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  『Shall we ダンス?』アメリカを行く  『Shall we ダンス?』
        アメリカを行く

  【文春文庫】
  周防正行
  本体 638円
  2001/9
  ISBN-416765606X
 

 
  石井 千湖
  評価:B
  何より周防監督の「わかるように伝える」ことへのこだわりに感銘を受けた。こむずかしくて眠い芸術映画より断然理屈抜きに楽しめるほうが好きなので。日本映画は駄目だというひとも多いけれど、業界の体質にも問題があるのだろう。たとえアメリカで映画がヒットしたとしても監督には何の権利もなく、お金も入らないなんて初めて知った。監督自らプロモーションして、アメリカで日本映画最大の観客動員数を記録しても、手に入るのは名誉だけ。それなのにまずい料理とアメリカの配給会社の目茶苦茶な要求にもめげずに辛抱強く交渉していく姿勢がいい。ものをつくってそれで終わりだったらただの趣味。きちんと自分の作品を売ってこそプロだと思った。

 
  内山 沙貴
  評価:C
  青い海の上を小さなボートで軽快に放浪する、素敵な船乗りのような監督の日記である。映画に対して、モノを人に伝えることに対して、すごく誠実であり親切であり、著者は本当に映画作りが好きなのだなあと実感できる。ただ、日記としては非常におもしろいのに全体の量が膨大すぎてこの日記の細部は完全に著者のあずかり知らぬところで宙ぶらりんになってしまっている。もったいない。これでは一部マニアを除く一般人には暇つぶしにしかならない。そんなところが残念だったがしかし、いろんなあったかいモノが心の中に流れ込んでくる、素晴らしい作品であった。

 
  大場 義行
  評価:B
  本の面白さの一つに、全く知らない何かを見させてくれるというものがある。と、思う。それから言えばこの本は、知られざる日本映画界プラスハリウッド映画界を垣間みせて戴きました。ワケの判らない理由をつけてとにかくカットしてきたり、ファーストルックというものがあったり。あと、権利は全部持っているけど何もしない日本映画界。いやもう映画は好きだけれども、中を知らない自分には楽しめた。それと、ハリウッドと映画契約するという、とにかく限られた人以外には、絶対的に役に立たない本という所も気にいっている。この役に立たないというのも、本のおもしろさの一つだと思うのだが。

 
  操上 恭子
  評価:B+
  実は全然期待しないで読み始めたのだが、これが意外に面白かった。日本で大ヒットした「Shall we ダンス?」を携えて映画大国アメリカの各地を巡業してまわったという、とても貴重な体験のドキュメントではあるのだけれど、それよりも、アメリカと日本の文化や考え方の違いや、それぞれの地域ごとの特色、日本を離れた日本人の想いなどの紹介という側面の方が興味深かった。作者の視点で実にリアルに紹介されている。さすが映画監督だけあって、出逢った人間を冷静に観察して、生き生きと描写している所が素晴らしい。作者の感覚や考え方には必ずしも共感できるとは限らないものの、「まったくアメリカ人って奴は……」と納得できる部分も少なくない。

 
  小久保 哲也
  評価:B
  普段からアメリカ人と仕事をする機会が多い人なら、本書を読んでうなずける場面が多いのではないでしょうか?契約のこともそうなら、それぞれのインタビューにしても実にアメリカ的。現実的というか、細かいというか。映画の中の、ほんの少しの違和感でも、なんとか理屈を付けて納得しようとする彼らの姿勢は、時には鬱陶しいと思うけれども、いろいろな見方を教えてもらえて感心することも多い。それにしても、日本の監督の地位がとても低いのには驚いてしまった。もしかして、同じように作家の地位も、日本は低いのでしょうか?気になります。

 
  佐久間 素子
  評価:C
  大ヒット邦画の『Shall we ダンス?』全米公開までのドキュメント。配給会社ミラマックスとの交渉は、ほとんど戦いだし、全米十八都市を回るキャンペーンは、大げさにいっちゃえば、異文化との遭遇だ。たかだか5年前の話だよ?しかもアメリカ。最初は笑える勘違いや偏見も、度重なると段々不気味になってくる。映画そのものが受け入れられていく様子に、本気で安心してしまった。邦画が珍しいもんだから、日本を背負って立つ映画というような理解をされてしまって、著者(監督)は何度もうんざりしているが、誇るだけの功績はあると思う。読み物としては、キャンペーン日記が長すぎて、ちょっとつらかった。悪口が下手なのも不愉快なようなほほえましいような。

 
  山田 岳
  評価:E
  むかし、クリーム(イギリスのロックバンド)が解散の理由を尋ねられて、「みんなアメリカが悪いんだ」と答えたことを思い出した。映画『Shall we ダンス?』監督のアメリカ・プロモーション・ツアー体験記なのだが、周防監督もまたクリームの3人とおなじ苦しみを味わっている。強行スケジュール、時差ぼけ、気のきかないエージェント、おなじ質問の繰り返し、しょうもない日本への偏見と誤解、量は多いが味付けのひどい食事等々、タフであることを要求するアメリカ社会は、繊細な人間の心に平気でやすりをかけていく。週刊誌の連載記事としては、すいすいと読めて、それなりにおもしろくはあるが、これが1冊の本になると、だんだんしんどくなってくる。はじめは、日米文化摩擦体験記としても読めるが、「がさつでいいかげんなアメリカ人」に「カメラを構えてみせてウケをねらう監督」の構図のくりかえしに、うんざりしてしまうのだ。アメリカでの映画評など、なかなか興味深い資料もおさめられてはいる。「ミラマックスがカットしてきたシーンと僕の見解」は、何が何でも映画を2時間以内に収めようとするミラマックス(アメリカでの配給会社)と「そんなところで切ったら、わけのわからん作品になる」と悲鳴をあげる周防監督とのせめぎあいの具体的検証。「こんなとこまで切るんだよ」という監督の言い分はわかるけど、「くりかえしの手法を無視している」「2時間を越えない再編集案をじぶんで出したら通った」と本文に書いてあれば彼らの再編集に対する<ポリシーのなさ>も充分伝わってくるというものだ。巻末のおまけでよかったのではないか。

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