実は全然期待しないで読み始めたのだが、これが意外に面白かった。日本で大ヒットした「Shall
we ダンス?」を携えて映画大国アメリカの各地を巡業してまわったという、とても貴重な体験のドキュメントではあるのだけれど、それよりも、アメリカと日本の文化や考え方の違いや、それぞれの地域ごとの特色、日本を離れた日本人の想いなどの紹介という側面の方が興味深かった。作者の視点で実にリアルに紹介されている。さすが映画監督だけあって、出逢った人間を冷静に観察して、生き生きと描写している所が素晴らしい。作者の感覚や考え方には必ずしも共感できるとは限らないものの、「まったくアメリカ人って奴は……」と納得できる部分も少なくない。
大ヒット邦画の『Shall we ダンス?』全米公開までのドキュメント。配給会社ミラマックスとの交渉は、ほとんど戦いだし、全米十八都市を回るキャンペーンは、大げさにいっちゃえば、異文化との遭遇だ。たかだか5年前の話だよ?しかもアメリカ。最初は笑える勘違いや偏見も、度重なると段々不気味になってくる。映画そのものが受け入れられていく様子に、本気で安心してしまった。邦画が珍しいもんだから、日本を背負って立つ映画というような理解をされてしまって、著者(監督)は何度もうんざりしているが、誇るだけの功績はあると思う。読み物としては、キャンペーン日記が長すぎて、ちょっとつらかった。悪口が下手なのも不愉快なようなほほえましいような。
山田 岳
評価:E
むかし、クリーム(イギリスのロックバンド)が解散の理由を尋ねられて、「みんなアメリカが悪いんだ」と答えたことを思い出した。映画『Shall
we ダンス?』監督のアメリカ・プロモーション・ツアー体験記なのだが、周防監督もまたクリームの3人とおなじ苦しみを味わっている。強行スケジュール、時差ぼけ、気のきかないエージェント、おなじ質問の繰り返し、しょうもない日本への偏見と誤解、量は多いが味付けのひどい食事等々、タフであることを要求するアメリカ社会は、繊細な人間の心に平気でやすりをかけていく。週刊誌の連載記事としては、すいすいと読めて、それなりにおもしろくはあるが、これが1冊の本になると、だんだんしんどくなってくる。はじめは、日米文化摩擦体験記としても読めるが、「がさつでいいかげんなアメリカ人」に「カメラを構えてみせてウケをねらう監督」の構図のくりかえしに、うんざりしてしまうのだ。アメリカでの映画評など、なかなか興味深い資料もおさめられてはいる。「ミラマックスがカットしてきたシーンと僕の見解」は、何が何でも映画を2時間以内に収めようとするミラマックス(アメリカでの配給会社)と「そんなところで切ったら、わけのわからん作品になる」と悲鳴をあげる周防監督とのせめぎあいの具体的検証。「こんなとこまで切るんだよ」という監督の言い分はわかるけど、「くりかえしの手法を無視している」「2時間を越えない再編集案をじぶんで出したら通った」と本文に書いてあれば彼らの再編集に対する<ポリシーのなさ>も充分伝わってくるというものだ。巻末のおまけでよかったのではないか。