどうか知らないが、分かる気がする。本書は悲惨な内容にも関わらず読みやすい。ちょうど博物館の展示品を眺めているかのような手軽さだ。そこが物足りなくもある。

 
  唐木 幸子
  評価:B
  イスラム教徒のテロと違って、日本人の特攻隊とは何と悲しいんだろう。特に本書で初めて知ったが、『桜花』という特攻兵器のむごさと、その無力さにはあきれ果てる。怒りを通り越して余りに情けない。ろくに動かせもしない操縦桿つきのロケット弾に乗り込んで発射されるのだ。誰がそんなものに乗らされたのだ。ましてや『桜花』を積んだ飛行機は重くて動きが悪く、発射前に機体ごと撃墜されることも多かったという。風船爆弾のほうがどのくらいマシなことか。・・・・・という読後の感想を私が持ったことからもわかるように、本書は決して特攻精神を美化していない。しかし、淡々と書かれてはいるものの、そうして死んでいった若い健康な男たち(10代からせいぜい20代前半だ)に対する思いが余りにも強すぎて、この著者にしては多少、感情過多で読みにくい感じがした。

 
  阪本 直子
  評価:A
  神風特別攻撃隊。自爆テロ以下だ。何度もそう思わされた。国家間の戦争における戦闘行為を無差別テロなどと比べるな? そりゃそうだ。だけどこの本に出てくる大日本帝国軍の有様ときたら、緻密さもなければ狡猾さもない、本当にあのテロリスト達の足元にも及ばないんだよ。攻撃成功のための作戦なんかない。掩護機の数も揃えずただやみくもに出撃させて、結局全機が撃墜されてしまう。無意味。愚劣。こんな「作戦」で、本書の主人公達以外にも数え切れないほどの青年が死んだ。いや、死なされたのだ。著者はその有様をむしろ淡々と綴っていく。怒りを前面に押し出すのでもないし、帯にある「哀切」というのもちょっと違う。ひたひたと伝わってくる悲しみに湿っぽさはない。静かだけれど力強い。AAでもよかったんだけど、全編文章のみという作りで減点。帯に主人公達の顔写真はあったけど、それ以外にも人間爆弾「桜花」や爆撃機「彗星」の図も欲しかった。

 
  中川 大一
  評価:A
  玉砕? こ、これが玉砕? これは単なる犬死やんけ。いやいや、亡くなった方の魂を辱めるつもりは毛頭ない。むしろ、本書を読んだいま、敬意を表したい。しかし、いくらなんでもあんまりではないか。戦争が終わってるのにそれを知らされず、爆弾抱えて飛び出して、燃料がなくなって米軍基地の「近く」に墜落して死ぬなんて。人間爆弾に神風特攻隊? 確かに、大義のために死す、そんな人生はあるし、それが輝いているとも言いうるだろう。だが、これらの一体どこを探したら「義」があるのだ。しかも、しかも、しかも、(別のケースだけど)上官はちゃっかり逃げ出しておるのだ! 犬死を犬死にしないための方途は一つ。こんなことは二度と繰り返してはいけない。凡庸だが、それ以外の感想は何もないのだ。

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